法定相続分
遺産全体に対する各相続人の分数的割合(相続人としての地位)を(法定)相続分と呼びます。遺産の中の特定の財産・権利とは違います。
相続人が複数いる場合,遺言がなければ(法定)相続分が適用されます。法定相続の場合は下記表の割合で相続することになっています。(法定)相続分の割合で,共有となったり,債権を分割して承継するということになります。
〈6000万円を法定相続する場合〉
相続人のケース | 配偶者(必ず相続人) | 子(第1順位) | 親(第2順位) | 兄弟姉妹(第3順位) |
配偶者・子 | 1/2(3000万円) | 1/2(3000万円) | – | – |
配偶者・親 | 2/3(3000万円) | – | 1/3(3000万円) | – |
配偶者・兄弟姉妹 | 3/4(4500万円) | – | – | 1/4(3000万円) |
配偶者のみ | 1(6000万円) | – | – | – |
子のみ | – | 1(6000万円) | – | – |
親のみ | – | – | 1(6000万円) | – |
兄弟姉妹のみ | – | – | – | 1(6000万円) |
同順位の人が複数いる場合は、人数でその相続分を割ります。
非嫡出子の相続分は,かつて嫡出子の半分でしたが,現在は平等になりました。
預金は遺産分割協議の対象とされています。法定相続の割合は表の通りですが、遺言がない場合、原則として相続人全員の同意がなければ、亡くなった人の預金を払い戻すことができません。
昭和55年民法改正前(昭和56年1月1日より前に開始した相続)までの相続に適用される法定相続分の割合は現在と異なります。
実際に,数代前の相続に関する遺産分割が未了であることもあり,現在と異なる法定相続分が適用されることもそれほど珍しくありません。
相続時期 | 配偶者:子 | 配偶者:直系尊属 | 配偶者:兄弟姉妹 |
改正前 | 1:2 | 1:1 | 2:1 |
改正後 | 1:1 | 2:1 | 3:1 |
遺産共有となることのデメリット
法定相続の場合,遺産が相続人の共有状態になります。
例えば,不動産の管理,株式の権利行使などで,相続人の協議,合意が必要になります。
不動産の売却,株主総会での権利行使が非常に困難になることがあります。
法定相続によって相続した場合,不都合な状態が生じます。財産の種類によって,それぞれの不都合が生じます。
詳細は,遺産共有と物権共有の混在
遺産分割が必要となる
① 遺産共有
遺言がない場合は,法定相続となります。法定相続で相続人が複数存在する場合,遺産が共有となります。暫定的な共有という意味です。
遺産共有は,共有する割合が決まっています。
② 遺産分割
この場合,遺産分割の協議・調停・審判による遺産分割により,最終的・具体的な遺産分割の内容を決めることが必要となります。
遺産分割協議は,相続人全員が合意しなければ成立しません。
協議がまとまらなかった場合は,遺産分割の調停を家庭裁判所に申し立てることになります。
調停では調停委員を交えて再度協議が進められます。
それでも話し合いがまとまらない場合(調停不調)は,自動的に審判(裁判)に移行します。
審判では審判官(裁判官)が最終的に具体的分割方法(内容)を決めます。
※ 遺留分侵害額請求権
以前は,遺言による遺産の承継に対して遺留分減殺請求がされた後は物権共有となるので,遺産分割の調停や審判は申し立てられず,共有物分割の手続を行うことになっていました。しかし,令和元年7月1日以降に生じた相続については改正民法の適用となるため,遺留分侵害額の請求をすることになり,その後に共有の状態になることにはなく,共有を解消する手続も不要です。
③ 遺産分割の遡及効
遺産分割が行われると,承継方法が具体化します。
この承継方法は,相続開始時に遡って効力(遡及効)を持ちます。
遺言による法定相続の回避
法定相続の場合は,暫定的に遺産共有となりますが,遺産分割によりこれを解消できますが,遺産分割の協議や調停,審判などの手続が必要になります。
① 遺言書
生前に遺言書を作成しておくことにより,遺産についての相続する者を決められます。
遺産分割方法の指定がきでます。遺産共有という面倒な状態を生じさせないで済む
② 遺言の漏れ
遺言から漏れている遺産については,法定相続が適用されます。
→遺産分割が必要になる
③ 遺言の無効
遺言を作成したが無効となった場合,遺言がないのと同じ扱い(法定相続)となります。
自筆証書遺言については有効性が争われることが少なくありません。
詳細は,遺言の種類
遺言よりも遺留分
以上のとおり,法定相続よりも遺言の方が優先されます。
ただし,遺留分権の行使により,(実質的に)遺言の効力を否定できます。
詳細は,遺留分侵害額請求権
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