遺留分算定のための基礎財産の計算方法

author:弁護士法人AURA(アウラ)
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改正後民法1043条1項(改正前1029条)

第1043条 遺留分を算定するための財産の価額は,被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。
2 条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は,家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って,その価格を定める。

平成30年改正民法により,遺留分制度の内容が大きく変更されました。
令和元年6月30日までに開始した相続については,改正前の規定が適用されます。令和元年7月1日以降に開始した相続については,改正後の規定が適用されます。

遺留分の侵害があった場合,侵害を受けた者(遺留分権利者)は遺留分減殺請求(改正前)又は遺留分侵害額請求(改正後)ができます。民法改正の前後で違います。もっともいずれの請求をする場合でも,最初に遺留分算定基礎財産の金額の計算をするのは共通しています。

遺留分算定のための基礎財産の計算式

(計算式)

遺留分算定のための基礎財産
= 積極(プラス)財産+贈与した財産− 消極財産(相続債務)

積極財産

〈積極財産に含まれるもの〉

・遺贈の目的物(の価額)

・死因贈与(の目的物の価額)

・生命侵害による慰謝料請求権

被相続人が請求の意思を表明しなくても当然相続されます。
慰謝料(ないしその性質を持つもの)は一身専属性があるのでこれに含まれないのではないかとの疑問があるかもしれませんが,判例によれば積極財産(B)に含まれます。

・清算的財産分与請求権・慰謝料的財産分与請求権(民法768条)

〈積極財産に含まれないもの〉

被相続人に帰属してた積極財産でも例外的に遺留分算定のための基礎財産の計算では除外する(積極財産Bに含めない)ものもあります。

・祭祀財産(系譜・祭具・墳墓など)
詳細は,祭祀主宰者,祭祀供用物の承継

・一身専属権:扶養請求権(民法752条,877条等)
       扶養的財産分与請求権(民法768条)

贈与した財産

不公平な財産の動きを計算上元に戻す(持ち戻し)という趣旨です。
どの範囲で戻すのかについては別の条文で定められており,解釈の問題も出てきます。

「贈与」には(贈与以外の)無償処分が含まれます。

基礎財産の評価方法

① 評価方法

積極財産Bや贈与した財産Cについては,加算する前提として評価額を出す必要があります。
財産は客観的基準により評価しますが,その評価は原則として取引価格(交換価値)によって行います。被相続人の主観的な評価を用いることはありません。

② 債権(改正前後)

遺留分算定基礎財産の中に債権がある場合,債権の評価額を出すことになります。これもマーケット価格を用います。<債権の評価方法(改正前後)>

債権の評価も取引価格(マーケット価格)によります。
額面額と同額の評価となるとは限りません。
担保の有無,債務者の資力などを考慮したうえで評価し,回収可能性で違ってくることになります。

③ 不動産

その性質や所在地などを考慮した取引価格により評価します。

担保の負担がある場合はその負担額を差し引くのが一般的です。

担保に供されている不動産は,その取引価格から被担保債務を差し引いた価格により評価します。
ただし,被担保債務が既に相続財産として評価されている場合には差し引く必要はありません。

※農地

「農地の評価方法は,宅地転用の可能性の有無により決定されるべきもので,現に近隣地域が宅地に造成されていて宅地転用の可能性が高い農地については,時価方式で評価するのが相当である
他方,現に農耕の用に供されていて,今後も当分の間宅地として転用される見込みが薄い農地については,農地の収益性から基本価格を算定する方式によるのが相当である。」(大分家裁中津支部昭和51年4月20日)

④ 集合財産・事業

事業などの集合財産は,個々の不動産,動産,権利の価値を評価するのではなく,1つの集合体として収益価値によって評価するという見解があります。事業に用いている財産は,純粋な個々の財産の価値を足し合わせても,事業用財産全体の収益とリンクしていないことになります。そこで,全体としての収益から評価額を出す方が適切といえます。

⑤ 負担付贈与・不相当対価による有償行為

財産の評価を単純に出すことができないものとして,負担付贈与や異常に安い金額で売却したものの扱いや,条件付きや存続期間が確定していない権利の評価などがあります。

説明解説する人

財産評価の基準時

① 相続開始時

財産評価の基準時(時点)は相続開始時とする見解が一般的です。

② 遺産分割時

不動産の価額の算定については,遺産分割時の評価額とします。

③ 口頭弁論終結時

遺留分減殺請求(改正前)に対して,その相手方(受遺者・受贈者)が価額弁償の抗弁を主張することにより,相手方は現物の返還に代えて弁償金の支払で済ませることができます。その弁償金を計算する際の財産評価の基準時は口頭弁論終結時(弁償がされる時に最も接着した時点としての事実審口頭弁論終結の時)とするのが一般的見解です。

④ 処分額

価額弁償の抗弁と似ているものに,遺留分減殺請求の前に相手方が当該財産を第三者に譲渡した場合の価額賠償(弁償)があります。
遺留分減殺請求(改正前)の前に受遺者・受贈者が目的物を第三者に譲渡した場合,遺留分権利者は価額賠償(弁償)を請求できます。この価額賠償(弁償)は処分額を基準とします。価額弁償の抗弁における弁償金の計算と,減殺前の譲渡における賠償金の計算では,評価基準時が異なります。

遺贈・贈与と類似する財産の移転

遺留分に関して問題になることが多いのは,遺贈・贈与そのものではないが実質的にこれと同じといえるような財産です。

① 生命(死亡)保険金,死亡退職金,遺族年金・弔慰金

生命(死亡保険金),死亡退職金,遺族年金・弔慰金は,遺贈(積極財産)ではなく贈与でもないので,原則として遺留分算定のための基礎財産に含まれません。
しかし,個別的な事情によっては例外的に遺贈や贈与に準じるものとしてこれに含めることがあります。

詳細は,相続と生命(死亡保険金),相続と死亡退職金,相続と遺族年金・弔慰金

② 信託の扱い

信託は遺留分による制限を受けるというのが通説ですが,具体的な扱いには統一的見解がありません。

③ 財団設立行為遺産の減少という点で贈与と類似するので,改正前民法1030条の贈与と同様に扱われます。

消極(マイナス)財産(相続債務)

〈含まれるもの〉

遺産のうちマイナス財産(債務)を差し引きます。条文上は「債務の全額」(を控除する)と規定されています。文字どおり,原則としてすべての債務を差し引きます。

被相続人の私法上の債務及び公租公課,罰金などの公法上の債務があります。

〈含まれないもの(差し引かないもの)〉

葬儀費用,相続財産に要した費用(遺言執行に要した費用,相続税,相続財産の管理費用

),被相続人の保証債務は含まれません。

被相続人が保証債務を負担していた場合,形式的には債務なので,遺留分算定のための基礎財産から控除するのではないかとの疑問が生じるかもしれません。

しかし,主債務者が弁済できれば保証債務は具体化しませんし,仮に保証債務を履行することになっても,その後主債務者に求償して回収できることもあります。

そこで,現実的・実質的に負担する可能性が高いような場合にだけ遺留分算定のための基礎財産から控除するという扱いになります。


その他、ご不明な点がございましたらお気軽にお問い合わせください。

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