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不動産の権利の記録へのブロックチェーンの活用
不動産の取引(売買)では,多くの情報を確認して,同時に複数の情報の書き換えが行われます。具体的には,銀行預金と登記上の情報が同時に変更されるという意味です。
そこで,ブロックチェーンを活用して利便性を飛躍的に高めることが考えられます。
本記事では,不動産取引にブロックチェーンを活用するアイデアについて説明します。
従来の不動産の取引の同時履行の弱点
不動産の取引(売買)では,代金の支払と移転登記が同時交換として行われる必要があります。
現在の実務的な方法は,司法書士が登記申請に必要な書類や本人の確認をするというものです。通常はこの方法によって確実に登記が実行されます。
しかし,オフラインでの確認が多いので,どうしても同時履行が実現しないリスク(すき間)をゼロにはできません。
詳しくはこちら|司法書士の不動産売買決済の立会の流れ(代金支払と登記移転の同時履行)
不動産売買の代金決済においてアクセスするデータ
不動産の取引で司法書士が確認する情報を分析してみると,役所で管理する公的な情報を中心に,多くのものが組み合わさっています。用いる情報を整理します。
<不動産売買の代金決済においてアクセスするデータ>
情報(サーバー) | 読み取り | 書き込み |
不動産登記 | ◯ | ◯ |
印鑑証明書 | ◯ | ― |
住民票 | ◯ | ― |
固定資産税台帳 | ◯ | ― |
運転免許証 | ◯ | ― |
契約書 | ◯ | ― |
銀行預金 | ◯ | ◯ |
不動産の取引とブロックチェーンの適合性
前記の情報は,特定のサーバーに記録されているものがほとんどです。契約書はオンラインの情報ではないですが,契約書の内容をオンラインに乗せる(データとして台帳に記録する)ことが技術的に可能です。
結局,不動産の取引に関する情報は,オンラインで管理するのに適しているのです。オンライン上での情報の読み取りと書き込みを活用すれば,時間的なすき間がなくなるので,同時履行が実現しないリスクを回避することも実現します。
不動産登記からブロックチェーンへのパススルー
前記のように,不動産の権利の移転をブロックチェーン上の記録によって行うことを考えます。これ自体はとても便利ですが,不動産登記をブロックチェーンで置き換えるとすると法的な問題が生じます。
不動産登記には対抗力(対抗要件)という機能(法的効果)が与えられているのです。
詳しくはこちら|対抗要件の制度(対抗関係における登記による優劣)の基本
もちろん,法改正によってブロックチェーンに対抗力を与えれば問題ありません。ただ,実際に法改正がなされたわけではないので,現行法を前提に対抗力を確保する方法を考えます。
その方法は,信託を活用したものです。要するに,不動産登記にはブロックチェーン上に記録された者を権利者(受益者)とするということを記録しておくのです。そうすれば,ブロックチェーンの記録上の受益者が不動産の権利を持ち,法律上の対抗力も持つ状態が完成します。
売買の際にはブロックチェーンの記録上で移転だけをすれば足ります。不動産登記の移転(登記)申請自体が不要となります。
<不動産登記からブロックチェーンへのパススルー>
あ 信託契約の内容
信頼できる機関を受託者として定める
受益者の指定(定める方法)として
ブロックチェーン上の記録に従うという内容を定める
い 信託移転の登記
対象の不動産を信託財産として登記する
信託契約の内容(あ)も登記することになる(信託目録の項目とする)
う 信託設定後の権利の移転
受益者は登記事項から除外される
※不動産登記法97条1項2号,4号,2項
→その後に受益権の移転があっても登記申請自体が不要となる
不動産登記に信託の登記があるので,受益権の対抗要件も得られる
不動産登記の改良のアイデアのバラエティ
実は,不動産の権利の記録として,ブロックチェーンを活用するアイデアにはいろいろなものがあり,本記事で説明したものはその1つに過ぎません。
例えば,法務局が管理する登記情報を,特定のサーバーからブロックチェーンに置き換える発想もあります。また,そもそもブロックチェーンにもいろいろな種類があり,公開されたものと非公開で運用されるものがあります。
また,法務局の管理する登記の台帳(サーバー全体の情報)自体は非公開ですが,APIとして外部からアクセスする手段があれば,外部のシステムと接続できます。そうすると例えば銀行の預金残高の情報の変更と登記情報の変更を,システム上で同時に行うことも可能となります。
なお,現時点でも,登記のオンライン申請が可能であり,一定の範囲で外部からオンラインで法務局の登記情報にアクセスできる状態は実現しています。
本記事では,不動産の権利の情報の記録にブロックチェーンを活用するアイデアについて説明しました。
安全性を確保,確認しつつ,新しいテクノロジーを活用することで,不動産の権利の記録の利用について利便性が高まることを期待します。
その他、ご不明な点がございましたらお気軽にお問い合わせください。