目次
戸籍調査
① 基本
相続手続においては相続人の範囲を確認する必要があります。実際には,亡くなった人の「生まれてから亡くなるまでの連続した戸籍事項証明書(戸籍謄本)を集めて調査します。
戸籍事項証明書によって,法定相続人の範囲が分かるのです。
戸籍には血縁関係や婚姻や養子縁組による身分関係が記録されているので,その情報によって被相続人と相続人の関係が判明します。戸籍のほかに、改製原戸籍が必要になる場合があります。
② 戸籍事項証明書(戸籍謄本)
相続人同士は,市役所で被相続人の戸籍事項証明書(戸籍謄本)の交付を受けることができます。相続人同士は,遺産分割の協議や調停を行ったり,遺留分の権利を行使するといった利害関係があるからです。
例えば複数の兄弟が相続人であれば,お互いに相手の戸籍事項証明書を取得できることもあります(戸籍法10条の2第1項1号)。
被相続人の戸籍(除籍)事項証明書だけで相続関係が判明するので,相手の戸籍事項証明書は不要ということもあり得ます。
〈大正生まれの方の例〉
被相続人(故人)が出生したときの戸籍
結婚により別戸籍に入籍したときの戸籍
家督相続(昭和22年5月までの旧民法にあった制度)による戸籍
昭和32年法務省令27号により新たに戸籍編成したため本戸籍を削除した際の戸籍
転籍(本籍地も変更した場合)したときの戸籍
平成6年法務省令51号による改製につき削除したときの戸籍
このような経緯を経て死亡した被相続人の場合、計6通の戸籍謄本が必要になります。
住民票
① 住居基本台帳の閲覧,写しの交付請求者の範囲
一般に「住民票」と呼ばれているものは,正式には「住民基本台帳」(略して「住基台帳」)と呼びます。住民基本台帳には,住所,氏名,生年月日などの情報が記録されています。
最近,住民基本台帳のネットワーク化(住基ネット)が進められています。
住民基本台帳に記録されている情報の閲覧,写しの交付請求をできる者については,住民基本台帳法に規定されています。
〈閲覧・写しの交付請求権者〉
主体 | 閲覧 | 写しの交付請求 |
国,地方公共団体 | ○(11条) | ○(12条の2) |
個人,法人 | △11条の2(公益等の目的限定) | ― |
本人等 | ↑に含まれる | ○(12条) |
本人等以外の者 | ― | △12条の3(※1) |
※1 自己の権利行使などの目的限定,弁護士等の職務上請求を含む(12条の3)
〈12条の3第1項1号〉
自己の権利行使,義務履行のために住民票の記載事項を確認する必要がある者(※4)
貸金返還請求,明渡請求など,相手に対して何らかの請求権を持っていることが前提である
〈12条の3第2項,3項〉
特定事務受任者が業務遂行上必要な場合(職務上請求)
② ダイレクトメール送付目的での閲覧,写しの交付請求はできません。
③ 不正な情報取得に対する罰則
「目的」を偽って申告し,不正に住民基本台帳の情報を得るような不正行為は,罰則の対象とされています。
戸籍事項証明書の交付請求ができる者
① 身内
形式的な血縁関係によって取得が可能とされている範囲は戸籍法10条に規定されています。
・戸籍に記載されている者
・戸籍に記載されていた者(ただし,誤記によって記載されていたものを除く)
・上記の配偶者,直系尊属,直系卑属
つまり,自分の戸籍についての証明書は当然取得できるのに加え,配偶者・直系尊属・直系卑属までは取得できるということです。
② 身内以外
形式的な血縁関係はない場合でも,一定の必要性に応じて取得が認められるケースも戸籍法10条の2に規定されています。・自己の権利を行使し,または自己の義務を履行するために戸籍の記載事項を確認する必要がある場合
・国や地方公共団体に提出する必要がある場合
・戸籍の記載事項を利用する正当な理由がある場合
・弁護士,司法書士等が業務遂行上必要な場合(職務上請求)
相続開始前の異母兄弟の存否の調査
異母兄弟(半血の兄弟)がいるかどうかを調査したい場合もあるでしょう。
異母兄弟は将来,相続人同士の関係になる可能性があるでしょうが,相続開始前はあくまで可能性であり,相続人同士の関係ではありません。
したがって,相互に相手の戸籍事項証明書を取得することはできません。
〈設例〉
父が不倫相手との間の子供(B)を認知し,私(A)とは兄弟になるようだ。
Bが認知されていた場合,AとBは将来相続人同士となるが,現時点(相続開始前)では法的な相続関係はない。
私(A)は,Bの戸籍事項証明書を取得することはできるのか。
〈父の戸籍事項証明書により認知の有無は分かる〉
子からみて父は直系尊属なので,子は父の戸籍事項証明書を取得することができます。
父の戸籍事項証明書を見れば,父がBを認知しているかどうかが判明します。
逆に,父が,子を隠しておくために認知をしていないケースもあります。その場合は当然ですが,父の戸籍には認知の情報は載っていません。
戸籍の異動(新戸籍の編製・転籍)によって移記される事項とされない事項
戸新戸籍の編製や転籍によって,籍の情報が,別の戸籍に移ることがあります。
この場合,従前の戸籍の記載内容には,新たな戸籍に移記される(移される)ものと移記されないものに分かれます。
移記されない事項は,一見すると消えたように見えるので,戸籍の調査では注意が必要です。
〈戸籍の異動によって移記される事項〉
出生に関する事項
・ 認知に関する事項(非嫡出子)
・ 現に養親子関係の継続する,養子縁組に関する事項(養子)
・ 婚姻に関する事項・配偶者の国籍に関する事項(夫婦)
・ 親権or未成年者の後見に関する事項(未成年者)
・ 推定相続人の廃除に関する事項
・ 日本の国籍の選択の宣言or外国の国籍の喪失に関する事項
・ 名の変更に関する事項
・ 性別の取扱いの変更に関する事項
〈戸籍の異動によって移記されない事項〉
・過去の婚姻で解消(離婚)済のもの
・離婚(離婚歴を消した「戸籍ロンダリング」と言う人もいます)
・過去の養子縁組で解消(離縁)済のもの
戸籍の移動で過去の婚姻や離婚(離婚歴)は,消えたようになりますが,公的な記録として消失するわけではありません。
移記前の戸籍事項は除籍として保管(記録)されているので,これを閲覧or証明書交付請求をすれば,移記されなかった事項も判明します。
※「戸籍事項証明書」という名称
戸籍の原本は昔は紙でした。そこで,情報を取得する場合は,コピーをもらいました。そのコピーを「戸籍謄本」と呼んでいました。「謄本」とは,写し(コピー)という意味です。
現在は,戸籍の内容はオンライン化されていて,サーバー(コンピュータ)に入っているので,情報を取得する場合は,情報がプリントアウトされ,その紙が交付されます。
写し(コピー)なら「謄本」ですが,これは写し(コピー)ではないので正確には「謄本」ではありません。
そこで,「戸籍事項証明書」と呼びますが,実質的には「戸籍謄本」と変わりはありません。そのため,実務では,俗称的に「戸籍謄本」と古いネーミングを用いる人もいます。
弁護士・司法書士等による職務上請求
① 職務上請求
住民票写し,戸籍事項証明書の取得は,権利行使に必要な者もできることになっています。
しかし,実際には,一般の方が交付請求をすると,役所ではその必要性を慎重に判断するため,事情を聴取されるなど,ある程度時間がかかることもあります。
この点,弁護士や司法書士などが職務上請求をする場合はスムーズです。
職務上請求書という,弁護士等の資格者だけが使用する用紙があるのです。
もちろん必要性などについて一定の記載を行いますが,それ以上に質疑がなされることはほとんどありません。
② 弁護士の職務上請求における戸籍調査の要件
弁護士は,受任した案件の処理に必要な範囲で依頼者以外の者の戸籍の調査が認められています。
この職務上請求は,一般の戸籍の調査よりも大幅に手続(要件)が緩和されています。
ただし,単なる戸籍調査自体の依頼ということはできません。
何らかの権利や義務といった法的な問題が前提となります。例えば兄弟であれば,理論的には扶養義務があります。扶養の請求をする,またはされる(予定)という状況があれば,依頼を受けるということもあり得ます。
固定資産税評価証明書
不動産の固定資産税評価額を知りたい場合がありますが,所有者でないと無条件に取得できるわけではなく,次のような場合に限って,評価証明書を取得できます。
・使用・収益を目的とする権利を有する者(対価支払あり限定)
・民事訴訟・他の裁判の申立に際して固定資産税評価額を使う者
法務局の法定相続情報証明制度
相続関係の資料は,以前は戸籍(事項証明書)が唯一のもので,過去の戸籍(除籍謄本・改製原戸籍)を含めば,数が多くなるので,一般の方は読み解くだけでも苦労したり,読み違えたりすることがよくありました。
そこで,平成29年5月29日から,法務局(登記所)の法定相続情報証明制度が始まりました。多くの戸籍情報から,法定相続人の範囲を法定相続情報一覧図としてまとめ,これを法務局で保管するという制度です。
いったん作成すれば,法務局で認証印を押してくれ,その後の登記手続などでは,この法定相続情報一覧図だけで足ります。そのため,多数の戸籍関係資料から解放されます。
ただし,保管期間は約5年間と短く設定されています。
法務省:「法定相続情報証明制度」について (moj.go.jp)
その他、ご不明な点がございましたらお気軽にお問い合わせください。