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ビットコインとレガシー通貨の『預かる』の比較|『銀行』と似ている
ビットコインを使うには,最初に,例えば法定通貨である日本円とビットコインを取引所で交換・両替します。銀行や両替屋で日本円を外国通貨に両替するのと似ています。
① 銀行の業務内容
・日本円・外国通貨を顧客から預かる・貸す。
・他の種類の通貨と両替(交換)する。
② 仮想通貨交換業者の業務内容
・ビットコイン・他の仮想通貨を顧客から預かる。
約款上は「入金」「出金」という用語を用いている。
・ビットコインを法定通貨(日本円)と交換(売買)する。
約款上は,「委託売買」という用語を用いてい。
交換業者のサービスには,ビットコインや日本円を預かることも含まれているため,銀行預金と似ている状態にあります。
債権の差押え
〈日本円の預貯金〉
銀行に対し,払戻請求権の差押えをします。
〈生命保険金〉
保険会社に対し,解約して解約返戻金請求権の差押えをします。
交換業者が預かっている仮想通貨返還請求権の差押え
法的構成としては,
・寄託物の返還請求として(民法666条,662条)
・準委任に基づく受領物の引渡請求として(民法646条1項)
・合意・特約(無名契約)として(個別的な合意・特約は優先されるますが,これによって返還請求権が否定される場合もあるでしょう)
法的構成をクリアしないと差押えができないわけではなく,保管中のビットコインの送信(出金)先のアドレスを指定し,送信作業を要請する権利が認められる場合には,差押えができる可能性があります。
※ビットコインの保管・送信・受信には「ウォレット」を使います。
P2P方式(プロトコル)=大きな「台帳」(ブロックチェーン)を参加者全員で共有する方法ですが,各参加者(ユーザー)は,「台帳」を端末にダウンロードし保管します。
現在では「台帳」が膨大で,実行しようとすると非常に不便です。
そこで,「台帳」の管理を工夫・代行するサービス(「ウォレット」)が多く登場しています。「ウォレット」の機能を持つ交換業者も多く存在します。
ビットコイン・ウォレットの構造
ビットコイン・ウォレットの構造によって,法的に「預託」したとして扱えるかどうかが異なります。
① 完全クライアント
台帳全体・秘密キーをユーザーの端末で保管・管理する仕組みです。
第三者(ウォレット業者など)に秘密キーを預けないため,秘密キーの悪用・盗用が生じないというメリットがありますが,ユーザー管理のためのデータ容量が膨大となり,セットアップに時間がかかるとか,データ消失=秘密キー紛失時にビットコイン送信ができなくなるというデメリットがあります。
② SPV(Simplified Payment Verification)クライアント型
台帳・秘密キーをウォレット業者が保管・管理する仕組みです。
ユーザーは台帳を自身の端末に保管する必要がないため,自身の端末上でのデータ消失=秘密キー紛失が生じないというメリットがありますが,秘密キーを業者が管理するため,悪用・盗用・倒産リスクがあるというデメリットがあります。
ただし,倒産リスクについては,一定の条件をクリアすれば回避できます。
ただ,前例のないテーマですので,具体的な扱い・解釈が統一されていないと言えます。
③ サーバー・クライアント型
①②の中間的なタイプの仕組みです。
種類 | 台帳保管 | 秘密キー管理 | サービス例 |
完全クライアント型 | ユーザー | ユーザー | Bitcoin-Qt・bitcoind |
サーバー・クライアント型 | 外部サーバー | ユーザー | Electrum |
SPVクライアント型 | 業者 | 業者 | MultiBit・Bitcoin_Wallet |
完全クライアント・サーバー・クライアント型ウォレットの差押え
複数あるビットコイン・ウォレットの扱い上重要なのは秘密キーの管理方法です。
「完全クライアント型」「サーバー・クライアント型」は秘密キーの管理をユーザーが行います。ウォレット業者側は秘密キーを認識しておらず,構造的にユーザーのビットコインの動きに触れることはできません。そのため,ユーザーからウォレット業者に対する返還請求権は存在せず,返還請求権を差し押えることもできません。
SPVクライアント型ウォレットの差押え
ビットコイン・ウォレットがSPVクライアント型の場合は「返還請求権」が認められることがあり,これを差し押えることができる可能性があります。
〈譲渡命令〉
具体的な差押え・換価の方法はいくつかありますが実用的・代表的なものは「譲渡命令」です。執行裁判所は,ウォレット業者に対し,「適切な金額(日本円)で債権者に売却し,売却代金を債権者に引き渡せ。」と命じます(譲渡命令)。
具体的には,差押債権者が自身のアドレスをウォレット業者に通知し,ウォレット業者がそのアドレスに対しビットコインの送信作業を実行します(民事執行法167条1項,161条1項)。
〈約款の差押え回避的条項〉
・解約したときだけビットコインを返還(送信)する。
→差押債権者は,差押え手続の一環として解約する権利が認められます(保険契約の解約についての最高裁平成11年9月9日)。
・差押え禁止・譲渡禁止
ユーザー保有のビットコインを(事業者が)送信する権限を否定する条項
→いずれも差押えは可能です。
債権の譲渡禁止特約があっても差押えができるのは,私人間の合意による制限は,差押えよりも弱く(劣後),法律による制限は,差押えよりも強い(優先)からです。私人間の合意で差押えを回避することは許されません(最高裁昭和45年4月10日)。
※電子マネーは,資金決済法により払戻禁止とされており,原則として払戻請求権ない(差押対象物がない)ので,差押ができません。
ウォレットにあるビットコインの差押えができない事情
第三債務者(交換業者)に対する差押えのためには,債務者を特定しなければなりません。
交換業者が債務者を特定するためには,債務者の氏名・住所などの一般的個人識別情報とユーザー(ID)の同一性を判断・識別できなければなりません。
ところが,一般的なSPVクライアント型サービスは,ユーザー登録時に本人確認をしていなかったり,クレジットカードの利用を認めるため,差押対象が特定できないのです。
ただし,アドレス(公開キー)のみでも債務者の特定として認められると判断される可能性はあります。
※ 差押対象の特定の程度については,預貯金でも解釈が統一されていません。
詳細は,預貯金の差押えのための金融機関の特定
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