目次
負担付贈与・不相当対価による有償行為の遺留分に関する扱い(改正前・後)
<民法改正による遺留分の規定の変更(注意)>
平成30年改正民法により,遺留分の規定(制度)の内容が大きく変更されました。
令和元年6月30日までに開始した相続については,改正前の規定が適用されます。
令和元年7月1日以降に開始した相続については,改正後の規定が適用されます。
被相続人から相続人への生前贈与や無償での財産の処分は遺留分算定基礎財産に含まれます。
詳しくはこちら|遺留分算定基礎財産に含める生前贈与(平成30年改正による変更)
そうすると,贈与ではあるけれど負担が付いたものや,有償での譲渡ではあるけれど対価が極端に安いという場合にはどのように扱うか,という問題が出てきます。平成30年改正の影響も受けています。本記事ではこの問題について説明します。
負担付贈与に関する条文(改正前・後)
最初に,負担付贈与について,改正前と後の条文を押さえておきます。
<負担付贈与に関する条文(改正前・後)>
あ 民法1038条(改正前)の条文
負担付贈与は,その目的の価額から負担の価額を控除したものについて,その減殺を請求することができる。
※民法1038条(改正前)
い 民法1045条1項(改正後)の条文
負担付贈与がされた場合における第千四十三条第一項に規定する贈与した財産の価額は,その目的の価額から負担の価額を控除した額とする。
※民法1045条1項(改正後)
負担付贈与の算入の方法についての見解(改正前)
前記の条文のうち改正前のものの解釈のうち,遺留分減殺の対象については,控除後の残額とする,ということで見解は一致していました。しかし,遺留分算定基礎財産に加算する金額については,贈与の全額,と,贈与の額から負担を控除した残額,という2つの解釈がありました。
<負担付贈与の算入の方法についての見解(改正前)>
あ 改正前の見解の対立
負担付贈与について
平成30年改正前は一部算入説と全部算入説が対立していた
い 一部算入説の内容
遺留分算定基礎財産の額を算定する際に,控除後の残額を算入する
遺留分減殺の対象を控除後の残額に限定する(共通)
う 全部算入説の内容
遺留分算定基礎財産の額を算定する際には,その目的財産の価額を全額算入する
遺留分減殺の対象を控除後の残額に限定する(共通)
※『法制審議会民法(相続関係)部会第16回会議資料』p15
※中込一洋著『実務解説 改正相続法』光文堂2019年p170
平成30年改正による負担付贈与の算入方法の変更
前述のように,平成30年改正前は負担付贈与の計算方法について2つの見解があったのですが,改正後の条文は,控除後の残額を遺留分算定基礎財産とするという内容になりました。改正後は解釈による違いはなくなったのです。
<平成30年改正による負担付贈与の算入方法の変更>
負担付贈与を遺留分算定基礎財産に算入する方向について
平成30年改正では一部算入説(い)を採用した
見解の対立を立法的に解決した
※民法1045条1項
※『法制審議会民法(相続関係)部会第16回会議資料』p15
※中込一洋著『実務解説 改正相続法』光文堂2019年p170
不相当な対価による有償行為に関する条文(改正前・後)
遺留分制度における『贈与』といえるかどうかが曖昧なものとして,不相当な対価による有償行為(譲渡)があります。まずは,改正前後の条文を押さえます。
いずれも,当事者が遺留分権利者に損害を加えることを知っていなかった場合には遺留分の計算の対象にはならないという点では共通しています。
<不相当な対価による有償行為に関する条文(改正前・後)>
あ 民法1039条(改正前)
不相当な対価をもってした有償行為は,当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限り,これを贈与とみなす。この場合において,遺留分権利者がその減殺を請求するときは,その対価を償還しなければならない。
※民法1039条(改正前)
い 民法1045条2項(改正後)
不相当な対価をもってした有償行為は,当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限り,当該対価を負担の価額とする負担付贈与とみなす。
※民法1045条2項(改正後)
平成30年改正による不相当対価の有償行為の算入方法の変更
では,不相当な対価による譲渡について,当事者の両方が遺留分権利者に損害を加えることを知っていた場合はどうなるでしょうか。改正前は目的物全体を遺留分減殺請求の対象としつつ,対価部分を償還することになっていました。
改正後は対価を控除した額だけが遺留分侵害額請求の対象となりました。改正後は遺留分権が金銭債権となったので,償還義務と相殺できる状態なので,最初から相殺したのと同じ状態にしてある,といえます。
<平成30年改正による不相当対価の有償行為の算入方法の変更>
あ 改正前
(当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知っていたことを前提として)
有償行為の目的物全体が遺留分減殺請求の対象となる
ただし,遺留分権利者が相手方に(有償行為の)対価を償還する
い 改正後
(民法1045条1項と同様に)目的財産の価額から不相当な対価の額を控除した残額のみを遺留分制度の対象とする
目的財産全体を遺留分制度の対象とはしない
対価の償還もしない
う 改正による変更
民法1045条2項(改正後)は,民法1039条(改正前)の規律を変更した
という規律を設けた
※『法制審議会民法(相続関係)部会第16回会議資料』p17
※中込一洋著『実務解説 改正相続法』光文堂2019年p170
条件付・存続期間不確定の権利の評価(参考)
ところで,負担付贈与や不相当な対価による譲渡と似ているものとして,条件や存続期間がついている権利があります。贈与や遺贈の目的物が条件付や存続期間が不確定な権利であった場合には,遺留分の計算上,鑑定人が評価することになっています。
<条件付・存続期間不確定の権利の評価(参考)>
条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って、その価格を定める。
※民法1043条2項
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