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部分的包括遺贈
遺産相続開始後,遺言執行者が就任している場合,遺産に含まれる不動産について,遺言執行者が引渡しや登記に関する請求をできるかどうかという問題があります。
「遺産すべてを遺贈する」という包括遺贈(全部包括遺贈)は遺産共有の状態にはなりません。
しかし,割合を指定した包括遺贈(割合的包括遺贈ないし部分的包括遺贈)を内容とする遺言がある場合,遺産共有の状態となります。
この場合は,遺言の効力だけでは具体的,最終的な登記内容が確定しないので,遺言執行者が相続による移転登記を行う義務はありません。
相続分の指定
相続分の指定を内容とする遺言がある場合,相続開始により遺産共有の状態となります。
割合を指定した包括遺贈の場合と同じ理由により,遺言執行者の登記義務に登記義務はありません。
遺産分割方法の指定
① 原則として遺言執行者には登記義務はない
遺産分割方法の指定を内容とする遺言がある場合,相続によって遺産の承継は確定するので,遺産共有の状態にはなりません。
そのため形式的には,移転登記は「遺言の執行に必要な行為」(民法1012条1項)に該当するものの,承継を受けた者は単独で登記申請をすることができるので(不動産登記法63条2項),現実には,遺言執行者が関与する場面はなく無意味であるため,遺言執行者に登記義務はないとされています。
② 妨害の排除としての登記は遺言執行者が行うこともできる
実際の権利者以外の者が相続登記を申請し,登記上所有名義を獲得する可能性があります。例えば,相続人が法定相続に基づく登記を保存行為として行うようなケースが典型です。
詳細は,相続に関する登記申請
真正でない者が登記名義を有している場合の登記回復手続には次のようなものがあります。
〈抹消登記〉
所有権に基づく妨害排除請求権として,不正な登記を取得した相続人に対し所有権移転登記の抹消登記手続を請求する方法です。
〈真正な登記名義の回復を登記原因とする移転登記〉
真正な権利者に対する所有権移転登記手続請求をする方法です。
真正な権利承継者は,単独で妨害排除請求権を行使することができますが,他方で,遺産が第三者に妨害されている場合,妨害状態からの回復は,遺言執行者の権限となるので,一連の登記手続に遺言執行者の関与を否定するべきでもありません。
そこで,遺言執行者が行うことができるが義務ではないという解釈に至っています。
※最高裁平成11年12月16日
※日本司法書士連合会編『遺言執行者の実務』民事法研究会p258
③ 遺言執行者の不動産引渡義務
遺産の中の不動産を第三者に占有されている場合,第三者に対して引渡し(返還)請求を行い,最終的に相続人が引渡しを受ける必要があります。
遺産分割方法の指定がなされている場合,指定された相続人が対象不動産の所有権を取得するので,指定相続人は,所有者として,第三者に対して引渡し請求をすることができます。
遺言者の意思としても,「相続発生後は指定相続人に確定的に不動産所有権を承継させ,他の者の関与は排除する。」という意思だからです。
そこで,遺言執行者による占有回復は否定されます。すなわち,遺言執行者は,対象不動産の引渡義務を負うことはありません。
ただし,遺言に,「当該不動産の管理,引渡しを遺言執行者の職務とする」旨の記載がある場合は別です。
包括遺贈・特定遺贈と生前処分の対抗関係
① 原則
包括遺贈・特定遺贈ともに,生前処分との関係は対抗関係となります。
すなわち,相続開始の時点で既に生前処分を受けた者(生前贈与の受贈者など)が登記を得ていた場合には,この者が確定的に権利を取得します。そのため,相続人による抹消登記請求は認められません。
詳細は,生前処分と遺言の抵触
② 例外(遺言執行者の登記請求)
例えば,遺贈の対象となっている不動産が真正な権利者以外の登記名義(不正な登記)となっている場合,登記名義人は対抗要件によって保護されないので,抹消登記請求ができます。
誰が登記名義人に対して抹消登記手続請求をするかですが,真正な権利者,遺言執行者のいずれからの請求も認められています。権利を取得している受遺者からは,所有権に基づく妨害排除請求権として,遺言執行者からは,遺言執行の一環として,抹消登記手続請求をすることができます。
③ 遺留分
遺留分その他の例外的規定によって以上の結論があてはまらないことがあるのでご注意ください。
その他、ご不明な点がございましたらお気軽にお問い合わせください。