親なきあとの未来を支える:不動産の有効活用について

author:佐々木彩乃
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障害者の子を抱える親が、親の死亡後に、子の生活を安定させ将来の不安を解消するためには、親の生前に適切な備えをしておくことが必要です。特に、親が所有していた不動産をどうするかは重要な問題です。その不動産に資産価値があれば、子の将来における経済的な安定に寄与することできる反面、その不動産に資産価値がなければ(「負動産」)、子の将来にとって経済的なマイナスとなる可能性もあります。

本コラムでは、障害者が親を失った後に、不動産を有効に活用する方法について解説していきます。

親なきあとの不動産を残すメリットとデメリット

障害者の親亡き後に不動産を残すことのメリットとデメリットを挙げて、適切な選択をするための情報を提供します。

不動産を残すメリット

住み慣れた自宅を生活の場に

親の所有する自宅は、障害者本人にとって住み慣れた環境であり、安心して生活できる場所であるのが普通です。家族の一員として長く暮らしてきた家は、障害者の生活場所として重要です。住宅ローンが完済されている持ち家であれば(住宅ローンとセットで契約する生命保険では、親の死亡により住宅ローンが完済される場合が大半です。)、その管理や維持に費用がかかったとしても、このメリットを上回ることはないでしょう。

生活の場を失うリスクが小さい

障害者支援施設やグループホームは、他害や経営悪化による退所のリスクがありますが、自宅の持ち家であれば、終の住処とすることができます。

収入増・支出減の助けに

住宅ローンの終わった持ち家であれば、固定費が賃貸よりも少なくなるため、生活費の節約になります。賃貸物件とすることができる不動産(マンション、アパート、駐車場など)があれば、障害者本人やその兄弟の収入を増やすことができます。

不動産を残すデメリット

管理と維持に手間と費用がかかる。

不動産を所有すると、その管理や維持に手間と費用がかかります。特に、老朽化した持ち家の場合は、このデメリットは顕著でしょう。

障害者の親亡き後の備えとして、不動産を残すことが障害者やその兄弟にとってプラスになるかマイナスになるかについては、その不動産に資産価値があるかどうか、あるとしてどの程度か、障害者とその兄弟との間で遺産の相続について、円満な合意ができるかどうか、障害者の子にとって、住み慣れた自宅を生活の場にすることがどの程度重要なのか、その不動産を所有するための管理と維持にどの程度の費用が予想されるのかなど、考慮すべき要素は多岐にわたり、個々の不動産の特徴だけでなく、障害者の子の心情やその兄弟の心情も関わってくる問題です。

不動産を残す方法とその問題点は

親名義の不動産を障害者の子に残すには、遺言書を作成するのが典型的な方法ですが、遺言による所有名義の移転には、子の将来における生活保護との関係も考慮すべきです。

遺言による所有名義の移転

親名義の不動産を障害者の子に残すには、遺言書を作成するのが典型的な方法です。生前贈与するためには、障害者本人が契約を理解し署名押印できる能力が必要ですし、高額の贈与税を負担させることは現実的ではないでしょう。

成年後見人などの管理維持

障害者が不動産を所有する場合、固定資産税の支払いや管理維持にはサポートが必要です。成年後見制度を利用し、成年後見人や保佐人をつけることで管理を行うことができます。報酬の額は流動資産の総額に基づくため、不動産の所有によって報酬額が増減することはありません。

生活保護に問題

収入が障害基礎年金だけの場合、生活保護の受給が必要なケースもあります。しかし、自宅不動産の価値が一定額以上の場合、生活保護の受給資格が制限されることがあります。自宅不動産を売却しなければ生活保護が受給できない場合もあります。

不動産の売却を避ける方法

不動産の売却を避けたい場合には、生活保護を受給しなくてもすむだけの資金を残すことや、自宅不動産の名義を障害者本人以外にすることが対策として考えられます。

持ち家を障害者本人以外の所有名義にする方法

下の2つの方法が考えられます。

信託の活用

信託は、自宅不動産を信頼できる第三者に託すことで、自宅不動産の所有名義が委託者から受託者に変わります。受託者は信託財産を信託契約の範囲内で利用し、売却することができますが、あくまでも契約によって制限されており、勝手に処分することはできません。

信託の目的として、障害者の親亡き後に自宅不動産を有効活用するために、賃貸に出したり、無償で障害のある子どもに提供したりすることが考えられます。障害のある子どもを「受益者」として指定することで、利益を得させることが可能です。ただし、信託には受託者になれる相手に制限があり、現在の法律では、受託者になれるのは、委託者の家族・親族に限られるという制限があります。弁護士も受託者になることはできません。

負担付き死因贈与または負担付き遺贈の活用

この方法では、自宅不動産を信頼できる第三者に無償で贈与し、代わりにその相手方に対して義務を課します。義務の具体例としては、障害のある子どもに対して毎月一定額を支払う義務や、自宅不動産に無償で住まわせる義務を負わせることが考えられます。この方法により、自宅不動産の所有名義人を障害者本人以外にする一方で、資産運用による利益を障害のある子に得させることが可能です。ただし、相手方を選ぶ際には慎重な考慮が必要であり、信頼できる第三者を見つけることが重要です。

親の会などが負担付き死因贈与・遺贈の相手方になる場合、相続税の対象外となりますが、受贈者は贈与税を負担しなければならず、また、将来の固定資産税や修繕費なども考慮する必要があるため、障害者の子に受け取らせる利益をどの程度するかについては、税理士・弁護士によるアドバイスが必要です。また、賃貸や住まいの提供などの場合も、管理会社を利用することで経費を削減できます。

障害者の親亡き後に不動産を子のために有効活用し、その生活をサポートするためには、各方法の利点と注意点と、個々の状況に合わせて慎重にプランニングすることが重要です。

まとめ

障害者が親を失った後に、不動産を有効活用することができれば、障害者の子の将来における経済的な安定を図ることができます。適切な選択と計画を立てることで、不動産が障害者の生活の支えとなることが期待できます。

障害者の子のための不動産活用のためには、専門家のアドバイスとプランニングが必要です。障害者の子の将来の安定と幸せな生活を保障するために、不動産の有効な活用を考えてみましょう。


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