自分や親が認知症や知的障害などで十分な判断能力がなくなったとき、本人に代わって契約の締結や財産管理を行う「成年後見人」。今回は、成年後見人になれる人やなるまでの流れ、かかる費用などについてご紹介します。
目次
成年後見人とは
成年後見人とは、成年後見制度に基づき認知症や障害などで判断能力が不十分なひとの代わりに法定権利を担う人のことを示します。主に本人に代わって必要な契約の締結や財産の管理をします。
成年後見制度を利用するときの目安
- 何度も同じものを購入したり、契約したりしてしまう
- 判断能力が衰えた本人の財産を親族が勝手に使っているな能性がある
- 遺産分割協議をしたいが、本人の判断能力に不安を感じることがある
- 老人ホーム等施設への入所費用を抽出するために、不動産などの売却を検討しているが認知症を伴っている
- 知的障害(発達障害など)を抱えた親族がいる
成年後見人になれる人の資格とは?また選任方法について
いざ成年後見人の必要性を感じたとき、成年後見人が何者であるのか皆さん疑問を持つと思います。ここでは成年後見人になれる人、そしてその選任方法について解説していきます。
成年後見人になれる人
まず成年後見人は家庭裁判所が選任をします。成年後見人になるのに特別な資格は必要ありません。例えば親族でも成年後見人になることは可能ですし、弁護士や司法書士、社会福祉士などの専門家が選任されることもあります。しかし次の条件に該当する場合は、成年後見人になることはできません。
- 未成年
- 家庭裁判所で解任された法定代理人、保佐人、補助人
- 破産者
- 被後見人(本人)に対して訴訟をしている人、また訴訟をした人、並びにその配偶者及び直系家族
- 行方の知れない人
法定代理人とは
法律によって本人に代わって法律行為を行うことができる人のことです。成年後見人や未成年者にとっての父母などが該当します。 法律行為や財産管理に関して、本人の代わりに同意したりすることや取り消したりする権利を持っています。
保佐人・補助人とは
家庭裁判所の審判によって決まるため、必ずしも本人やその周りの人が希望する人になるとは限りません。成年後見人の選任について不服を不服を申し立てることもできません。
任意後見契約を結ぶと、本人が後見人を選ぶことができます
本人が健康で元気な状態であるとき、自分の将来の後見人になってほしい人と契約(任意後見契約)をすることで、後見人になってほしい人を事前に選んでおくことができます。このような場合、本人の判断能力がなくなった時点において、家庭裁判所(任意後見監督人の選出は裁判所が行います。)が任意後見監督人(任意後見人を監督する人のこと)を選出し、本人のための任意後見が始まります。
成年後見人の変更は、簡単に認められません
一度成年後見人が定まると成年後見人の変更は容易には認められません。しかし、特例として家庭裁判所が成年後見人を変更するケースには次のような場合があります。
辞任
成年後見人から辞任の申し出があり、その理由に正当な理由があるとき(裁判所の許可が必要となります)。
解任
成年後見人に不正な行為、著しい不行跡、その他後見の任務に適しない事由があるとき(横領や利益相反などといった不正行為や権限の濫用、任務の怠慢があったときなど)また、家庭裁判所は必要があるときは複数の成年後見人を選任したり、追加で選任するケースもあります。
成年後見人の職務と権限
成年後見人は判断能力を失った本人の代わりに法的に重要な判断をします。法定代理人として職務を果たすために、成年後見人には権限が与えられています。 職務や権限は、成年後見人の立場によって違いがあります。成年後見人には、契約によって本人が選任できる「任意後見」と家庭裁判所が適格者を選任する「法定後見」の2つです。さらに法定後見のなかには「後見」、「保佐」、「補助」と、3つの形態があります。代理人としての権限には幅があって補助人(法定後見)、保佐人(法定後見)、後見人(法定後見)の順で権限の幅が広くななっていきます。任意後見人の権限は任意後見契約に従って決まります。成年後見人の形態によって異なる権限についてもご説明します。
成年後見人の職務
成年後見人の職務としては大きく分けて、下記の3つが挙げられます。
財産管理
成年後見人は、本人に代わって、本人の財産を適正に管理することが求められます。財産の具体的な職務としては、年金の受領、預貯金や有価証券類の管理、収入支出の把握などがあります。成年後見人は財産管理の職務を全うするために、本人の代わりに契約(代理権の行使)や契約の取り消し(取消権の行使)をします。
身上監護
成年後見人は、本人に代わって法的な契約行為を行うことで、本人の安全と健康を守らなければいけません。本人の安全と健康を守るための職務を全うするために、住まいの確保・整備や施設や病院の入退院の手続きをします。
職務内容の報告
成年後見人は、上記の財産管理、身上監護を適正に行っていることを家庭裁判所に年に1度、自主的に報告するよう求められます。家庭裁判所に報告することで、家庭裁判所からの監督を受けることになり、より適正に本人の法定後見人を務められるからです。成年後見監督人が選任されている場合は、監督人にも報告する義務があります。
成年後見人の権限
成年後見人には、職務を行うために次の権限が与えられています。
- 本人からの委任状なしに契約を代理で行える代理権
- 本人がした契約を取り消せる取消権
- 本人に代わって財産の管理や処分を行える財産管理権
ここで注意が必要なことが大きく2つあります。
1つは、居住用不動産を処分する場合です。本人の居住用不動産を処分(売却や賃貸に出したりすること)するには、家庭裁判所の許可が必要になります。一方、居住用ではない不動産の処分は、成年後見人の職務のなかで契約を締結することができます。ただし、この場合も本人の不利益となっていないか家庭裁判所に意見を聞くことが重要となります。 2つ目は、本人ではなく成年後見人に利益となるような法的判断をする場合です。本人と成年後見人が利益相反するような場合は特別代理人を選任するか、成年後見監督人が本人の代理を務めることになります。本人と成年後見人との間の取引や、本人と成年後見人がともに相続人になっている遺産分割協議などがこれに該当します。
成年後見人の職務・権限に含まれないこと
成年後見人の職務はあくまで法的に重要な判断に限られており、それ以外のことは成年後見人の職務ではありません。次のようなことは成年後見人の職務や権限には含まれません。
日常の家事
買い物や食事、掃除・洗濯の家事などの生活支援は、成年後見人の職務ではありません。また、本人がした買い物を取り消したり、日常で本人の介護をしたりする必要もありません。
医療行為への同意
手術の同意は本人または家族が行います。本人の生命にかかわることへの責任を成年後見人が負うことはできません。
身元保証
賃貸契約や施設の入居際の契約の際に、身元保証人や身元引受人になることも、成年後見人の包括的代理権には含まれません。
身分行為(結婚や離婚など)、遺言書の作成
本人でなければできないこと、達成できないことを、成年後見人が代理で行うことはできません。たとえば、離婚、養子縁組、離縁などがこれにあたります。遺言書の作成も本人自身がしなければならない行為です。
成年後見制度の手続き
成年後見人を選ぶには、具体的な手続きをしなければなりません。どのような手順が必要なのか、任意後見と法定後見、それぞれの場合の手続きを見ていきましょう。弁護士法人AURAでは、弁護士の他に介護や福祉に精通している士業と連携しております。
任意後見の場合
任意後見で後見人を選び、職務を果たしてもらうには、次のような手順が必要になります。
任意後見契約を選ぶ
任意後見契約とは、委任する本人が、将来認知症などで自分の判断能力が低下した場合に、自分の後見人になってもらうことを受任者に委任する契約です。 任意後見では、本人が判断能力のあるうちに後見人候補者を選びます。任意後見契約を結ぶ際は、公正証書で行います。公正証書とは、法律に関する知識と経験豊富な公務員である公証人が作成する証書のことです。契約は、本人の意思を確認したうえで、契約内容が法律に沿っていることが必要なため、公正証書で行うことが法律で定められています。 公証人は法務局で任意後見契約を登記します。登記が終わると、法務局から「登記事項証明書」が交付されます。この段階では任意後見人候補者は「任意後見受任者」という立場に過ぎません。 任意後見の効力が発揮するのは、本人の判断力が低下した後からで、次に説明する任意後見「監督人」の選任後になります。
任意後見「監督人」選任を裁判所に求める
本人の判断力が低下すると、家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立てることになります。一般的に、任意後見監督人に選ばれるのは、本人の親族ではなく、専門職の第三者です。また、監督人の選任申立手続を行えるのは、本人やその配偶者、四親等内の親族、任意後見受任者です。 任意後見監督人が選ばれると、任意後見を委任された候補者は、任意後見人としての職務を始められます。 任意後見監督人とは、任意後見人が任意後見契約の内容どおりに、適正に仕事をしているかを監督する人のことです。任意後見人から財産目録などを提出させることも仕事の1つです。また、本人と任意後見人の利益が相反した場合に法律行為を行う際は、任意後見監督人が本人の代理になります。 任意後見監督人はこうした事務について家庭裁判所に報告する義務があるため、家庭裁判所の監督を受けることになります。
法定後見の場合
法定後見で法定後見人を選ぶ場合の手順は以下の5ステップです。
申立準備
法定後見の場合は、本人の判断能力が低下したことを周囲が認めた後、家庭裁判所に申し立てを行います。もし後見人の候補者がいない場合でも申し立てをして、後見人の選任を家庭裁判所に任せることができます。 申立準備には、申立書一式(家庭裁判所でもらえます)、医師の診断書、後見人候補者、親族の同意書などが必要です。申し立てに必要な書類をそろえたら、本人の住所を管轄する家庭裁判所に提出します。
審理
申し立てに必要な書類が家庭裁判所に届くと、家庭裁判所が審理を開始します。 裁判所の担当者(調査官)が、法定後見人の申し立てをした人に事情を直接聴きます。また、法定後見人が必要とされる本人の状況を確認するために、必要であれば医師に精神鑑定をしてもらうこともあります。さらに、申し立てた人や本人ばかりではなく、親族の意向の確認もします。後見人候補者の適性もチェックします。 裁判所調査官による調査の報告を受け、裁判官が成年後見を開始する検討をします。
審判
成年後見を開始することが相当である場合、裁判官は、成年後見を開始する「審判」をします。審判の結果は、成年後見開始を申し立てた人、本人、成年後見人宛に通知します。
後見登記
裁判所からの通知後、2週間以内に不服申し立てをしなければ、裁判所の審判は確定となります。確定となった法定後見人は法務局で登記され、正式な成年後見人となります。
専門家のアドバイスをもらうと安心
成年後見人を選任する手続きには、手間と費用がかかります。しかし、上手に利用すれば、判断能力が衰えた人の生活や財産をしっかりと守ることができる制度です。 成年後見制度を利用する際には、弁護士や司法書士などの法律の専門家に相談するのがおすすめです。 なぜなら、成年後見人を選ぶには、裁判所への申し立てにたくさんの書類が要るほか、成年後見人が決まった後も家庭裁判所に定期的な報告が必要になるなど、法律にかかわることが非常に多くあるためです。 また、成年後見人を立てた後には、遺言や相続などといったことも視野に入れる必要があります。その都度、法律の専門家のアドバイスを受けながら進めていくと安心ですよ。
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