遺言代用信託

author:弁護士法人AURA(アウラ)
若い男性と女性の弁護士

遺言の弱点

遺言代用信託の特徴を理解するには,通常の遺言との違いに着目すると分かりやすいです。
そこで最初に,通常の遺言の使いにくいところ(弱点)をまとめます。

・遺言者が認知症となると誰も財産を動かせなくなります。

・夫が遺言を作成する時点で,妻が認知症になる可能性が高まっている場合,認知症を発症した者が財産承継者(相続人)となってしまいます。

・相続で財産を承継した者が後で亡くなった場合,財産が想定外の者に渡ってしまうことがあります。

・財産を承継した者がその財産をサポートが必要な者の扶養のために使ってくれないことがあります。

遺言代用信託

① 信託

亡くなった時の財産の承継先を指定することによって,遺言と同じような機能を持たせることができます。これを「遺言代用信託」と呼びます。
遺言や生前贈与では実現できない,個別的な設定・機能を実現できるのです。
個別的に最適化した信託は,信託契約の内容として設定します。具体的には信託契約書の条項として規定することになります。

例えば,夫婦ともに老齢で,子は幼くないが知的障害であるという場合,各自の財産は配偶者にすべてを相続させるという遺言をするのが通常でしょう。しかし,既に配偶者が先に亡くなっている場合は,すべての金融資産・不動産を換金し,信託を設定します。受託者を親族などのうち信頼できる者とし,受益者を子(知的障害者)とします。

詳細は,https://www.shintaku-kyokai.or.jp/special/

② 受益者連続型信託

委託者が亡くなった時に受益者が変動するという内容の信託です。

「委託者が亡くなった時に受益者を長男から孫(おい,めい,子供のうちの1人)に承継させる。」という内容の信託契約を受託者と締結することにより,財産の利用権を旧受益者(長男)から新受益者(孫)とすると,1世代の相続をスキップすることになるため,節税効果は大きいです。

受益権の承継先として,信託契約時には存在していない者を指定することもできます。

特定の承継者を指定せず指定権者を指定しておくなどのいくつかのバリエーションがあります。

詳細は,https://www.niep.co.jp/report/journals/index016_m2.pdf

後見制度支援信託

詳細は,https://www.shintaku-kyokai.or.jp/special/how/guardianship.html

死後の定期的寄付

死後に残った資産を第三者(企業・ヒト・学校・研究機関・公益法人)に寄付したいというニーズは結構あります。

寄付はまとめて行うのではなく,一定金額ずつ分けて払いたいという人もいるでしょう。

通常の遺言ではこのような設定はできませんが信託を使えば実現できます。

信託の設定内容
信託期間n年間
財産交付毎年6月,12月の1日にn円ずつ交付する
残余財産信託期間満了時の残余信託財産は◯◯(寄附先)に帰属させる

遺産分割の凍結

将来相続が発生した時点で,遺産分割を凍結したいというニーズもあります。

「遺言による分割禁止」という方法もありますが,この方法では,凍結期間中の財産管理が非常に制限されます。

そこで,信託を活用することにより,財産管理について柔軟な設定が可能となります。

【信託契約書の文例】

(目的)

本信託は甲の推定相続人である3人の子どもが未だ若年であり,早期に相続取得した場合その管理保全に不安があるため,A死亡後も相当期間Bにより適正管理を続け,3人の子どもが社会人として成熟した後に最終帰属させ,もって遺産承継を全うすることを目的とする。

(期間)

信託期間は,2021年〇月〇日から2031年〇月〇日までの10年間とする。但し,期間満了日に未だAが生存している場合には,A死亡の日まで延長します。

(受益者)

本信託の受益者は,A本人であり,A死亡後はAの推定相続人とする。

(給付)

Bは,信託財産の収益金から信託報酬その他の費用を控除した残預金を金銭によりA又はA死亡後はAの推定相続人に各交付する。またBは,A又はA死亡後はAの推定相続人の生活又は療養の需要に応じるため,実際の必要に応じて定期に信託財産の一部を金銭により受益者に交付するものとする。支払いの金額,時期及び方法については,Aの指図に従い行う。

(信託財産の最終帰属)

Bは信託終了日に,Aの指図のある部分はこれに基づき,それがない場合には裁量により,平等分割を旨として信託財産の最終帰属を決定する。

(信託法の施行に伴う限定責任信託の登記事務の取扱いについて(通達))

http://www.e-profession.net/tutatu/h190820ms_1680.pdf

老夫婦

遺言信託

遺言の中に信託の設定を記載しておくというものです。
相続時に信託がスタートします。

遺言信託は,遺言の一種であるため,次のようなデメリットがあります。

・厳格な様式の規定の適用がある

・財産の引き渡しには遺言執行者が必要

・公正証書遺言』以外は,家裁の検認手続が必要遺言代用信託は,信託契約により設定されるので,上記のようなデメリットはありません。
信託契約の時点で信託がスタートします。遺言者(に相当する者)の生前にスタートします。

後継ぎ遺贈型遺言

〈具体例〉

遺言内容が,①遺言者が所有する不動産について,遺言者が死亡した場合には長男に相続させる。②次に長男が死亡した場合にはその不動産を次男に相続させる。③さらに次男が死亡した場合にはその不動産を孫に相続させる。」というものであった場合,この遺言は有効でしょうか。

受益者連続型信託を単純化して,遺言で同様の設定をすること,言い換えれば,通常の遺言は,遺言者が亡くなった時の承継者(受遺者)を指定するのに対して,その次の相続での財産の承継先を指定することはできるでしょうか。(1次的な)相続人や受遺者が亡くなった時に,誰が承継するかまでを指定する遺言(後継ぎ遺贈型遺言)は有効でしょうか。

後継ぎ遺贈型遺言の有効性については,いくつかの説がありますが,実務上は否定されています。その理由は,そもそも遺言は遺言者の相続時の承継先だけを拘束できるという遺言一般の本質論です。
その先の承継内容については,遺言者の希望にすぎず,拘束力はないということになります。信託では可能でも,通常の遺言では「次の相続」については決められないというわけです。

ペットへの相続

ペットを飼う方にとっては,亡くなった後のペットのケアが心配でしょう。財産は十分にあっても,飼育・看護が行き届くかどうかは別問題です。
より確実にペットを飼育するための法的な仕組みはいくつかの方法がありますが,信託をうまく活用することもできます。


その他、ご不明な点がございましたらお気軽にお問い合わせください。

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