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共有持分権を対象とする処分(譲渡・用益権設定・使用貸借・担保設定)
共有持分権の本質的な性質は所有権と同じです。しかし制約されているという特殊な側面もあります。
そこで,共有者は共有持分権を自由に処分できるのが原則でありつつ,一方でできないこともあります。
本記事では,共有持分権を対象とする譲渡や貸借,担保設定について説明します。
共有持分の処分の自由
まず,共有持分権は自由に処分できるのが原則です。共有持分(権)について,譲渡や抵当権設定をすることができます。
<共有持分の処分の自由>
あ 共有の本質
共有持分権は1個の独立の権利であり,共有者全員が何ら団体的統制に服さないことが共有の本質である
各共有者は,共有持分権を自由に譲渡(処分)することができる
※我妻栄著『民法講義Ⅱ 新訂 物権法』岩波書店1983年p325
い 具体的な処分の内容
ア 共有持分の譲渡
イ 共有持分への担保権設定
ただし,質権設定は除外される(後記※1)
共有持分への用益物権設定の可否に関する学説
用益(物)権の設定は,目的物の引渡が前提となっています。そこで,共有持分(権)に用益権を設定することを否定するのが一般的です。
<共有持分への用益物権設定の可否に関する学説>
用益権の設定は目的物の引渡を前提とする
共有持分(権)に地上権などの用益権を設定することはできない
※我妻栄著『新訂 担保物権法』岩波書店1971年p360
※我妻栄著『民法講義Ⅱ 新訂 物権法』岩波書店1983年p326
※広中俊雄著『現代法律学全集6 物権法 第2版』青林書院1992年p422
※川島武宣ほか編『新版 注釈民法(7)物権(2)』有斐閣2007年p435
共有持分への用益物権設定の可否に関する登記先例
不動産登記手続の運用上,以前は共有持分権への用益物権設定について議論がありましたが,現在では否定するという見解で統一されています。
<共有持分への用益物権設定の可否に関する登記先例>
あ 用益物権設定の可否(否定)
共有持分に対して地上権,永小作権などの用益物権を設定することについて
目的物を直接,排他的に支配することの可能であるべき物権の本質から,消極に解する
他の共有者の同意書の添付の有無に関わらず,不動産登記法49条2号(当時)により却下すべきである
※昭和37年3月26日民事甲844号民事局長通達
い 他の共有者の同意書の位置づけ
『ア』の中の他の共有者の同意(書)について
同意を受ける側の共有者の持分に用益物権を設定することの同意である
自己の持分に基づく使用収益権の放棄またはその制限を受諾して自己の持分にまで地上権を設定することの同意ではない
→他の共有者の同意があったとしても,用益権を設定できる根拠にはならない
※登記研究編集室編『増補 不動産登記先例解説総覧』テイハン1999年p1266
共有持分への賃借権設定に関する過去の見解(参考)
共有持分権に賃借権を設定することについて,これを認めている時代もありました。物権ではなく債権であるということを重視した考え方です。
<共有持分への賃借権設定に関する過去の見解(参考)>
あ 否定説
賃借権は債権であり,目的物を完全・排他的に支配する権利ではない
特定の持分に対して賃借権を設定することは可能である
※『登記研究175号』p47
※『月報司法書士14巻9号』p60
い 肯定説
物権と同様に賃借権を設定することはできない
※昭和5年7月9日法曹界決議
※昭和10年登記学会決議
共有持分への賃借権設定に関する現在の見解
前記のように,過去の登記実務では,共有持分への賃借権設定登記を認めていました。しかし,現在は否定されています。賃貸借契約は条文上,対象(目的物)が,『物』とされているので,共有持分権はこれに該当しない,などの理由によります。
この点,一般論としては,権利などの『物』(有体物)以外について,賃貸借の規定の準用は認められやすいです。しかし登記手続上は賃借権そのものではなく賃借権と類似するものの登記を認めることできないのは当然だと思います。
<共有持分への賃借権設定に関する現在の見解>
あ 仮登記に関する先例(前提)
共有持分に対する賃借権設定の仮登記申請は受理できない
※昭和48年10月13日民3第7694号民事局回答
い 本登記との同一性
本登記ができるか否かによって,仮登記の受理・不受理も決せられる
※登記研究編集室編『増補 不動産登記先例解説総覧』テイハン1999年p1266
う 最近の見解
賃借権であっても,その権利の内容は物を使用収益することを内容とする権利である
究極のところ用益物権と同様に目的物を用役することができなければ設定する意味がない
共有物の場合,共有者相互間でそれぞれ所有権(持分権)を制限し合っている
設定者(共有者)が当該共有物の用益を単独で行うことはできない
賃借権者は,共有物全体についてはもとより事実上の一部分についても用益する権限を持つことができない結果となる
用益権本来の目的を達し得ないばかりでなくいたずらに法律関係を複雑にすることになる
持分権は所有権の内容を指すものであるから,持分をもって賃借権の内容をなす『物』とは言えない
共有持分に対する賃借権の設定の登記は,これをすることができない
※登記研究編集室編『増補 不動産登記先例解説総覧』テイハン1999年p1266,1267
※我妻栄著『新訂 担保物権法』岩波書店1971年p360(同趣旨)
え 賃貸借の対象物(概要)
賃貸借の対象物(目的となるもの)は有体物である
有体物以外(権利など)も賃貸借類似の関係として賃貸借の規定が準用されることは多い
共有持分を対象とする使用貸借
使用貸借も賃貸借と同じように,条文上,対象物(目的物)は『物』となっています。さらに,『引き渡し』という記述もあり,引き渡しができるものであることが前提となっています。賃貸借も使用貸借も,権利を対象(目的)とすることは予定されていないといえます。
<共有持分を対象とする使用貸借>
あ 条文規定との整合性
使用貸借の対象物は物であり,引き渡しを要するものと規定されている(賃貸借と同じである)(後記※2)
物には共有持分を含めない(有体物だけである)という解釈が合理的といえる
い 解釈
(賃貸借(賃借権設定)と同様に)
共有持分を対象とする使用貸借は認められないと考えられる
賃貸借と使用貸借の条文
以上の解釈の中で使った,賃貸借と使用貸借の条文をまとめておきます。
<賃貸借と使用貸借の条文(※2)>
あ 民法601条
(賃貸借)
第六百一条 賃貸借は,当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し,相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって,その効力を生ずる。
い 民法593条
(使用貸借)
第五百九十三条 使用貸借は,当事者の一方がある物を引き渡すことを約し,相手方がその受け取った物について無償で使用及び収益をして契約が終了したときに返還をすることを約することによって,その効力を生ずる。
共有持分への質権設定の可否
共有持分への担保権設定は原則としては可能です(前述)。しかし担保権の中の質権だけは,目的物の引渡を前提とするので,共有持分(権)を対象とすることは否定されます。
<共有持分への質権設定の可否(※1)>
質権設定は,目的物の引渡を前提とする
共有持分に質権を設定することはできない
※我妻栄著『民法講義Ⅱ 新訂 物権法』岩波書店1983年p326
単独の共有者による共有物全体の処分(概要)
以上で説明したのは,共有者が共有持分(権)についての各種処分をすることの可否でした。
これとは別に,共有者が単独で共有物全体を処分できるかどうか,してしまった場合の効果についての問題があります。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共有者単独での用益物権設定・貸借契約(賃貸借・使用貸借)の効果
詳しくはこちら|共有者単独での譲渡(売却)・抵当権設定の効果(効果の帰属・契約の効
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