遺言の記載事項

author:弁護士法人AURA(アウラ)
男性と女性

法定遺言事項と任意的事項

遺言に記載した場合に法的な効力を有する事項は,民法上規定されています。
主要なものは,遺産の承継財産の承継以外にも,認知などの身分行為を記載することもできます。

① 法定遺言事項

・相続の法定原則の修正

・相続以外の財産処分

・身分関係に課する事項

・遺言の執行に関する事項

② 任意的事項

遺言には法的には意味のない(法的効果が発生し,)記載をすることであっても,例えば,相続人に対するメッセージや感謝の気持ちなど,紛争予防として現実的な効果を生じる記載もよくあります。

・遺言者の気持ち

遺産承継内容を決めた気持ち・考えを記載すると,相続人が理解・納得するので,各種請求・主張を控える傾向となります。

・生前の財産の動きの説明

例;相続人の1人への生前贈与の意図・理由を明記しておく
→死後に「無断で取得・移転した」という主張・紛争を防ぐ

・遺言の撤回・変更の理由遺言を撤回・変更した場合,その理由・経緯を書いておくとトラブル予防になります。

遺言による財産承継の種類

① 相続分の指定(法定遺言事項)

相続人ごとの相続分の割合を指定する。

相続財産は遺産共有となるので,遺産分割が必要です。

② 遺産分割方法の指定(法定遺言事項)

相続財産は確定的に移転するので,遺産分割は不要です。

詳細は,「相続させる」遺言(特定財産承継遺言)

③ 遺贈(法定遺言事項)

相続人以外に財産を承継させる。

・特定遺贈・全部包括遺贈

→相続財産は確定的に移転するので,遺産分割は不要です。

・割合的包括遺贈

相続財産は遺産共有となるので,遺産分割は必要です。

④ 信託(遺言信託)

遺言の中に信託の設定を記載しておく。

民法には規定がなく,信託法で規定されています。

「遺言代用信託」とは別ものです。

⑤ 相続させる遺言

⑥ 相続人の廃除・廃除の取消

⑦ 特別受益の持戻し免除

⑧ 遺産分割における担保責任に関する別段の意思表示

⑨ 遺留分侵害額請求方法の定め

⑩ 身分関係に関する事項

・子の認知

事情によっては,生前に認知することを避けることがあります。

その代わりに遺言で認知します。

詳細は,遺言認知・死後認知

・未成年後見人の指定

・未成年後見監督人の指定

⑪ 遺言執行者の指定

詳細は,遺言執行者

    遺言執行に抵触する相続人の処分行為

⑫ 遺言による遺産分割の禁止

分割禁止の期間の上限は5年です。

遺言以外による分割禁止の指定は無効です。例えば,生前に推定相続人に通知したり,関係者間で調印したとしても効力がありません。

分割禁止をする理由は,(推定)相続人に若年者が含まれる場合に,成熟を待つためであったり,感情的に対立・紛争が予想される場合に,沈静化を待つためです。

遺産分割の禁止も分割を封じるという効果は同じですが,分割禁止の設定を遺言者1人の判断だけで行うことができます。

男性

相続以外の財産処分

・遺贈に関する事項(財産の承継の1つ)

・財団法人設立意思の表示

・財産の拠出

・信託の設定(財産の承継の1つ)

詳細は,遺言代用信託

遺言と異なる遺産分割

① 遺言執行者の選任又は遺産分割協議の禁止がある場合

遺言において『遺言執行者選任』が記載されている場合,遺言内容と異なる遺産の移転が行われたとしても,その効果は否定されます。

遺言で遺産分割が禁止されている場合は,文字どおり,遺産分割ができません。

これらの場合に,遺言と異なる内容の遺産承継の協議が成立しとしても,この協議(合意)は遺産分割としては認められません。遺言がないものとして扱われることはありません。

ただし,事情によっては,遺言どおりに財産が承継された後の新たな取引(契約)として遺産の承継が認められる可能性があります。相続後の新たな贈与・売買・交換契約として財産が移転することになります。

(遺言書の内容と子なる遺産分割をした場合の相続背と贈与税)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4176.htm

② 遺言執行者の選任及び遺産分割協議の禁止のいずれもない場合

この場合,遺言内容とは異なる遺産分割ができます。

課税上も遡及的な遺産分割として扱われます。

③ 遺言により,財産移転が確定(完了)する場合,その後の遺産分割は理論的には不可能で,遺産分割ではなく,新たな取引(契約)として財産を移転させることはできるだけということになります。しかし,相続人を含む当事者全員で協議がまとまった以上は,この協議を優先・尊重し,遺言の種類にこだわらず,遺産分割として扱うするのが調停・審判の実務です。

※相続分の指定(遺言では割合だけが指定されている)→遺産共有となるので,その後の遺産分割協議で具体的な承継内容が確定します。

遺産分割方法の指定→遺言により確定的・最終的に財産の移転が完了するので,指定とは異なる財産移転は民法上の遺産分割とはいえず,新たな取引(契約)によるものとなりますが,実務上はこれも遺産分割協議として処理されます。

④ 遺贈

特定遺贈について,遺贈の放棄がなされた場合は遡及的に遺贈が効力を生じないので,遺産分割協議が必要です。

包括遺贈は相続分の指定と同じです。

包括承継・特定承継

① 包括承継

・法定相続

・遺産分割方法の指定

「相続させる」遺言(特定財産承継遺言)もこれに該当する

・相続分の指定

② 特定承継

・特定遺贈

・死因贈与

③ 違い

〈包括承継が有利な場合〉

・株式譲渡制限

・対抗要件具備による確定的移転

・単独での登記申請

・農地法の譲渡許可

〈特定承継が有利な場合〉

・株式売渡請求の可否

・有利/不利のどちらでもない

・遺言執行者による執行の可否

〈株式譲渡制限〉

特定承継(「譲渡」)の場合,会社側の承諾が必要ですが(会社法107条1項1号),包括承継

は「譲渡」ではないので,会社側の承諾は不要です。

〈権利取得の対抗要件の要否〉

権利取得については,対抗要件(登記など)がないと主張できないものと,対抗要件がなくても主張できるものがあります。登記がないと主張できない状況のことを対抗関係といいます。

包括承継の場合,対抗要件がなくても第三者に対抗できます。「相続させる」遺言も同様です。

特定遺贈のような特定承継の場合,対抗関係となります。ただし,遺言執行者が選任されている場合は別です。

〈不動産登記・共同申請の要否〉

包括承継の場合,単独申請で行います。

特定承継の場合,共同申請で行います。

〈借地権譲渡承諾の要否〉

包括承継の場合,「譲渡」ではないから,承諾は不要です。

特定承継の場合,「譲渡」は特定承継なので,地主の承諾が必要です。

〈農地法の許可の要否〉

農地を譲渡する場合,包括承継であれば,許可は不要です。

特定承継であれば,農地法の適用があり,許可が必要です。

〈株式売渡請求の可否〉

譲渡制限株式について包括承継が生じた場合,包括承継をした者(権利者)に対する行使

ができます。

特定承継の場合,特定承継をした者(権利者)に対する行使はできません。

紅葉

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