「相続させる」遺言(特定財産承継遺言)

author:弁護士法人AURA(アウラ)
老夫婦

遺産分割方法の指定

遺言の内容が,「遺産(甲)を相続人のうち1人(A)に相続させる。」という記載になっていることがあります。「相続させる」遺言の性質については,従来,遺産分割方法の指定なのか遺贈なのかについて解釈が分かれていましたが,平成14年最高裁判例により,遺産分割方法の指定(甲をAに単独で相続させる趣旨)とされました。

平成30年改正民法1014条2項では,特定財産承継遺言という名称がつけられました。ただし,遺言書の記載から,遺言の趣旨が遺贈であることが明らかである場合又は遺贈と解すべき特段の事情がある場合には,遺贈となります。

法的性質(処分行為)

最高裁判例によれば,「相続させる」遺言は,処分行為であり,これにより物権的効力が生じる(遺産の所有権は,相続開始時に遡って直ちにAに移転(帰属)する。)ため,遺産分割手続は不要です。ただし,例えば,遺言において遺産の承継をAの受諾の意思表示にかからせた場合など特段の事情がある場合は別です。

共同相続における権利の承継と遺産の譲渡の優劣

遺産分割が未了の段階でも,相続人が遺産の中の特定の財産(の共有持分)を第三者に譲渡することができます。

詳細は,遺産中の特定財産の処分

しかし実際には,その後遺言が発見され,第三者への譲渡と遺言の内容が抵触している場合,どちらが優先されるかという問題が生じます。
平成14年の判例では,遺言が優先となっていましたが,平成30年改正民法により,対抗要件(登記)を得たほうが優先されることになりました。

〈平成30年改正民法施行前〉

2019年7月1日より前に開始した相続について,「相続させる」遺言による権利変動は登記をしなくても第三者に対抗することができます。対抗関係ではなく,常に相続人が優先します。

〈平成30年改正民法施行後〉

2019年7月1日以降に開始した相続による権利の承継は,法定相続分を超える部分については,対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができません。対抗関係に立つため,第三者が先に対抗要件を得れば,(少なくとも)譲渡人である相続人の相続分の範囲内では第三者が優先します。早いもの勝ちとなるので,早期に登記申請を行うことが求められます。

登記申請

承継した相続人と他の相続人による共同申請とされているが,「相続させる」遺言には確定的な権利の取得という性質があるので,判例上,相続人が単独で登記申請できるとされています。

代襲相続(概要)

「相続させる」遺言は,判例上,原則として代襲相続が適用されない。詳細は,代襲相続

男性

相続の権利承継の対抗関係化による早いもの勝ちの状況

平成30年改正民法により,相続による権利の承継が対抗関係化し,登記を得ないと権利を主張できなくなりました。したがって,遺言があっても,それより早く共有持分を譲渡してその登記(持分移転登記)をしてしまうと,遺言が実質的に(部分的に)無効となることになります。この先を争う状況の具体例を紹介します。実際にこれを行うと横領罪や損害賠償の問題となることもありえます。

① 現代ビジネスの記事の引用

母親が亡くなり、長男の太郎さんと、次男の次郎さんが相続をするケースです。
生前、母親はよくこんなことを言っていました。
「次郎は18歳で家を飛び出してからほとんど家に帰って来ず,母親のことも考えてくれなかったから,実家(評価額2000万円)は全部太郎にあげたい。」
母親は,その気持ちどおりの内容で遺言書を書きました。この遺言書どおりに相続されると,次郎さんは最低限の遺産(遺留分)として,全財産の4分の1の500万円しかもらえません。しかし,それでは納得できないのが,次郎さんです。「本来なら法定相続分として、遺産の2分の1を弟の自分ももらってもおかしくないはずだ。こんな遺言書なんてなければいいのに。」と。「それならば遺言書を無視すればよい。」

実は相続法の改正により,そんな荒業ができるようになりました。
まず次郎さんは母親の死後,間髪をおかず,法定相続分であるところの実家の2分の1(1000万円相当)について、母親から自分に相続登記をしました。
兄の太郎さんが遺言書を法務局に持って行き,「実家の権利を100%自分のものにする。」という登記を行う前であれば,こんなことができてしまいます。次郎さんが実家の2分の1の持ち分を自分の名義に変えたことは,太郎さんに知られることなく,次郎さん1人だけでできます。
その後,次郎さんは不動産業者に自分の名前で登記された1000万円分の家の権利(共有持ち分)を売却しました。共有持ち分の価格は市場価格の7割程度なので,次郎さんは約700万円を手に入れました。

現代ビジネス2019年9月8日

② 注意点

持分の譲渡人(相続人)の認識によっては刑法の横領罪が成立します。

持分の譲渡人(相続人)は,不法行為による損害賠償責任を負うことがあります。

相続の権利承継の対抗関係化による登記申請の重要性

相続による権利の承継について先に登記した方が優先されることになったので,遺言により権利を得た相続人や遺言執行者は,登記申請を急ぐ必要があります。

当事者対応
遺言により法定相続より多くの権利を取得する相続人登記申請を急ぐ必要がある
遺言により法定相続より少ない権利しか取得しない相続人(共有持分譲渡+登記を早く行うと遺言が無効化される)
遺言執行者就任直後に登記申請を行う必要がある


その他、ご不明な点がございましたらお気軽にお問い合わせください。

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