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共有者から第三者への妨害排除請求(返還請求・抹消登記請求・第三者異議訴訟)
共有者は第三者による共有物の妨害(侵害)に対して,妨害排除を請求する権利を持ちます。
具体的な請求の内容にはいくつかのバリエーションがあります。
本記事では,共有者から第三者への妨害排除請求権について説明します。
所有権・共有持分権に基づく妨害排除請求の基本
最初に,妨害排除請求権の基本的な理論を説明します。
共有は所有の1つの形態です。そこで,共有者が持つ共有持分権は,所有権と同質のものです。
そのため,共有者は所有権に基づく妨害排除請求と同じ内容の請求をすることができます。
<所有権・共有持分権に基づく妨害排除請求の基本>
あ 所有権に基づく妨害排除請求権
第三者が所有権を侵害している場合
→所有者は,所有権に基づく妨害排除・妨害予防請求ができる
い 共有持分権に基づく妨害排除請求権
第三者が共有物を侵害している場合
→共有者は単独で,共有持分権に基づく妨害排除・妨害予防請求ができる
不動産の所有権に基づく妨害排除請求の典型例(前提)
所有権(共有持分権)に基づく妨害排除請求権は,いろいろな請求権の総称といえます。妨害排除請求権の内容としては,明渡や引渡の請求や不当な登記の抹消請求があります。
<不動産の所有権に基づく妨害排除請求の典型例(前提)>
あ 明渡・引渡請求
無権利者が不動産を占有している
→所有者は明渡・引渡を請求できる
い 抹消登記請求
無権利者の登記が存在している
→所有者は抹消登記手続を請求できる
う 第三者異議訴訟の提起(参考)
共有物について不当な差押がなされた場合
差押を解消するための手続として第三者異議訴訟がある
共有者単独での共有物の返還請求
共有物を第三者が占有している場合,各共有者は単独で返還を請求できます。法律構成としては大きく2種類があります。
<共有者単独での共有物の返還請求>
あ 前提事情
共有物を第三者が不法に占有している
い 共有者単独の返還請求の可否・範囲
各共有者は第三者に対して共有物全部について明渡・引渡を請求できる
各共有者が単独で請求できる
う 実体上の共有者単独の返還請求の法律構成
判例 | 法律構成 |
大判大正7年4月19日 | 理論明示なし |
大判大正10年3月18日,大判大正12年2月23日 | 不可分債権類似説 |
大判大正10年6月13日,大判大正10年7月18日,最高裁昭和31年5月10日 | 保存行為説 |
大阪高裁平成6年3月4日 | 保存行為・不可分債権類似説の両方 |
※鎌田薫稿『ジュリスト935号臨時増刊 昭和63年度重要判例解説』有斐閣1989年6月p65参照
※原田純孝稿『一部共有者の意思に基づく共有物の占有使用とその余の共有者の明渡請求』/『判例タイムズ682号』1989年2月p64参照
※滝澤孝臣編著『最新裁判実務大系 第4巻 不動産関係訴訟』青林書院2016年p361参照
え 近年の傾向
保存行為の概念を介在させなくとも,共有持分権そのものの効力として妨害排除請求ができる
※『注釈民法(7)』有斐閣p312
※滝澤孝臣編著『最新裁判実務大系 第4巻 不動産関係訴訟』青林書院2016年p361
共有者全員から授権を受けた共有者による訴訟遂行(参考)
少し一般的な議論から外れますが,個別的事情により,共有者の一部だけが共同賃貸人になり,その結果,”共有者の一部だけが明渡訴訟を申し立てることと和解を成立させることができる(適法である)と判断した判例があります。参考として紹介だけしておきます。
<共有者全員から授権を受けた共有者による訴訟遂行(参考)>
あ 要点
共有者全員が共有者の一部(AB)に,賃料取立,明渡の交渉その他の措置の権限を付与した
AB(だけ)が共同賃貸人として,賃借人に対する明渡請求の訴訟を申し立て,裁判上の和解をすることは適法である
い 判決文引用
原判示によれば,被上告人両名が本件家屋の共有者総会において役員に選任され,従前から上告人に賃貸していた本件家屋の賃料の取立又は場合によつてはその明渡交渉並びに右目的を達するため適宜の方法をとる権限を授与され,
これに基づき被上告人両名が共同賃貸人となり上告人に対し本件家屋を賃貸することとし,その公正証書を作成し,
次いで被上告人両名が原告となり上告人に対し本件家屋の明渡訴訟を提起し,その結果右裁判上の和解成立に至つたというのであり,
原判文ならびに記録によれば,右家屋明渡訴訟は賃借人たる上告人の賃料債務不履行による解除を原因とするものと解せられるから,実体法上の権限に基づき本件家屋の共同賃貸人となつた被上告人両名が賃貸人として上告人に対し賃貸借終了を原因として本件家屋に関する訴訟を提起し訴訟行為としての裁判上の和解をなす資格を有するとした原審の判断は,正当として首肯できるところであり,被上告人両名の訴訟追行権欠缺をいう所論は採用できない。
※最判昭和37年11月9日
共有者単独での抹消登記請求
共有の不動産に不正な登記がある場合,各共有者は単独で抹消登記手続を請求できます。抹消登記請求の法律構成について,保存行為と指摘する判例もあります。一方,共有持分権の効果(である妨害排除請求権)そのものであると示す(ように読める)判例もあります。
判例が採用した法律構成を整理します。
<共有者単独での抹消登記請求>
あ 共有者単独の抹消登記請求の可否
共有の不動産について不正な登記がある場合
各共有者は単独で抹消登記手続を請求できる
い 実体上の共有者単独の請求の法律構成
保存行為と指摘する判例と指摘しない判例がある
各共有者が共有持分権の効果として共有不動産全体について妨害の排除を請求できると読める判例もある
詳しくはこちら|第三者(共有者以外)の不正な登記の抹消請求の判例の集約
う 共同訴訟形態(参考)
共有者が原告となった登記手続請求訴訟の共同訴訟形態について
(固有)必要的共同訴訟ではない
類似必要的共同訴訟である
詳しくはこちら|不正な登記の抹消請求における共同訴訟形態・原告になれる共有者の問題
共有物の違法な差押に対する第三者異議訴訟
第三者が違法な差押の申立をすることにより,共有物が差し押さえられてしまうケースもあります。
違法な差押を受けた共有物が動産である場合には,執行官が共有物そのものを占有するので,共有者の全員が侵害された状態になります。
そこで,各共有者は単独で第三者異議訴訟を提起することができます。
<共有物の違法な差押に対する第三者異議訴訟>
あ 事案
共有物の共有者はA・Bであった
(共有物は動産であった)
Cが共有者の1人Aに対する債務名義を有していた
Cが共有物全体の差押を行った
い 第三者異議訴訟提起
第三者異議は執行の排除を求めるものである
→保存行為に該当する
→Bは第三者異議の訴えを提起することができる
※東京高裁昭和63年11月7日
う 特殊性
『い』の第三者異議の対象は動産執行であった
動産執行の執行方法について
→目的動産の占有を執行官が取得するものである
→共有持分だけを対象にすることができない
え 不動産を目的とする執行(参考)
執行の目的物が不動産である場合
→執行方法は登記や競売である
→共有持分だけを対象にすることができる
→『い』と同じ判断が適用されない可能性も十分にある
その他、ご不明な点がございましたらお気軽にお問い合わせください。