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共有物を使用する共有者に対する明渡・妨害排除請求(特殊事情のあるケース)
共有者の1人が共有不動産を占有するケースは多いです。この場合に他の共有者が明渡や原状回復を請求しても原則として認められません。
詳しくはこちら|共有物を使用する共有者に対する明渡・金銭の請求(基本)
しかし,特殊事情がある場合には,明渡や原状回復などの請求が認められることもあります。本記事では,共有者の1人に対する明渡や原状回復請求が認められた事例を説明します。
共有者間の占有強奪→明渡請求肯定
共有者が共有物の占有を強奪したケースでは,占有する態様・プロセスの異常性が理由となり,明渡請求が認められます。
あ 長年の単独占有
不動産をA・Bで共有していた
長年,Aが平穏に建物を占有していた
い 実力行使的な強奪
Bが『実力で排除するに等しい方法』で占有を取得した
例=強い反対を押し切って強引に入居した
う 明渡請求
Bの行為は共有持分権の濫用である
→Aによる明渡請求を認めた
※仙台高裁平成4年1月27
使用方法の協議の拒否→明渡請求肯定
本来,共有物をどのように使用するかは,共有者が持分の過半数の賛成で決めることになっています。通常,協議をした上で多数決をします。
詳しくはこちら|共有物の使用方法の意思決定の方法(当事者・協議の要否)
このような多数決のための協議を拒否したことを理由の1つとして,例外的に共有者に対する明渡請求を認めた裁判例です。
Yは,単に共有持分にもとづいて本件建物を保管するものでなく,Xの共有持分にもとづく使用収益権を全面的に否定して,管理方法の協議を拒み,あたかも単独所有権者であるかの如く本件土地建物を専用しているものであって・・・結局YはXの持分自体を争うと同様の態度でその使用収益を妨害しているものというべきである。したがつて,特別の事情がない限り,Xは,Yに対し共有者の共有物に対する管理権に基づく本件土地建物の妨害排除として,その明渡を求めることができる
※東京地裁昭和35年10月18日
共有物の『変更』→原状回復請求肯定(基本)
共有物の『変更』行為という概念があります。文字どおり対象物を大規模に変えてしまうという意味です。
共有者の一部が無断で『変更』行為を行った場合には,一般論として,原状回復請求が認められます。
あ 共有物の変更→原状回復請求
一部の共有者が無断で共有物を『変更』した場合
→他の共有者は次の請求をすることができる
ア 『行為の全部』の差止請求イ 原状回復請求※最高裁平成10年3月24日
い 『変更』行為の具体例(概要)
ア 物理的な損傷を生じる行為
イ 土地への土盛り工事
ウ 建物の建築
共有農地の宅地化後に建物建築中→原状回復請求肯定
共有の土地に共有者の1人が建物を建築するケースがあります。
この点,もともとの共有の土地が農地であったところ,共有者の1人がこれを宅地にする工事を行い,建物を建築している途中で,他の共有者が原状回復を請求したケースです。
裁判所は,農地の宅地化が変更行為にあたることを理由に,原状回復請求を認めました。
あ 事案
農地をA・Bで共有していた
Bが無断で『非農地化』の施工をした
その上で土地上に建物を建築しようとしている
AはBに対して『原状回復』を請求した
い 原状回復請求
『農地の非農地化』は重大な事実行為である
→共有物の変更に該当する
→土地の使用収益権を侵害する結果を招く
→Aの原状回復請求を認める
う 正確な判断内容
原審判決は妨害排除請求を排斥した
最高裁は,『原審判決は法令解釈の誤りである』と判断した
※最高裁平成10年3月24日
共有土地上に建物建築→明渡請求否定
前記の判例と似ている他の判例があります。共有の土地上に建物を建築したというものです。
結論として明渡請求が認められていません。
共有の土地上への建物の建築は変更行為に分類されますので,一般論としては原状回復請求が認められるはずです。実際に前記※1の判例では変更行為を重視して原状回復請求を認めています。
この2つの事案の違いとして,建築途中か完了後かということや,農地の宅地化(の工事)があったかどうか,というものがあります。このような事情によって結論が違ったと思います。
あ 単独占有・建物建築
土地をA・Bで共有していた
Bが土地上に建物を建築した
=占有している
い 建物収去・土地明渡請求→否定
Aが建物収去+土地明渡を請求した
→裁判所は認めなかった
う 金銭請求→肯定
AからBに対する金銭請求は認めた
内容=持分割合に応じた地代相当の損害金
※最高裁平成12年4月7日
居住用から店舗用への建物改造→明渡請求否定
共有不動産に工事を加えたという事例についてはの別の裁判例もあります。共有の建物を改造したというものです。ところで建物の改造は,一律に変更行為にあたるというわけではありません。改造の内容や規模によっては管理行為にとどまることもあります。
この裁判例も,改造が変更行為がどうか,という判断はしていません。単に共有者による占有という枠組みで結論を出しています。
仮に改造工事の規模が変更行為に達しているとすれば,原状回復請求が認められた可能性もあります。しかし,原状回復については原告が請求していなかったため裁判所は判断をしていません。
あ 事案
建物をA〜Dの4名が共有していた(持分は各4分の1)
DはEに共有持分を譲渡した
Eは建物の居住用であった部分を店舗用に改造した
Eは,建物を鮨屋と焼肉店として使用(営業)している
Eはこのような占有・使用についてCの了解を得ていた
A・Bは了解していなかった
(Cは共有持分をEに譲渡した)
A・BはEに対して明渡と金銭の請求をした
い 明渡請求→否定
多数持分権者と雖も共有物を単独で占有する少数持分権者に対し,当然にはその占有物の明渡を請求することができないものと解するのが相当である
明渡請求は認めない
う 金銭請求→肯定
共有者全員による使用方法の決定はなされていない
Eは単独で共有不動産を占有している
→A・Bに対しては法律上の原因なく利得を得ている
A・Bには損失が生じている
不当利得返還請求が認められる
金額=賃料の相場(床面積単価)を元に算定する
※東京地裁昭和48年7月11日
ビルへの自動ドア・カウンター設置→原状回復請求肯定
共有のビル(建物)に,共有者の1人が自動ドアやカウンターを設置したというケースです。まず,明渡請求については原則論どおりに否定されました。
次に,このケースでは,原告が原状回復(撤去)請求をしていました。裁判所は設置工事が変更行為であると判断し,原状回復請求を認めました。
あ 事案
共有のビルを,共有者Aが単独で占有使用していた
Aは,他の共有者の同意を得ることなく自動ドア・カウンターを設置した
他の共有者Bが,建物の持分権に基づき,明渡や自動ドア・カウンターの撤去を請求した
い 裁判所の判断
明渡請求は認めない
自動ドア・カウンターの設置行為は建物に変更を加える行為である
撤去(原状回復)請求を認めた
※東京地裁平成20年10月24日
共有物の使用妨害→妨害排除請求肯定
共有者の1人が占有以外の方法で,他の共有者の使用を妨害することもあり得ます。共同通路の通行を,共有者の1人が物理的に妨害したケースでは,妨害排除請求が認められました。
あ 共同通路
通路がA・Bの共有となっていた
A・Bが共同で通行のために使用していた
い 妨害禁止請求
BがAの通行を妨害している
今後も妨害するおそれがある
→裁判所はBに対して妨害禁止を命じた
う 枝切除請求
Aの竹木の枝が通路に侵入=越境していた
→枝を切除する請求が認められた
※横浜地裁平成3年9月12日
共有の立木の伐採→差止請求肯定
以上の事案では,共有の不動産(土地や建物)に関する問題でした。これとは異なり,共有の立木の伐採が問題となったケースがあります。
立木の伐採は,共有物そのものを損壊する,または搬出して売却(法律的処分)する行為といえます。そこで,裁判所は伐採禁止の請求を認めました。
あ 事案
土地上の立木を共有していた
共有者の1人が他の共有者の同意を得ないで立木を伐採した
い 裁判所の判断
他の共有者の所有権(共有持分権)を侵害する行為である
→他の共有者は自己の権利に基づき,伐採者に対して伐採禁止を請求できる
※大判大正8年9月27日
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