自筆証書遺言

author:弁護士法人AURA(アウラ)
男性

自筆証書遺言の方式(要式性)

自筆証書遺言は,遺言者が1人で作成することができます。作成が最も簡単であるという特徴があります。

詳細は,遺言の種類

しかし,自筆証書遺言には,最低限の方式(要式)が決められており,この方式(要式)に違反していると,原則として遺言は無効となります。

厳格な方式性(要式性)の趣旨

遺言者の死後は遺言者自身に真意を検証ができなくなるので,その検証手段を残すことが重要です。遺言の全文の自書,日付氏名の自署及び押印をすることによって,重要な文書の作成を完結させる意図を読み取ることができるので,これを法律上必須の条件とするというのが,厳格な方式性(要式性)が要求される趣旨です。

自筆証書遺言の無効事由

①    本文を自書していない。

②氏名を自署していない。

③押印の不備

④日付の不備

⑤ 用紙の不備

方式違反

自筆証書遺言に方式違反があると遺言は無効となるのが原則です。一方で,遺言の解釈・判断においては,遺言者の最終的な意思を尊重することにより,方式違反を救済し,例外的に「贈与」として有効とすることもあります。

詳細は,無効な遺言→死因贈与

自筆証書遺言における『自書』

自筆証書遺言では厳格な方式が決められています。
詳しくはこちら|自筆証書遺言の方式・要式性(全体・趣旨・有効性判断の方針)
方式のうち1つが『自書』です。実際に『自書』に該当するかどうかで見解が対立するケースは多いです。
まずは『自書』の基本的事項についてまとめます。

<自筆証書遺言における『自書』>

あ 規定

自筆証書遺言の記載について
→『全文』を自書することが要件となっている
※民法968条1項

い 趣旨(概要)

遺言者の死後は遺言者自身に確認ができなくなる
→全文の自書は,遺言者の意思の検証につながる
詳しくはこちら|自筆証書遺言の方式・要式性(全体・趣旨・有効性判断の方針)

『自書』に該当しない典型例

最初に,『自書』として認められない典型例を紹介します。
タイプやプリンターでの印字です。
自筆で書いた後にコピーしたものも一般的には自書ではないと解釈されています。

<『自書』に該当しない典型例>

筆跡が明らかにならない器械を用いて作成された場合
例;タイプライター・ワープロ・点字器・コピー
→『自書』に該当しない
→自筆証書遺言としては無効である
※通説
※蕪山嚴ほか『遺言法体系1 補訂版』慈学社出版2015年p196,197

不動産目録のみ印字→『自書』に該当しない

自書は『全文』が対象です(前記)。
一方,形式的な記載が膨大になることもあります。
典型例は不動産目録や預貯金・株式の目録です。
目録部分だけは印刷・印字するという発想もあります。
これについては原則的に認められていません。

<不動産目録のみ印字→『自書』に該当しない>

あ 事案

遺言のうち不動産目録部分以外は自書されている
不動産目録は司法書士事務所の事務員が印字した

い 裁判所の判断

タイプ・印刷した者は遺言者本人ではない
→『自書』には該当しない
→遺言は無効である
※東京高裁昭和59年3月22日

う 解釈論

遺言者自身が入力・印字した場合は有効となるかどうか
→この裁判例では判断が示されていない
※太田武男『現代の遺言問題』有斐閣1979年p81,82参照;有効の可能性

この裁判例では,遺言者自身が印刷作業をした場合の扱いについて曖昧な部分が残っています。この点,条文としては自書の対象は『全文』と規定されています。印刷の作業遂行者に関係なく無効となる可能性が高いでしょう。

タイプ印字→特殊性により『自書』に該当する

自筆証書遺言をタイプライターで印字したケースがあります。
通常であれば無効となるはずです。
しかし,遺言者が英国人であり,日頃から筆記の代わりにタイプ印字を利用していました。
このような特殊性から『自書』として認められました。
ただし,この判断は下級審の判断です。
今後も同様の判断がなされるとは限りません。

<タイプ印字→特殊性により『自書』に該当する>

あ 準拠法(前提)

遺言者は英国人であった
遺言者は日本に居住していた
遺言者は日本で自筆証書遺言を作成した
→遺言の成立と効力に関しては日本法が適用される
※遺言方式準拠法2条

い 遺言の記載方法

遺言者が英文タイプにより日付・本文を作成した
氏名・押印は遺言者が自ら行った

う 裁判所の判断

遺言者は自筆にかえ平素専らタイプライターを使用していた
遺言書は遺言者が自らタイプしたものである
→自筆に匹敵する
→遺言は有効である
※東京家裁昭和48年4月20日

カーボン複写→『自書』に該当する

印刷よりも古い,枯れたテクノロジーとしてカーボン複写がありました。テクノロジーが古い分,筆跡が残る=写実性がある,という性質を持っています。このことから,法的な解釈として『自書』として認められています。

<カーボン複写→『自書』に該当する>

あ 事案

カーボン紙の複写により遺言の内容を記載した

い 裁判所の判断

『自書』に該当する
→遺言は有効である
※最高裁平成5年10月19日

以上はテクノロジーの活用と『自書』の判断の関係の説明でした。次に,テクノロジー以外の人為的筆記サポートである『添え手』について説明します。

添え手と『自書』該当性の判断

実際に,遺言者の手が不自由であるケースは多いです。家族の方が添え手をして初めて筆記が可能となることもあります。添え手による作成と『自書』の判断について説明します。
まずは基本的事項をまとめます。

<添え手と『自書』該当性の判断>

あ 添え手による遺言作成

遺言者の手に,遺言者以外の者の手を添えた
このようなサポートを得て遺言の記述がなされた

い 裁判所の判断

一定の状況があれば『自書』と認める(後記※1)
→遺言は有効となる
※最高裁昭和62年10月8日

添え手による記述を『自書』と認める要件

添え手で遺言を作成しても『自書』と認める要件をまとめます。

<添え手による記述を『自書』と認める要件(※1)>

あ 全体

『い〜え』のすべてに該当する場合
→添え手があっても『自書』と認める

い 自書能力

遺言者が証書作成時に自書能力を有していた

う 添え手の程度

添え手が,単に筆記を容易にするための支えにとどまる
次の『ア・イ』で判断する
ア 正しい位置に導く機能遺言者の手を用紙の正しい位置に導くにとどまる
例;始筆,改行,字の間配り,行間を整える
イ 遺言者の手の動きへの影響遺言者の手の動きが遺言者の望みにまかされていた

え 遺言者以外の意思の介入

添え手をした者の意思が介入した痕跡がない
→遺言者の筆跡を変える程度には至っていない
※最高裁昭和62年10月8日

文字の判読可能性と『自書』判断の具体例

遺言書の文字が判読できないと『自書』として認められません。実務では,筆記状況が判読の可否の境界付近にあるケースもよくあります。この場合の『自書』の判断の傾向についてまとめます。

<文字の判読可能性と『自書』判断の具体例>

あ 遺言事項

遺言事項については判読することができる

い その他の事項

その他の事項については判読が困難である
遺言事項ではないということは読み取ることができる

う 判断の傾向

『自書』として認められる
→遺言は無効とならない
※『遺言無効確認請求事件の研究(上)』/『判例タイムズ1194号』p52

『自書』性と作成者の判断の関係(概要)

遺言の解釈・主張の種類として,自書とは別に『作成者』に関するものがあります。つまり,偽造・変造が疑われ,主張されるというものです。
自書(性)と作成者の判断は似ています。また実際に,重複して主張されるケースが多いです。
作成者の判断に関しては別の記事で詳しく説明しています。
<→★『作成者の判断』

遺言作成の際の『自書』の注意点(概要)

以上は,純粋な遺言の有効性についての説明でした。一方,遺言を作成する際は,このような解釈について曖昧なことがないようにしておくことが望ましいです。

<遺言作成の際の『自書』の注意点(概要)>

あ 不完全による紛争発生

遺言の『自書』が確実なものでない場合
→以上のような『自書』の解釈の紛争につながる
例;『自書』を欠くため無効であるという主張で裁判となる

い 遺言作成の際の注意(概要)

遺言作成の際は確実・万全に方式に適合させることが好ましい
詳しくはこちら|遺言作成や書き換えの際の注意・将来の紛争予防の工夫

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