目次
特定遺贈された預金の証書
〈事例〉
・Aの遺言:預金は受遺者Bに特定遺贈する。
・Aは生前に,預金証書をCに預けている。
・Aの死亡後,遺言執行者Dが就任した。
・Dは,預金証書の占有者であるCに対して預金証書の引渡(返還)請求をすることができるか。
〈結論〉
・Bは,銀行に対する預金払戻請求権を承継し,かつ,Cに対する寄託物(預金証書)返還請求権も承継します。
・DがCに対して預金証書の返還請求を行うことはできません。
〈理由〉
遺言内容は,Aが有していた預金債権や預金証書返還請求権をBに承継させることであり,預金証書の返還を受ける権利は遺言内容(相続による承継の対象)に含まれないからです。
預金(債権)の受遺者に対する遺言執行者の権限
① 金融機関に対する債権譲渡通知
預金の遺贈は,債権譲渡としての扱いと似ています。
債務者(=金融機関)に対して債権者であることを主張するためには債権譲渡の通知が必要です(民法467条)。この債権譲渡の通知については,譲受人からの通知は除外されており,譲渡人からの通知が必要です。
遺贈について譲渡人に相当する者は遺言執行者です。したがって,銀行に対して債権譲渡の通知
をするのは遺言執行者です。
※ 預金債権の受遺者に対する遺言執行者の権限
・預金の名義を変更する。
・金融機関から承諾通知の受領
② 受遺言の遺言執行者に対する譲渡通知の請求
預金の特定遺贈を受けた受遺者はそのままでは預金の払戻しを受けられません。
遺言執行者に対し,債権譲渡通知を銀行に出すよう請求し,譲渡通知の後で,受遺者自身が銀行に対して払戻請求をすることになります。
預金の包括遺贈と「遺産分割方法の指定」
① 預金の包括遺贈
包括遺贈がなされている場合,一般的に,遺産分割が必要です。
また遺贈は相続そのものではなく,債権が割合に応じて確定的に承継,移転することはありません。
包括遺贈は,遺産分割方法の指定(=相続の範囲内)とは違います。
そこで,遺産分割の手続が完了するまでの一定期間について,遺言執行者が預金を含む遺産の管理を行います。預金の払戻を受ける権限も認められます。
② 「遺産分割方法の指定」
相続人の範囲内で,遺言によって預金の承継先が指定されていること(「遺産分割方法の指定」)もあります。
この場合,相続により,債権については確定的に指定された相続人が承継します。
そのため,原則として,遺言執行者による承継させる業務はありません。その意味で,遺言執行者が預金の払戻しを受ける権限はないということになります。
③ 違いの理由
包括遺贈と遺産分割方法の指定では,承継される状態が異なり,この違いが遺言執行者の権限となるかどうかに影響を与えているのです。
遺言内容 | 債権が相続開始と同時に分割承継となるか |
包括遺贈 | ☓ |
遺産分割方法の指定 | ◯ |
④ 遺言執行者の権限の明記
以上は,あくまでも遺言の中に遺言執行者の権限について記載がない場合の解釈です。
遺言の中に遺言執行者の権限が記載されている場合,原則としてこの記載が優先します。
例:「遺言執行者の権限として,預金の解約,解約金・払戻金の受領権限を付与する。」
遺言無効確認訴訟
相続人の一部が「遺言は無効である。」と主張している場合,仮に遺言が無効であるとすれば,遺言執行者の選任も無効となります。
この場合,遺言執行者が被告となります。
ただし,遺言に基づいて既に第三者に登記名義が移転されている場合,相続人の一部が「遺言は無効である。」と主張し,所有権移転登記手続抹消登記手続訴訟を提起するときの被告は,登記名義人です。
その他、ご不明な点がございましたらお気軽にお問い合わせください。