療育手帳とは、知的障害者に発行される障害者手帳で、知的障害のある方が一貫して療育・援護の支援を受けられるよう、様々な制度やサービスの利用をしやすくすることを目的とされ、都道府県・政令指定都市によって発行されます。療育手帳を取得することで、さまざまなサービスや割引・給付が受けられるほか、教育を受けたり就労するにあたり配慮や支援を受けやすくもなります。地域差が大きく実態が見えにくい療育手帳について制度からメリット、申請の方法まで解説します。
療育手帳とは
療育手帳制度は、法律で定められた制度ではなく、「療育手帳制度について(昭和48年9月27日厚生省発児第156号厚生事務次官通知)」というガイドラインに基づいた制度であり、身体障害者手帳や精神障害者保健福祉手帳と違って法令上に規定がありません。都道府県・政令指定都市ごとに要綱などを制定して実施されているため、各自治体ごとに制度を独自に作った結果、手帳そのものや受けられるサービスを含め、地域によって違いや差があります。ポイントをまとめました。
- 発行される自治体によって取得方法から受けられるサービス、給付など異なる
- お住まいの自治体ではどのような制度なのか、具体的な内容はそれぞれの福祉担当窓口に問い合わせる必要あり
全国的には「療育手帳」と呼ばれていますが、「愛の手帳」(東京都・横浜市)、「みどりの手帳」(埼玉県)、「愛護手帳」(青森県・名古屋市)など違う名称をつけている自治体もあります。
参考 厚生労働省:療育手帳制度の概要
療育手帳の対象と、その区分と判定基準
療育手帳取得の対象は下記の通りです。
- おおむね18歳以前に知的機能障害が認められ、それが持続している。
- 標準化された知的検査によって測定された知能指数(IQ)が75以下。(70以下に規定している自治体もある)
- 日常生活に支障が生じているため、医療、福祉、教育、職業面で特別の援助を必要とする。
上記目安に従い、18歳未満は児童相談所、18歳以上は知的障害者更生相談所において知的障害と判定された方に対し交付されます。
療育手帳の程度区分と判定項目
各自治体がそれぞれの判定基準に基づき知能検査による知能指数(IQ)と日常生活の様子などから、知的な障害の程度を総合的に判断し区分が分けられます。基本的には重度「A」と重度以外の中軽度「B」の2つの区分です。より細かく区分している場合など、自治体によって等級の分け方(自治体別一覧:東京大学大学院経済学研究科 READ)も様々です。
程度区分については、基本的には知的障害の程度によって分けられます。自治体により併せて本人の年齢によって変わりますが、おおよそ以下の基準を目安に判定されます。ただし、これらは判定基準の一部分について例示したものであり、最終的には総合判定により障害の程度が決定します。取得の判定項目や基準は、年齢によっても変わること、特に18歳未満の児童は年齢に応じて判定の項目も変わります。異なった基準で度数を決定するので、同じ度数でも年齢により異なった状態になる場合があります。
程度区分
■重度(A)
・最重度
・重度
■軽度(B)
・中度
・軽度(B/B2/4度など)
年齢による判定項目
東京都の場合(愛の手帳) |
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0~6歳未満、6~18歳未満、18歳以上で判定項目や基準が分かれ、人の状況に応じて判定される |
療育手帳の申請方法とは
実際に申請する場合の主な申請の流れと必要書類は次の通りです。細かい点は自治体によって異なりますので、申請される際には福祉担当窓口に問い合わせてください。
申請に必要な書類
- 療育手帳交付申請書(自治体の福祉事務所・福祉担当窓口またPDFのダウンロードや郵送での取り寄せができる場合もある)
- 写真
- 印鑑
- その他添付書類(通知表、成績証明書、医師による診断書などが必要な場合もある) など」
申請の流れ
- 市区町村窓口へ行き相談する
- 判定の予約を取る(電話予約の場合が多い)
- 判定(面談・聞き取り調査)
- 交付・発行
市区町村窓口へ行き相談する
説明を受けた後必要書類を受け取りましょう。
判定の予約を取る
電話予約の場合が多い
判定(面談・聞き取り調査)
知的障害の判定を受けるための予約を取ります。18歳未満の場合は児童相談所で、18歳以上の場合は知的障害者更生相談所での判定となります。東京都の場合、18歳未満の方は児童相談所、18歳以上の方は東京都心身障害者福祉センター又は多摩支所での判定。
判定には本人に加え、家族の方などご本人の小さい頃の様子を説明できる方が同行する必要あり、該当するような人がいない場合は当時の情報を集め、福祉事務所等の担当者が判定の立ち会うことがあります。
交付・発行
判定から約1ヶ月後に郵送などで通知されます。
また何年かに一度、年齢更新の判定を受ける必要があります。これは知的障害が障害の程度が変化しやすいことによるものです。東京都の場合、年齢更新の判定を3歳、6歳、12歳に行います。療育手帳(愛の手帳)を確認し、更新を行ってください。
参考 厚生労働省:療育手帳制度の実施について
療育手帳の交付によるメリットとデメリット
手帳は必ず交付を受けなければいけないものではありませんが、療育手帳の交付による具体的なデメリットは特にありません。しかし、療育手帳が知的障害者の証明であると捉え、申請に心理的なハードルを感じる人やその家族、また交付をうけることで知的障害者であると認定された感じたり、重度の区分に認定されることで落ち込んでしまう人も少なくはありません。
療育手帳の交付におけるメリット
療育手帳の提示で様々なサービスが受けられます。以下に代表的な割引やサービスをご紹介します。自治体によって受けられるサービスも変わります。
- 各種サービス・割引
- 給付・税の減免や控除
- 保育・教育面の支援が受けられる
- 就労に向けての支援が受けられる
各種サービス・割引について
公共交通機関の割引
JR等鉄道運賃の割引、減免 |
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療育手帳の提示でJRの運賃及び普通急行料金が割引(5割引)、その他割引になる鉄道会社が数多く対応。 |
航空運賃の割引 |
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JAL・ANAでは航空割引の押印がある療育手帳を持っている場合、既定の「身体障がい者割引運賃」が適用 |
バス、タクシー運賃の割引 |
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各バス会社で障害者割引運賃が設定されており、手帳の提示で適用。また介護者にも適用される場合もあり。タクシー運賃も手帳の提示で1割引きになるタクシー会社が多くあります。 |
郵便料金の減免
点字郵便物、特定録音物等郵便物(3kg まで) |
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無料※特定録音物等郵便物は、日本郵便株式会社が指定する施設の発受するものに限る。 |
心身障害者団体が発行する第三種郵便物の承認を受けた定期刊行物(1kg まで) |
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毎月3回以上発行の新聞紙50gまで8円、その他50gまで15円 |
各種施設のサービス・割引
レジャー・スポーツ施設 |
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遊園地やプールなどのレジャー施設には、療育手帳を持っていると無料になったり割引が受けられる施設があります。また、利用がスムーズになるよう配慮やサービスを受けられる場合もあります。 |
美術館・博物館・動物園など |
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療育手帳の提示で無料になったり、割引が受けられる施設も多くあります |
映画館 |
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療育手帳の提示で障害者割引価格が設定されている映画館もあります。 |
駐車場 |
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料金の割引や無料での利用ができる駐車場もあります。 |
各種料金の割引・減免
NHK放送 |
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受信料の全額又は半額が免除されます |
NTT |
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ふれあい案内(電話番号案内)の利用料が無料になります。 |
その他
障害者医療費の助成 |
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療育手帳の区分によっては、障害者医療費の助成制度の対象となる場合があります。障害者医療費の助成制度とは、重度障害者の方が医療機関等で診療を受けた際の医療費の一部を助成するものです。 |
災害時の支援 |
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災害発生時に1人で避難することが困難な高齢者や障害のある方に対して、地域の人の協力の中で、安全かつ速やかに行われる支援体制を構築するために「災害時要援護者支援制度」を実施している自治体が数多くあります。療育手帳の区分などの条件を満たせば、この制度の対象者となることができます。 |
給付・税の減免や控除について
療育手帳は、金銭面でのサポートも受けるためにも有効です。療育手帳を持っている人が対象になりうる制度は下記の通りです。
- 税制上の優遇措置(障害者控除・税の減免)
- 手当の給付
各項目についてまとめてみました。
税制上の優遇措置(障害者控除・税の減免)
療育手帳の交付を受けている人で障害の程度がAと表示されている人は特別障害者、B(またはC)と表示されている人はそれ以外の障害者として障害者控除の適用を受けることができます。年末調整や確定申告時に忘れずに申告しましょう。
- 所得税の控除
- 住民税の控除
- 相続税の障害者控除
- 自動車税・軽自動車税の減免、自動車取得税の減免
- 預貯金が非課税の対象となる(マル優、特別マル優)
参考 国税庁:障害者と税、障害者控除、東京都主税局:自動車税・自動車取得税の減免制度
所得税の控除 |
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納税者本人が障害者であるときは、障害者控除として27万円(特別障害者のときは40万円)が所得金額から差し引かれます。控除対象配偶者又は扶養親族が障害者のとき、1人当たり27万円(特別障害者のときは1人当たり40万円)の障害者控除等を受けられる。 控除対象配偶者又は扶養親族が特別障害者で、納税者またはその配偶者もしくは納税者と生計をともにする親族のいずれかと常に同居しているときは、障害者控除として1人当たり75万円が所得金額から差し引かれます。 |
住民税の控除 |
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住民税の場合、障害者控除は26万円(特別障害者に該当する場合は30万円)を控除ができる |
相続税の障害者控除 |
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相続人が障害者である場合は、85歳に達するまでの年数1年につき10万円(特別障害者のときは20万円)が障害者控除として相続税額から差し引かれる |
自動車税・軽自動車税の減免、自動車取得税の減免 |
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療育手帳の交付を受けている方が使用する車で一定の要件を満たす場合、申請により自動車税・自動車取得税の減免を受けることができる |
預貯金が非課税の対象となる(マル優、特別マル優) |
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療育手帳の交付を受けている人が銀行などの350万円までの預貯金、貸付信託、公社債、公社債投資信託などで受け取る利子などについては、一定の手続を要件に非課税の適用を受けることができる。これをマル優、特別マル優と呼び、利用する際に預け入れ等の際に、金融機関の窓口などに確認書類として手帳を提示して確認を受ける必要がある。 |
手当の給付
障害のある子ども・保護者が受給できる手当があり、条件を満たし申請する必要があり、年額にすると大きな金額になるため受給できるかどうかぜひ福祉相談窓口に確認してみましょう。手当は次の通りです。特別児童扶養手当と障害児福祉手当は併給可能です。また令和5年2月現在、所得制限等については見直しされており変更の可能性あります。
- 障害児福祉手当
- 特別児童扶養手当
- 特別障害者手当
障害児福祉手当 |
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重度の障がいの状態にあるため、日常生活において常時介護を必要とする障害児に手当を支給する制度です。20歳未満で、重度の障がいがあるため日常生活において常に介護を必要とし、一定の条件を満たす子どもが対象となります。申請には医師の診断書が必要となります。 |
支給月額/14,790円 |
特別障害者手当 |
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精神または身体に著しく重度の障害があり、日常生活において常時特別の介護を必要とする特別障害者に対して、重度の障害のために必要となる精神的、物質的な特別の負担の軽減の一助として手当を支給し、特別障害者の福祉の向上を図ることを目的にしています。重度の療育手帳を持っている人については、特別障害者手当受給申請時の診断書の提出を省略可 |
対象 精神または身体に著しく重度の障害がある在宅の20歳以上の方に支給されます。目安としてはおおむね、身体障害者手帳1、2級程度及び療育手帳1、2度程度の障害が重複している方、もしくはそれと同等の疾病・精神障害のある方 |
支給額/月額27,200円(変動の可能性あり) |
支給制限 病院又は診療所に継続して3か月を超えて入院されている方、施設等に入所されている方は支給されません。また、所得制限があり、受給者(申請者)の所得が所得限度額を超える場合や、受給者の配偶者・扶養義務者の所得が所得限度額以上であるときは、手当は支給されない |
障害児福祉手当 |
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障害のある20歳未満の児童を養育している保護者に支給されます。子どもが20歳になる誕生月まで受け取れます。法律上、療育手帳を持っていることが必須であるとは明示されていませんが、自治体によって必要書類の一つです。 |
1級が月額52,200円、手当2級が月額34,770円です(平成31年4月~)が支給 |
支給制限/子どもが福祉施設に入所している場合は支給されません。また、保護者(受給者)や扶養義務者の所得により、所得制限があります。障害児福祉手当・児童扶養手当と併給可 |
保育・教育面の支援について
保育園への入園
自治体により、保護者自身が療育手帳を持っている場合また療育手帳を持っていて介護が必要な家族がいる場合、優先順位が高くなり入園の可能が高くなる
特別支援学校への入学
特別支援学校への入学を希望する場合、出願の際に障害の程度を証明するものとして療育手帳の写しの提出が必要になる場合がある
就労に向けての支援について
療育手帳は、将来のためにも大きな役割を果たします。それは就労の際の様々な制度・支援が受けられるということです。療育手帳の所持者は、特定求職者雇用開発助成金や障害者トライアル奨励金、障害者雇用奨励金などの支給対象障害者となったり、障害者雇用枠での就職ができるなど、障害者向けの雇用制度の対象となるため、就労の可能性が広がります。
療育手帳の制度の問題点について
- 法制上、知的障害者の明確な定義は現状ではありません
- 自治体ごとの制度である
療育手帳は知的障害者を対象とした制度です。ですが、法制上、知的障害者の明確な定義は現状ではありません。そのため、支援を希望していても、障害によってはIQの数値などが高く、判定基準を満たしていないとみなされ、認定が受けられず、取得できない場合もあります。また自治体ごとの制度なので、旅行先などでサービスが受けられない場合や転居などで再交付の手続きが必要です。判定基準や区分、サービスが自治体によってばらつきがあることも問題点となっています。
参考 総務省:発達障害者に対する療育手帳の交付について
まとめ
療育手帳は知的障害のある方とその家族を支えてくれる大切な社会保障制度の1つです。家族で話し合ったり、制度や手帳に関する正しい知識を知り各自の状況に合わせて取得の必要性を検討してみましょう。社会保障制度について、弁護士法人AURAでは詳しい情報提供やご相談に応じています、気軽にお問合せ下さい。
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