日本および諸外国における福祉ジレームとは

author:弁護士法人AURA(アウラ)

見出しの色分けについて

こちらを読むにあたり,各見出しの色は社会保障各助において色分けされています。

福祉ジレームとは

福祉ジレームとは、福祉が生産され、それが国家、市場、家族の間に分配される総合的なあり方です。エスピン-アンデルセンは、次の3つに分類しています。

自由主義ジレーム

代表国として、アメリカなどのアングロ・サクソン諸国

保守主義ジレーム

ドイツ、フランスなどの大陸ヨーロッパ諸国

社会民主主義ジレーム

スウェーデン、デンマークなどの北欧諸国

日本は、自由主義ジレームと保守ジレーム双方の主要要素を均等に組み合わせています。

自由主義ジレーム保守主義ジレーム社会民主主義ジレーム
代表国アメリカなどのアングロサクション諸国ドイツ、フランスなどの大陸ヨーロッパ諸国スウェーデン、デンマークなどの北欧諸国
主たる福祉供給源市場家族国家
所得再分配の規模小規模(小さな政府)中〜大規模大規模(大きな政府)
給付の対象・性格生活困窮者向けの給付が多い
(選別主義)
高齢者向けの給付が多い
(社会保険は普遍主義、公的扶助は選別主義)
現役世代、高齢者向け共に充実
(普遍主義)
就労と福祉の連携
(就労が給付の条件)
中〜強
(雇用の可能性を高める)
参加支援指標
(脱商品化)
低い高い高い
平等化指標
(脱社会的階層化)
低い低い高い
家族支援指標
(脱家族化)
低い低い高い
労働市場失業率は景気動向より大きく変動失業率は高くなる傾向失業率は比較的低くなる傾向

指標

参加支援指標(脱商品化)

個人または家族が労働市場参加の有無に関わらず社会的に認めた一定水準の生活を維持することがどれだけできるか示す指標。

平等化指標

職種や社会的階層に応じて給付やサービスのサービスがどれだけあるかを示す指標。

家族支援指標

家族による福祉の負担がどれだけ軽減されるのか(家族支援がどれほど充実しているか)を示す指標。

普遍主義と選別主義

普遍主義とは

対象者に均一給付を適用する方法のこと。資源に関係なく福祉サービスが受給できる。

選別主義とは

資力調査など福祉サービスを必要とする人々を選び出して、サービスを提供する方法のこと(生活保護制度など)。

ニーズ(必要)

必要原則

ニーズ(ひつよう)補充のために平等な資源の量を分配すべきであるという考えのこと。

貢献原則

個人が果たす社会への貢献度に応じて資源を分配すべきであるという考え方のこと。

準市場(擬似市場)

医療・福祉などの公的サービスにおいて、市場を意図的につくりあげて、その限られた市場内で自由競争を促し、競争原理を促進しようとしたもの。

市場化テスト

公的サービスを国民に提供する主体として、「官」と「民」のどちらがより国民の期待に応えられるかを国民に判断してもらうために行われる官民競争入札・民間競争入札制度のこと。

ラショニング(配給・割当)

希少な資源を、市場メカニズムを用いらずに、これを必要とする人々に供給するための方法のこと。

政策評価法

政策評価の目的は、効果的・効率的な行政の推進及び国民への説明責任を全うされるようにすることである。

国の行政機関が主体となり、事業評価、実績評価、総合評価の方式により行われ、総務省が、政府全体の政策評価表および政策への反映状況等を毎年取りまとめ公表する。

ブラッドショーの4つのニード

客観的ニード

客観的ニードには、ノーマティブ・ニード(規範的ニード)とコンパラティブ・ニード(比較ニード)があります。

ノーマティブ・ニード(規範的ニード)

「望ましい」基準との対比において、専門家や行政官などが存在を認めたニード

コンパラティブ・ニード(比較ニード)

サービスを利用している他人と比較して、差を明らかにして導き出されるニード

主観的ニード

主観的ニードには、フェルト・ニード(感得されたニード)と、エクスプレスト・ニード(表明されたニード)があります。

フェルト・ニード(感得されたニード)とは

本人がサービスの必要を自覚したニード。

エクスプレスト・ニード(表明されたニード)とは

本人がニーズを自覚し、実際にサービス利用を申し出たニード。

T.H.マーシャルのシティズンシップの分類

シティズンシップを、市民的権利、政治的権利、社会的権利に分け、社会的権利が市民資格に参入された段階を福祉国家として位置づけたことを示します。

市民的権利

個人の自由のために必要とされる諸権利。人身の自由、言論・思想・信条の自由、裁判を受ける権利など。

政治的権利

政治権力に行使に参加する権利。国および地方レベルの参政権。

社会的権利

社会を生きていく上で人間らしく生きるための権利。労働、社会保障、教育などの権利。

OECDより良い暮らしイニシアチブ(OECD Better Life Initiative)

経済協力開発機構(OECD)は、人々の幸福を形成する多様な側面に着目して、「より良い暮らし」を測定するための枠組みを提唱しました。

  1. 所得と財産
  2. 雇用と収入
  3. 住宅
  4. 健康状態
  5. 仕事と生活にバランス
  6. 教育と技能
  7. 社会とのつながり
  8. 市民参加とガバナンス
  9. 環境の質
  10. 安全
  11. 主観的幸福

以上11の項目で人々の経済状況と生活の質を分析。

ロールズ『正義論』

人間は守るべき「正義」の根拠を探り、その正当性論じました。

第二原理として、社会的・経済的不平等は次の2条件を満たすものでなければならないと示しました。

格差原理

社会の中で最も恵まれない人の境遇を最大限改善するものであること

機会均等原理

公正な機会の均等というじょうけんのもとで、公正な競争の結果に生じたものに限られること。

日本における相互扶助

ユイ(結)

屋根ふきや田植えなどに際して労力を交換し合う慣習。

モヤイ(催合)

共同生産と収穫物の共同分配によって利益を共有する慣習。

テツダイ(手伝い)

見返りを求めずに食料や労働を無償で提供する慣習。

信仰や社交を目的にした任意参加型の相互扶助組織のこと。

生産や自治を目的にした地縁による相互扶助組織のこと。

頼母子講(無尽)

共済的・金融的機能を持ち,経済的救済を目的とした組織。講員が掛金を一定期間出し合い,講員は条件に沿って全期間内のうちの1回積立てを受け取る。全員が積立金を受け取った時点で一旦終了となる。

七分積金制度

江戸幕府の下で町人の負担する町の経費を節約した額の中から積み立てをして,貧民や孤児を救済した制度のことをいいます。

五保の制

五戸を一組として,共助の機能を持った農耕と貢納のための組織。

貧困のとらえ方

スピッカー

「貧困」の多様な意味を,「物質的状態」,「経済的境遇」及び「社会的地位」の3つの群に整理した。

タウンゼント

相対的剥奪」の概念を精緻化することで,相対的貧困を論じた。

セン「潜在能力」

潜在能力は,人がより良く生きるために,財やサービスを利用して達成可能となる機能の集合体

  • 恥をかかずに人前に出ることができる
  • 「よい栄養状態にあること」
  • 「健康な状態を保つこと」
  • 「社会生活に参加できること」 など

豊かな社会の中で貧しいことは,潜在能力の障害となる。

世界幸福度報告書

2012年より国際連合の持続可能な開発ソリューション・ネットワークが発行する幸福度調査の報告書。

一人当たりのGDP,社会的支援,健康寿命,人生選択の自由度,寛容さなどを分析している。

日本は,2010~2012年(43位),2014~2016年(51位),2015~2017年(54位)

人間の安全保障

2012年の国連総会では,「人間の安全保障」についての共通理解の文書が採択された。

全ての人々の保護及び能力能力と地位の向上を強化することを求めている。

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