高齢化が進み、認知症の方も増えていくなかで、オレオレ詐欺など、判断能力の低下した方を狙った犯罪行為が増えてきています。判断能力が低下してしまったために、必要のない高額商品を購入してしまうなど、一人で財産の管理をするのが難しくなってしまう方が少なくありません。
このような場合に、本人の財産を保護するための制度に成年後見制度があります。成年後見制度は、2000年4月からスタートした比較的新しい制度ですが、それ以前は、現行の成年後見制度に対応する制度して、禁治産制度がありました。禁治産制度は成年後見制度とどう違うのでしょうか?
禁治産者とは? 禁治産者の意味
禁治産者(きんちさんしゃ)とは、1999年12月8日の改正以前の民法において、精神障害や知的障害によって心神喪失の常況にあって、一定の利害関係人からの申立てにより家庭裁判所が禁治産宣告をした人のことをいいます。禁治産者という名称は、「財産を治めることを禁じられた者」という意味があります。
禁治産者には後見人が付けられ(配偶者がいる場合は配偶者が後見人となり、配偶者がいない場合は家庭裁判所が後見人を選任します)、また、禁治産者は自ら契約等の法律行為をできず、禁治産者がした法律行為は取り消すことができることとされていました。日用品の購入から、相続の承認や放棄、遺産分割についてもすべて取り消すことができます。
また、心神喪失よりも障害の程度が軽い心神耗弱者や浪費者は、準禁治産者として「保佐人」が付けられ、保佐人の同意なく準禁治産者がした法律行為は取り消すことができるものとされていました。
この禁治産・準禁治産制度は、1999年12月8日の民法改正(2000年4月1日施行)によって、成年後見制度に改められています。
旧制度の禁治産者が現行制度の成年被後見人に、旧制度の準禁治産者が現行制度の被保佐人に、それぞれ対応しています。もっとも、名称以外にも変更された点もあり、この点については後ほど詳しく説明します。
禁治産制度と成年後見制度との違い
現行法下の成年後見制度には、旧法下の禁治産制度と比べて次のような違いがあります。
- 身上配慮義務の明文化
- 本人の保護と自己決定権の尊重との調和をより重視
- 禁治産という用語を廃止
- 戸籍への記載を廃止。代わりに後見登記制度を新設
- 「補助」の新設
- 鑑定書の書式を専門医向けに配布することなどにより、鑑定を定型化・迅速化
- 準禁治産の事由に含まれていた「浪費者」を、後見制度の対象から除外
- 配偶者が当然に後見人、保佐人となるという規定を削除
- 複数成年後見人(保佐人・補助人)、法人後見の導入
- 保佐人、補助人の取消権の明文化(準禁治産者の保佐人の取消権は明文化されていなかった)
禁治産者・準禁治産者には選挙権がなかった
禁治産者には、選挙権がありませんでした。準禁治産者も1950年までは選挙権がありませんでした。被保佐人および被補助人は当初から選挙権がありました。。法改正によって成年後見制度が始まった後もしばらくは、成年被後見人には選挙権がありませんでした。
その後、2013年3月14日に東京地方裁判所において、成年被後見人に一律に選挙権を制限することになる公職選挙法11条1項1号は違憲である旨の判決が下り、同年5月27日に公職選挙法が改正され、成年被後見人が選挙権をもつようになりました(同年6月30日施行)。
禁治産宣告を受けていないことの証明手段
禁治産者や準禁治産者であることは、戸籍に記載されていましたが、禁治産制度から成年後見制度に移行後、被後見人・被保佐人・被補助人であることは、戸籍ではなく、法務局・地方法務局で管理する登記簿に記載されるようになりました。
法改正前の戸籍がそのまま残っている場合は、現在の戸籍に禁治産者であることが記載されていることもありますが、法改正後、戸籍の改製や婚姻等によって新しい戸籍が作られた場合は、そのタイミングで戸籍から禁治産者である旨の記載がなくなります。
しかし、就職や資格取得等の際に、禁治産者でないことの証明書を求められる場合があります。
その場合は、本籍地の市区町村で身分証明書の交付を受けます。
この身分証明書によって、2000年3月31日の法改正までの間に禁治産者・準禁治産者でなかったことを証明することができます。
なお、法改正後の2000年4月1日以降に、被後見人・被保佐人・被補助人になっていないことは、法務局・地方法務局で交付を受けられる「登記されていないことの証明書」によって証明することができます。
まとめ
以上、禁治産制度と成年後見制度の概要を説明しましたが、現在の成年後見制度については使いにくいとの批判もあり、将来制度の改正が行われるかもしれません。
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