改正後民法1048条・改正前1042条
〈改正後民法1048条〉
(遺留分侵害額請求権の期間の制限)
第千四十八条 遺留分侵害額の請求権は,遺留分権利者が,相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは,時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも,同様とする。
〈改正前1042条〉
減殺の請求権は,遺留分権利者が,相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは,時効によって消滅する。相続開始の時から10年を経過したときも,同様とする。
民法1048条(改正前1042条)の期間制限の対象
民法1048条で期間が制限されるのは,遺留分そのものの権利行使です。この権利行使の後の(別の)権利行使については民法 1048条の制限は適用されません。
遺留分侵害額の請求権を行使することにより生じた金銭債権には,民法1048条の適用はなく,民法の一般の債権と同様の消滅時効(10年)の規定(民法166条1項)が適用されます。
平成30年改正前であれば登記手続請求や目的物返還(引渡)請求(共有持分移転登記請求)ということになりますが,これには行使期間の制限はありません。
ただし,金銭請求はもともと一般的に10年間の期間制限があります。この制限(消滅時効)は適用されます。
遺留分侵害額請求の流れと期間制限(改正後)
遺留分侵害額請求の意思表示(通知)をする。
→通知が相手方に到達した時点(民法97条1項)で金銭債権が発生する(効果が確定的に生じる)。
→遺留分権利者は相手方(受贈者や受遺者)に対して金銭請求をする。
→この請求は民法1048条(改正後)の期間を超えていてもよい。
※改正前遺留分減殺請求の意思表示(通知)を行う。
→通知が相手方に到達した時点(民法97条1項)で,権利移転(共有持分移転など)の効果が確定的に生じる。
遺留分侵害額請求と取得時効(平成30年改正による変更)
平成30年改正前の遺留分減殺請求に対して,生前贈与を受けた者(相手方)が,既に長期間目的物を占有していた場合に,取得時効が適用されるのではないかという問題がありました。取得時効が適用されるなら結論として遺留分権利者に返還しなくてよいということになります。
この点,判例は取得時効を否定しています。遺留分を優先するという判断です。
このような遺留分と受贈者の取得時効の対立は,平成30年改正後は生じません。遺留分権の行使は物権的効果をもたらさず,単なる金銭請求権を発生させるのみだからです。
取得時効よりも遺留分を優先するという結果は改正前後で変わっていないといえます。
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