介護事業の指定取消し処分とその回避方法についてわかりやすく解説

author:弁護士法人AURA(アウラ)
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介護事業を営む者にとって、指定取消し処分は避けたい悪夢のような出来事です。指定取消し処分を受けると、介護サービスの提供が難しくなり、事業者にとっては大きな影響が及びます。しかし、指定取消し処分を回避するためには、法令遵守や適切な運営が不可欠です。この記事では、指定取消し処分の意味や要因、そして回避方法について詳しく解説します。介護事業者としての成功を築くための貴重な情報がここにあります。

指定取消し処分の現状とその背景

「指定取消し」は、介護事業者にとって避けるべき重大な問題です。一見、「私たちの事業所には関係ない」と思われるかもしれませんが、予期せぬ行政の抜き打ち監査が行われる可能性もあるのです。

2020年度の厚生労働省のデータによれば、指定取消しや効力の停止処分を受けた事業所は109件。この数字は過去10年間で最も少ないものでした。これには新型コロナウイルスの影響も大きく、行政の指導活動自体が落ち込んだ結果と考えられます。

指定取消しの主因

指定取消し処分の主な理由を見ると、介護報酬の不正請求が51.7%と半数以上を占めています。次いで法令違反が31.7%、虚偽報告が20.0%、人員基準違反が15.0%です(いくつかのケースで理由が重複しています)。

サービス別の傾向

サービス種別で見ると、訪問介護が26件と最も多く、その後に居宅介護支援12件、グループホーム7件、地域密接型通所介護6件と続きます。特に訪問介護事業者に指定取消し処分が多かったことが分かります。

これらのデータから、指定取消し処分の背景や現状が見えてきます。事業者としては、常に適切な運営を心がけ、リスクを最小限に抑える必要があります。

指定取消し処分の基準:いつ行われるのか?

介護事業所における指定取消し処分は、特定の基準に基づいて行われます。具体的には、介護保険法の第77条1項(居宅介護支援事業については第84条1項)に、その基準が詳細に定められています。

指定取消し処分が行われる主な要件

以下に、指定取消し処分が行われる主な要件を簡潔にまとめます。

要件のカテゴリ詳細
刑事罰の適用介護事業者が禁錮刑以上の刑に処された場合。
指定条件違反事業運営において指定条件に違反があった場合。
定員不足必要な人員を確保できなくなった場合。
運営基準の不適合適切な事業運営ができなくなった場合。
義務違反介護事業者としての義務に違反した場合。
不正請求介護サービス費の請求に不正があった場合。
報告義務違反虚偽の報告を行い、または報告を怠った場合。
検査拒否虚偽の答弁を行い、または検査を拒否・妨害した場合。
不正な指定取得不正な手段で事業所の指定を受けた場合。
法令違反政令や法令に基づく命令に違反した場合。

このような要件を理解し、適切な運営を心がけることが、指定取消し処分の回避に繋がります。

行政処分と指定取消し処分の進行手順

介護施設や介護事業者が違反行為を疑われる場合、行政処分が段階的に進行します。指定取消し処分は行政処分の中で最も厳しい措置であり、通常、重大な理由がない限り、直ちに行政処分を受けることはありません。

ただし、報告書の提出が要求されたにもかかわらずこれに従わなかったり、虚偽の報告を行った場合、指定取消し処分を受ける可能性が高まります。したがって、速やかかつ誠実な対応が求められます。以下に、具体的な流れを要約して説明します。

運営指導

定期的または随時の検査や指導が行われ、報告書の提出が要求されることもあります。著しく悪質であるか、利用者の生命に危険がある場合、監査へと進行します。

監査

立ち入り検査や出頭要請などが行われます。著しく悪質であるか、利用者の生命に危険がある場合、改善勧告に進行します。

改善勧告

改善報告書の提出が求められます。期限内に勧告に従わない場合、事業所名が公表されることもあります。

改善命令

勧告に従わない場合、行政処分や命令が行われ、改善報告書の提出が求められます。事業所名が公表されることもあります。

行政処分・指定取消し

違反の内容に応じて、指定の効力が全てまたは一部停止される行政処分が行われます。

指定取消し処分を受けた場合の影響

指定取消し処分を受けると、介護事業所の運営には深刻な影響が及びます。具体的な影響は主に以下の3つです。

介護事業の継続が難しくなる

指定取消し処分を受けた場合、国民健康保険団体連合会(国保連)から介護報酬を受け取ることができなくなります。通常、介護事業者は指定を受けることで、市町村が利用者の代わりにサービスに掛かった費用のうち、原則的には8割または9割を支払ってもらえます(介護保険法41条6項)。これにより、利用者の負担を軽減し、介護サービスの提供が可能となっています。

しかし、指定が取消されると保険の適用がなくなり、利用者は全額自己負担となります。結果として、既存の介護事業を継続することが事実上難しくなります。

不正利得の返還が求められる

不正請求された介護報酬は、指定取消し処分において最も一般的な事由の一つです。不正請求が発覚すると、介護事業者は指定取消し処分だけでなく、これまでに不正に得た介護報酬の全額返還、および課徴金の徴収処分を受けることになります。

不正受給された介護報酬を自発的に返還することで、徴収処分を免れる可能性もあります。ただし、極めて悪質な不正請求の場合は、自発的な返還が受け入れられず、詐欺罪で刑事告訴される可能性も考えられます。どちらのケースでも、介護事業者の経営は大きな困難に直面します。

役員の介護事業への参画制限

指定取消し処分を受けた場合、取消し日から5年間は新たに指定を受けることができなくなります。また、法人の場合は、代表者だけでなく、役員(取締役、執行役員など)や実質的な支配者も同様に5年間の指定制限が課せられます(介護保険法70条2項6号~同項6号の3)。

このため、該当する役員が別の法人や組織で新たに介護事業を始める際でも、指定を受けることが制限されます。指定取消し処分は、介護事業者とその関係者にとって大きな制約をもたらします。

指定取消し処分を受ける可能性のある事由

介護事業者の指定取消し処分要件は、介護保険法77条1項の1号から13号までに定められています。以下では、具体的な指定取消し処分事由について解説します。

1. 不正請求

介護保険料の不正請求は、指定取消し処分の中で最も多い事由の一つです。令和2年度の指定取消し事由においては全体の27.2%を占めています。不正請求が発覚した場合、介護保険料の指定取消し処分だけでなく、不正に得た介護報酬の全額返還と課徴金の徴収処分も受けることになります。結果として、介護事業の継続は事実上不可能となります。

2. 運営基準や人員基準の違反

介護サービス事業所が、都道府県の定める人員数を満たせなくなった場合や、運営基準に適合しなくなった場合、指定取消し処分を受ける可能性があります。特に、人手不足の影響でシフトを組みにくくなり、虚偽の報告を行った場合は、虚偽報告とあわせて指定取消し処分の対象となることがあります。適切な人員体制の確保が求められます。

3. 利用者の人格尊重義務違反(虐待、身体拘束など)

利用者に対する虐待や身体拘束は、人格尊重義務違反に該当し、指定取消し処分の事由となります(介護保険法74条6項)。事業者は要介護者の人格を尊重し、法令や命令を遵守し、忠実に職務を遂行しなければなりません。虐待や身体拘束の発生は、事業者のマネジメント不備によることが多く、悪質な場合は監査や指定取消し処分の対象となります。

4. その他の大規模な不祥事

介護事業者またはその関係者が禁錮刑以上の刑に処された場合も、指定取消し処分の対象となります。例として、傷害罪、名誉毀損罪、運転過失致死傷罪、業務上過失致死傷罪、業務上横領罪などが挙げられます。また、介護職員による窃盗、利用者への傷害、業務上過失致死、送迎時の交通事故(危険運転含む)なども、行政処分の対象となる可能性があります。

指定取消し処分を未然に防ぐためにできること

  1. コンプライアンス(法令遵守)の徹底: 介護事業者は、介護保険法の基準を厳守し、不正請求や法令違反を行わないように努力すべきです。不正な行為に走ることは、最終的に事業の存続を脅かすことになります。適切な記録と報告の徹底、トレーニング、監査体制の整備が大切です。
  2. 現場での問題の迅速な把握と解決: 事業所内での問題やトラブルに対しては、迅速に対処し、改善策を講じる仕組みを構築することが重要です。現場からのフィードバックを受け入れ、改善プロセスを継続的に行うことで、問題が悪化する前に対処できます。
  3. 透明性と風通しの良い組織体制: 職員やスタッフが問題を報告しやすい環境を整えることが大切です。風通しの良い組織文化を醸成し、問題が表面化しやすくなるような仕組みを作りましょう。

指定取消し処分を受けた場合の対処方法

審査請求

指定取消し処分に対して不服がある場合、介護事業者は介護保険審査会に対して審査請求を行うことができます。不服を申し立て、事情を説明し、処分の取り消しを求めることができます。

取消訴訟

審査請求が不認容となった場合、介護事業者は裁判所に対して行政処分の取消訴訟(行政訴訟)を提起できます。しかし、行政訴訟はハードルが高く、成功が難しい場合があります。

指定取消し処分を受けた場合、法的な手続きを迅速に進める必要があります。審査請求や取消訴訟に関して、法的なアドバイスを受けることが重要です。また、事業所の継続が難しい場合は、他の選択肢やアフターケアについても検討する必要があります。

指定取消し処分を受けないためには、適切な運営とコンプライアンスの確保が最も重要です。違反行為を回避し、問題が生じた際には迅速な対処と法的なアドバイスを活用することが、事業の安定と信頼性の向上につながります。

まとめ

介護事業は社会的に重要な役割を果たし、多くの人々に支えられています。指定取消し処分を受けないために、適切な運営とコンプライアンスが不可欠です。常に法令を順守し、サービス提供の質を高める努力を怠らないことが、介護事業者としての信頼と成功の鍵です。安心して高品質な介護を提供し続けるために、今後の取り組みを考えてみてください。


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