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内縁と婚姻
内縁(関係)とは、婚姻届を出してないこと以外は一般の夫婦とまったく同じという状態です。
内縁として認められれば、原則として婚姻(法律婚)に準じた扱いがなされます。
逆に別れる=内縁を解消するときは離婚と同じ扱いがなされます。
内縁として認められる条件
以下の判断要素は「結婚していたらそうするであろう」ことであって、結婚に対する一定の価値観が前提となっています。
一種のトートロジーだという批判もあります。
【内縁として認められる条件】
① 婚姻意思があること
② 共同生活を営んでいること
③ 社会的に夫婦と認められていること
④ 婚姻届を出していないこと
婚姻意思があること
社会的実質的に夫婦になりたいという両者の合意が前提になります。
共同生活を営んでいること
内縁として認められるためには共同生活という事実の存在が必要になります。
社会的に夫婦と認められていること
社会通念上夫婦共同生活と認められるような社会的事実の存在とは以下のような事例です。
結婚式を挙げた
結婚式を挙げていれば、これだけで夫婦と認められたと言えることが多いものの、結婚式を挙げていないからといって、内縁関係が否定されるとは限りません。
長期間の同居
同居期間が3年以上の場合、一般的に「婚姻意思がある」という推定が働きますが、だからといって、内縁と認められないこともあります。
相互の親族への行事への出席
例えば、親族の冠婚葬祭に2人が揃って出席することです。
身内の冠婚葬祭に同伴する者は一般的に単なる交際相手ではないと考えられるからです。
公的届出・手続きにおける「結婚宣言」
例えば、住民票において「未届の妻(夫)」として登録されているケースや、役所で「結婚相当」の届出がなされている(渋谷区における同性婚に関する条例案)ケースなどが当てはまります。
社会保険の登録
社会保険において「第3号被保険者」として登録しているケースです。
種契約書の記載
例えば、賃貸マンションの賃貸借契約書や公団住宅の申込書の同居人欄に「内縁の妻」「妻」と記載されているケースなどです。
内縁契約書に調印している
相互に結婚したことは納得しているが、理由があって敢えて婚姻届を提出しない場合、事後的に言い分が違うことになることを回避するため、内縁契約書を作成しているケースです。
※簡単でも良いので書面として明確化しておくとよいが、非現実的でしょうか?
広く公表され記録に残っている
例えば、twitterで「結婚します。」「結婚しました。」と投稿し、拡散される場合です。
婚姻届を出していないこと
婚姻届を出している場合は結婚(法律婚)していることになり内縁とはなりません。
内縁としては認められないケース
以下のようなケースでは内縁としては認められません。
婚約
共同生活(の実態)がない状態であるため、婚約は成立しますが内縁にはあたりません。
愛人関係
性的関係・経済的支援関係などがあっても「婚姻意思」がない状態です。
同棲
恋愛の延長上・結婚についてはまだ考えない状態で同居する同居(同棲)期間が長い場合、「婚姻意思の有無」が明確ではないケースも多いでしょう。
パートナー関係
〈事案〉(最高裁平成16年11月18日)
男性Aと女性Bの交際期間は約16年間であり、一緒に旅行をすることもありました。
子供2人を出産しています。
仕事の面で相互に協力をすることもありました。
同居・共同生活をしていたことはありません。
生計の維持管理は各自が行っていました。
共有する財産はありません。
男性A(父)サイドの関係者が子を養育しており、女性B(母)は子の養育には関わっていませんでした。
出産費用は父サイドが支払いました。
嫡出子としての地位を与えることを目的として、出産時だけ婚姻届を提出し、出生届提出後に離婚届を提出していました。
ABともに婚姻状態を避ける意図がありました。
このような関係を継続する合意はありませんでした。
男性Aが一方的に関係を解消し、他の女性と婚姻したため、女性Bが損害賠償請求訴訟を提訴しました。
〈裁判所の判断〉
内縁として認めず、「パートナーシップ関係」の解消であり、男性が関係を解消したことに違法性はないとしました。
※ABには、仕事上の協力関係があったため、「パートナーシップ関係(事件)」と呼ばれています。
住民票の「未届の妻(夫)」とは?
住民票の「続柄」欄には、「妻(未届)」という記録を入れることができます。
〈記録する方法〉
新規or追加として「世帯変更届」を役所に提出する際、「続柄」の欄に「未届の妻(夫)」と記載して提出します。
具体的な記入欄は役所によって体裁が異なります。
「未届の妻(夫)」の記載は、内縁関係を認定するための重要な要素となります。
内縁関係に適用される制度
男女が結婚(婚姻)する意思で共同生活をしていると、法律上内縁(事実婚)として扱われることがあります。
内縁関係は、法律婚(婚姻)に準じた扱いがなされます。
民法の「婚姻」の規定が準用されるのです。
とはいっても、すべての法律婚の規定が適用されるわけではなく、適用されるものと適用されないものがあります。
民法上の規定
内縁関係には、原則として、婚姻に関する民法上の規定が適用(準用)されます。
① 同居義務(民法752条)
引用:夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。
② 貞操義務
違反については慰謝料の賠償責任が生じる(民法770条1項1号)
③ 相互扶助義務(扶養義務・婚姻費用分担義務など)(民法752条,760条)
内縁関係でも同じですが、関係が悪化して別居した時点で内縁関係は解消(終了)します。
その結果、その後の生活費を渡す義務はない状態となります。
④ 日常家事債務の連帯責任(民法761条)
引用:夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない。
⑤ 内縁解消に伴う財産分与(共有財産制)
参考:民法 | e-Gov法令検索(外部サイトへ移動します)
公的な制度
公的機関も内縁関係を公認する傾向にあり、公的な制度についても、一定の範囲で内縁関係を夫婦(配偶者)と同様に扱う規定があります。
例えば、労働基準法に基づく遺族補償は内縁でも認められることがあります。
① 内縁に適用される公的制度
・厚生年金
・国民年金
・健康保険(医療保険)
② 内縁に適用される規定
・厚生年金保険法3条2項
・国家公務員等共済組合法2条
・国民年金法5条7項
・労働基準法79条
・船員法93条
・健康保険法1条
③ 遺族年金の扱い
厚生年金・国民年金の制度の中に遺族年金の制度があります。
遺族年金の受給における内縁者の扱いについて裁判例は揺れています。
内縁関係に適用されない民事上の規定・制度
内縁は法律婚と完全に同じように扱われるわけではありません。
法律婚には適用されるが内縁関係には適用されない規定も多くあります。
【内縁関係に適用されない規定】
・相続権
・夫婦同姓(苗字の変更)
・親族関係の発生
・未成年養子の家裁の許可の例外
・子の嫡出性
・子の共同親権
・成年擬制
・夫婦間の契約取消権
刑事上の制度
刑罰法規では条文の文言から拡大すること、つまり犯罪となる対象行為を増やす方向に解釈することは禁じられています(罪刑法定主義)。
そのため刑法上の規定における親族や婚姻の解釈では内縁を含みません。
〈脅迫罪の保護する範囲〉
「親族」に対する害悪の告知が含まれる。
脅すセリフの例 | 脅迫罪の成否 |
「お前の妻を殺す」 | (夫への)脅迫罪が成立する |
「お前の内縁の妻を殺す」 | (夫への)脅迫罪は成立しない |
※刑法222条2項
〈重婚罪の成否〉
「(重ねて)婚姻」には内縁関係を形成することを含みません。
訴訟法上の制度
民事訴訟法では、特殊な事情がある場合には例外的に、証言義務が適用されないことがあります(証言拒絶権)。
証言拒絶権の1つとして、証人自身や証人と一定の範囲のある者が刑事訴追を受けるおそれや名誉を害される場合に認められるものがあります。
この中に証人の配偶者があります。
この「配偶者」は法律婚だけが対象で、内縁(事実婚)は含まれません。
公的制度
所得税の配偶者控除の制度(所得金額から38万円(原則)を控除する制度)は、法律婚における配偶者だけが対象となっています。
重婚的内縁に適用される規定と適用されない規定
内縁関係が認められると、基本的には法律婚に準じた扱いとなります。
しかし、内縁関係が重婚のような状況である場合は、法秩序に反するので保護しない傾向となり、法律婚の規定が適用されません。
とはいっても、内容によっては適用される法律婚の規定もあります。
〈設例〉
男性Aと女性Bは結婚(婚姻=法律婚)している。
AとBは、長年別居して連絡も取っていない。
Aと女性Cは、事実上夫婦のように同居して暮らしている。
AとCは内縁に相当する関係であるが、AとCの法律婚と重複する(重婚の状態である)。
〈重婚的内縁関係への法律婚の規定の適用の有無〉
重婚的な内縁関係に適用される規定と適用されない規定があります。
大雑把にいうと、法律婚の規定のうち重婚的内縁関係を解消する方向の規定(例えば財産分与)だけが適用されるのです。
法律婚の規定のうち重婚的内縁関係を維持する方向の規定(同居義務、離婚原因)は、適用されません。
これは、一方の意思のみによって重婚的内縁関係の解消ができることを意味します。
内縁でも遺産継承ができる(特別縁故者の財産分与)
内縁関係の2人は、相互に相続権はありませんが、一定の範囲で内縁の者相互に遺産の承継が認められることもあります。
特別縁故者への相続財産分与という制度です。
墓所・遺骨承継・葬儀の主催者は内縁者が優先される(祭祀主宰者)
内縁の一方が亡くなった時に、相続(財産承継)以外でトラブルが生じることがあります。
墓所や遺骨の引き取りや葬儀の方法・宗派の対立といったものです。
このような問題は祭祀主宰者の指定という手続で解決します。
実際には内縁の妻(夫)が優先的に指定されることが多いです。
【参考】
事実婚に関する制度や運用等における取扱い | 内閣府男女共同参画局総務課調査室(外部サイトへ移動します)
その他、ご不明な点がございましたらお気軽にお問い合わせください。