全面的価格賠償

author:弁護士法人AURA(アウラ)
男性と女性

全面的価格賠償の基本

共有物分割の分割類型(分割方法)の中に,全面的価格賠償があります。

詳しくはこちら|共有物分割の分割類型の基本(全面的価格賠償・現物分割・換価分割)

もともと,全面的価格賠償という分割類型は条文に定められておらず,平成8年判例が創設したものです。その後,令和3年改正によって,民法の条文に定められるに至りました。

本記事では,全面的価格賠償の基本的事項を説明します。

全面的価格賠償の内容

全面的価格賠償とは,文字どおり,全面的に金額の支払いで済ます,というものです。つまり,共有者の1人が共有物全体を取得し,その代わり,他の共有者(共有持分を失う共有者)に対価を支払う,というものです。理論的には債務を負担することになります。

<全面的価格賠償の内容>

共有物を共有者のうち1人の単独所有(または数人の共有)とする

現物を取得した共有者が,他の共有者に持分権の価格相当の対価を支払う(債務を負担する)

平成8年判例による創設と令和3年改正民法

もともと,全面的価格賠償の分割類型は条文に定められておらず,共有物分割としては否定されていました。そして平成8年判例が創設したのです。その後,令和3年改正で,民法の条文に明記されました。

<平成8年判例による創設と令和3年改正民法>

あ 昭和30年判例による否定(概要)

全面的価格賠償の分割類型は民法258条に規定されていない

民法258条2項の規定では全面的価格賠償の分割方法をとることができない

(原審の判断を維持した)

※最判昭和30年5月31日

詳しくはこちら|全面的価格賠償の法的性質(現物分割・部分的価格賠償との比較・創設なのか)

い 下級審裁判例による採用

下級審裁判例において,特殊な事情があるケースなどでは全面的価格賠償を採用するものも現れるようになった

詳しくはこちら|持分割合の極端な差と全面的価格賠償の相当性(昭和45年山口地判)

う 平成8年判例による創設

平成8年判例(3つ)は,全面的価格賠償という分割類型を認めた

え 平成8年判例後の定着

平成8年判例の後の判例も,全面的価格賠償の採用(適用)が続いている

※最高裁平成9年4月25日

詳しくはこちら|最判平成9年4月25日(全面的価格賠償の判断のための差戻)の内容

※最高裁平成10年2月27日

詳しくはこちら|遺産流れと全面的価格賠償の相当性(最判平成10年2月27日)

※最高裁平成11年4月22日

お 令和3年改正民法による条文化

令和3年改正により民法の条文に全面的価格賠償が,分割類型の1つとして明記されるに至った(後記※1)

全面的価格賠償の法的性質(概要)

全面的価格賠償は,現物分割とも換価分割とも違う,新たな分割類型であり,平成8年判例が創設したという見解が一般的です。

この点,全面的価格賠償と似ている分割類型(分割方法)として,部分的価格賠償があります。文字だけみると,一部か全部か,という違いに思えますが,法的には別の分割類型です。つまり,部分的価格賠償は現物分割の一種であり,一方,全面的価格賠償は,独立した1つの分割類型であると考えられています。

このような,全面的価格賠償の法的性質については別の記事で説明しています。

詳しくはこちら|全面的価格賠償の法的性質(現物分割・部分的価格賠償との比較・創設なのか)

全面的価格賠償の要件(平成8年判例)(概要)

実務では,全面的価格賠償は,共有関係を解消するために非常に有用です。実際には,全面的価格賠償が選択されるかどうか,について熾烈な対立が生じることがよくあります。最終的には判例が立てた判断基準(要件)によって結論が決まることになります。これについては別の記事で説明しています。

詳しくはこちら|共有物分割における全面的価格賠償の要件(全体)

令和3年改正による全面的価格賠償の条文化(概要)

全面的価格賠償は,令和3年改正の民法で条文に組み入れられました。

<令和3年改正による全面的価格賠償の条文化(概要)(※1)>

あ 令和3年改正の条文規定

裁判所は,次に掲げる方法により,共有物の分割を命ずることができる。

一 共有物の現物を分割する方法

二 共有者に債務を負担させて,他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法

※民法258条2項

い 令和3年改正の内容(参考)

民法の令和3年改正のうち共有物分割(共有の解消)に関する規定は別の記事で説明している

詳しくはこちら|令和3年改正民法258条〜264条(共有物分割・持分取得・譲渡)の新旧条文と要点

全面的価格賠償における典型的争点

全面的価格賠償は,実際のケースで活用できることがとても多いです。共有者の1人が,自身が取得する全面的価格賠償を主張し,他の共有者もそのことには賛成するけれど対価(賠償金)の金額で対立する,ということがよくあります。

そのような場合,最終的には共有物分割訴訟の中で鑑定が行われることになります。

詳しくはこちら|全面的価格賠償における共有物の価格の評価プロセス(鑑定)

<全面的価格賠償における典型的争点>

あ 取得する共有者

共有者の1人Aが共有不動産に居住しているケースにおいて

Aが共有不動産を単独で取得することについては,共有者間で意見が一致することが多い

い 金額

賠償金の金額(不動産の評価額)について

共有者の間で見解の対立が生じることが非常に多い

男性

その他、ご不明な点がございましたらお気軽にお問い合わせください。

Page Top