いくら貰える立ち退き料(居住用家屋と営業用建物の相場)

author:弁護士法人AURA(アウラ)

居住用家屋の立ち退き料(補償金)の内訳(内容)

  1. 移転費用(引越し代)
  2. 仲介手数料・礼金
  3. 前家賃との差額
  4. 借家権(居住権)価格
  5. 再開発利益の分配額
  6. 転居による慰謝料
マンション・立ち退き・再開発

移転費用(引越し代)

建物から立ち退くためには、当然、引越し業者に依頼して、建物内の家具や残置物等を別の場所に移転させる費用がかかります。ただし、立ち退きをしなければ、実際にかかる引っ越し費用はわかりませんので、家族構成に応じて、暫定的に最低限かかるであろう引っ越し費用を賃借人側は請求し、受け入れてもらうことが通常です。引っ越し費用の見積書を提出することはあまりありません。

仲介手数料・礼金

新たに移転先となる物件を契約するためには、不動産仲介業者などに支払う仲介手数料や、新たな賃貸人側に支払う礼金等の契約金が必要となります。立ち退きがなければ当然、負担する必要のなかった費用であるため、認められやすい項目です。実務上は、新規契約先の賃料を想定した上で、その1か月分、あるいは2カ月分を立ち退き料の算定に加えることが多いです。

前家賃との差額

立ち退きを余儀なくされる賃借人側としては、できれば生活環境を大きく変えたくないと考えるのが通常です。しかし、実際問題として、ほとんど現在の生活環境を変えることなく、新たな物件を契約する場合、かなり物件選択の条件が限られてくるため、従前家賃よりも高額になることが通常です。賃借人側によっては、家賃が数万円でも増えてしまうと、生活が成り立たなくなることもありえるので、賃借人側の生活保障のために、家賃差額を認めることが一般的です。もちろん、新たな物件の家賃が高すぎるとして、家賃差額が争われ、賃貸人側から新たな物件の候補が出されることもあります。しかし、条件が従前の物件よりも劣悪であったり、そもそも条件が全く異なっていたりした場合、賃貸人側が一方的に押し付けていた物件の賃料額を基に、家賃差額を算定するのは酷といえます。築年数、間取り・広さ、立地条件が同程度のものであれば、基本的にはその物件の賃料によって比較されるのが通常です。また、家賃差額を認める期間は、1~3年分といわれています。この期間については、賃貸人側の正当事由が影響しており、正当事由が強ければ短期間、正当事由が今一つであれば長期間認められる傾向にあります。賃貸人側の正当事由が、相対的に低い事案においては、不要不急の立ち退きに応じざるを得ない賃借人側(借家人)の保護が必要になると考えられますから、その他の算定根拠も加味して、立ち退き料が算定されるということです。
※敷金
敷金とは、賃貸借契約から生じる賃借人側の債務を担保するための金銭です。賃借人側が、賃貸人側に対して特段の債務を負担しない限り、原則として全額返還されるのが建前です。
このように、敷金は、賃借人側に原則として返還されるべき金銭であることから、立ち退き料の算定に含まれません。ただし、新たな移転先となる物件の敷金との差額が生じる場合において、賃借人側がそれを負担できない場合には、認められる余地があります。

借家権(居住権)価格

借家権の取引慣行が認められる事案において、借家権価格を基準として立ち退き料を算定する裁判例もかつては存在しました。しかし、現在は、借家権価格を念頭に置いた取引慣行が少なくなっていることから、借家権価格を参照する事案は極めて少なくなっています。
※居住権
家屋に居住する権利を広く居住権といいます。法令上の用語ではなく、居住を権利として主張するために用いられることがあります。その根拠は生存権にあるといえる。借家人に甚だしい賃料責務の不履行や、背信的な無断転貸のような、家主に対してその信頼関係を裏切る重大な契約違反などがない限り、建物の賃貸借契約を解除されないといった、旧借家法による手厚い保護を受けています。居住権とは、こうした借家契約に関連して、建物賃借権の強い側面をとらえて、借家人の権利の一つのごとく言われているものです。
※※同居人の居住権の補償
居住用借家には、賃借人側及びその家族以外にも、同居人が存在することがあります。同居人は、事実上、借家に住んでいることから、借家権があるわけではありませんが,立ち退きによって、その同居人にも不利益が生じることから、居住権の補償が問題となることがあります。基本的な考え方としては、賃借人側に支払われる立ち退き料の中で、同居人の損失も補償されるべきですから、居住権の補償は原則としてありません。

再開発利益の分配額

近年増加している再開発を理由とした立ち退きの場合に認められることがあり、相場よりも高額な立ち退き料が支払われることもあります。

転居による慰謝料

立ち退きは、賃貸人側の一方的都合により、賃借人側にとって住み慣れた建物を出ていくわけですから、賃借人側の被る負担は、かなり大きいものです。実際、立ち退きがなかった場合に発生するはずもなかった費用の補償に加えて、何らかの経済的メリットがなければ立ち退きに応じる賃借人側はいないと思われます。
賃貸人側の正当事由が比較的劣後する事案においては、迷惑料・慰謝料という言葉を用いるかどうか別として、一定の上乗せ金額が認められる傾向にあります。もっとも、立ち退きが面倒という抽象的な理由では、法的な算定根拠とし難いと思われますので、具体的な事象を基に説得的な説明が必要となります。
なお,賃貸人側において、不法行為に該当しうる立ち退きの強要行為が見られる場合には、立ち退き料とは別に慰謝料が認定されることもあります。

営業用建物の立ち退き料の内訳(内容)

営業用建物の立ち退き料の内訳(内容)

営業用借家の立ち退き料は、居住用借家に比べると、算定要素が多様で、明確な基準を提示するのは困難ですが,あえて分類すると以下のとおりです。どの項目が重視されるのかは、事案によって異なってきます。また、営業用借家は、業種によっても、賃借人側に生じる損害は大きく変わってくるので、業種ごとの特徴を踏まえて立ち退き料を算定する必要があります。
  • 移転費用(引っ越し代・内装工事代)
  • 仲介手数料、礼金
  • 前家賃との差額
  • 借家権価格
  • 営業補償
  • 再開発利益の配分額
  • 転居による慰謝料

移転費用(引っ越し代)・内装工事代

営業用借家についても、居住用借家と同様、引っ越し費用が認められています。
ただし、営業用の場合には、重い機材や什器の搬入もあるため、専門業者による運搬が必要となる場合もあるため,営業用建物の引っ越し費用は、居住用に比べて高額になるのが通常です。
また,営業用借家の場合、移転先での営業を継続するためには、荷物の引っ越しだけでは不十分で、物件の内装工事も当然必要となります。改装工事費用は相当高額になります。
賃貸人側の一方的都合によって退去を迫られた上、移転先の内装工事費を支払えないため、廃業を余儀なくされるという事態があってはならないでしょう。
改装工事費用も、賃借人側にとって、突然の明渡請求がなければ支払う必要のなかった費用ですから、実務上、認められることが多い項目です。

仲介手数料、礼金

居住用と同様、営業用建物の場合にも、仲介手数料、礼金などの費用は、立ち退き料として補償されています。
営業用借家の場合、保証金を積むよう求められることがあります。敷金と同様に、原則として賃借人側に返還される性質のものであるとすると、算定根拠に含め難いでしょう。

前家賃との差額

居住用と同様、営業用建物においても、家賃差額が立ち退き料の算定根拠として用いられます。補償の期間については、正当事由に応じて、1~3年とすることが多いようです。

借家権価格

居住用と同様、営業用建物においても、借家権価格での取引慣行が認められる場合、借家権価格を立ち退き料の算定根拠とすることがあります。

営業補償

営業用建物が、居住用家屋と明らかに異なる点は、営業(営業権)補償が生じるという点でしょう。
貸主から立退きの請求があった際に、借主が賃貸物件で営業していた場合、他の場所で営業するまでの間営業を休止することにより生じる損失の補償を受けることができます。ただし、貸主と借主の双方の事情が考慮されるため、貸主に正当事由が認められる場合その金額が低くなることもあります。以下,どのようなものが含まれるのかを解説します。

営業休止補償

①休業期間中に通常の営業を行っていたら収受できたであろう収益の補償
年間認定収益と休業期間によって求められます。年間認定収益とは、営業利益に営業外収益を足し、そこから営業外費用を差し引いたもので、休業期間は移転先の状況等により異なりますが、移転前後の準備期間を加えた期間となります。
②休止期間中に通常の営業を行っていた時と同様に支出がある固定経費の補償
年間認定収益と休業期間によって求められます。年間認定収益とは、営業利益に営業外収益を足し、そこから営業外費用を差し引いたもので、休業期間は移転先の状況等により異なりますが、移転前後の準備期間を加えた期間となります。
③休業することにより収入を失うこととなる従業員の賃金相当額
従業員の平均賃金に補償率と休業期間を乗じることによって求められます。補償率は80%が標準とされていますが、60%~100%の間で定められます。
④店舗を一時休業または移転することにより一時的に得意先を損失し、減収すると想定される収益に対する補償
従前の1ヶ月の売上高×売上減少率×限界利益率により求められます。この時、売上減少率は公の土地収用の場合の基準である用対連基準細則に基づき算出され、限界利益率は個々の営業体の営業実態・営業実績等に基づき、固定費に利益を足した金額を売上高で割ったもので求められます。
ただし、長年同じ場所で営業していて固定客が多いような店舗の場合は、借主の使用の必要性が高いと判断され補償額が変わることがあります。

営業廃止補償

①営業権等の補償
近傍または同種の営業権等の取引価格を基準とし、立地条件、収益性、その他取引により価格を決めるための諸要素を総合的に考慮して求められます。
②資産、商品、仕掛品の売却損の補償等
営業廃止にともなう、建物・備品等の固定資産の売却損、商品・原材料などの流動資産の売却損、その他の資本に関して通常生ずる損失を補償します。
③解雇予告手当等の補償
解雇予告手当相当額は、労働基準法に規定される平均賃金に基づきを、解雇することとなる従業員の平均賃金の30日分以上で求められます。このとき、通常賃金の一部と考えられる家族手当などは、平均賃金に含まれるかどうかが検討されます。ただし、解雇の予告が30日以上前になされた場合は、解雇予告手当の支払いはありません。
④転業期間中の休業手当相当額の補償
新たな営業を開始するために必要な期間は半年から1年とされ、この期間にも従業員を雇用しておく必要があると認められた場合の補償です。補償率は80%が標準とされていますが、60%~100%の間で定められます。
⑤転業に通常必要とする期間中の従前の収益相当額
営業地の地理的条件、営業の内容、借主側の事情等を考慮して、年間の認定収益額に転業に要する期間をかけたもので求められます。転業に要する期間は、およそ2年とされますが、借主が高齢などの理由で転業に期間が必要と認められた場合は、3年となることもあります。
⑥解雇する従業員に対する補償
転業に際して、再就職が困難と認められた従業員に対しての補償で、本人の請求により支払われるものです。補償額は、算定時前6ヶ月以内に被補償者に支払われた賃金、年齢を考慮した雇用条件・勤務期間・労働力の需給関係等、雇用保険法で定められた雇用保険相当額で求められます。
⑦その他労働に関して生じる損失の補償
営業の廃止や転業に伴い、転業期間中に事業主が負担している雇用保険料、社会保険料、健康保険料などがあり、休業期間中に支出することが妥当であると認められた場合の経費の補償です。

まとめ

借主が該当物件で営業をしていた場合の補償は、上記に記載したものだけではなく、個人経営なのか法人経営なのか、また、業種別により、複雑な事情や条件によって変わってきます。それらを整理し、検討するために、まずは弁護士に相談しましょう。
※営業権
営業権とは、無形の財産的価値を有する事実関係であり、会社法上の「のれん」と同じものと考えられています。
最高裁昭和51年7月13日第三小法廷判決(集民118号267頁)において、「営業権とは、当該企業の長年にわたる伝統と社会的信用、立地条件、特殊の製造技術および特殊の取引関係の存在並びに独占性等を総合した、他の企業を上回る企業収益を獲得することができる、無形の財産的価値を有する事実関係である」としています。
企業結合に関する会計基準」において、のれんとは「取得原価が、受け入れた資産及び引き受けた負債に配分された純額を上回る場合には、その超過額はのれんとして次項に従い会計処理し、下回る場合には、その不足額は負ののれんとして第33項に従い会計処理する。」といった差額概念と定義しています。
なお、財産評価基本通達においては、営業権の価額は、次の算式によって計算した金額によって評価評価するものとしています。
平均利益金額×0.5-標準企業者報酬額-総資産価額×0.05=超過利益金額
超過利益金額×営業権の持続年数(原則として、10とする)に応ずる基準年利率による複利年金現価率=営業権の価額
6.再開発利益の配分額,7.転居による慰謝料については,居住用家屋と同様です。

その他、ご不明な点がございましたらお気軽にお問い合わせください。

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