目次
死亡退職金についての法的問題
〈退職死亡金規程の例〉
「従業員が死亡した時に死亡者の相続人に退職金を支払う。」
※「死亡者の相続人」の部分(受給者)には他の者が記載されることもあります。
〈問題点〉
・相続財産または受給者固有の財産のどちらか。
・特別受益として持戻しの対象となるかどうか。
・遺留分算定の基礎財産に含むかどうか(遺留分遺留分侵害額請求における負担の対象になるかどうか)。
死亡退職金の性格
〈契約に基づく債権(給付)〉
雇用主と従業員の契約により退職金が発生し,受給者が原始的に債権を取得するので,生命(死亡)保険に近い。
→受給者固有の財産であるという判断につながる。
〈賃金の後払い的性格〉
退職金は,賃金の後払い的性格を持ち,本来従業員が受領する賃金に準じるので,相続財産の性格がある。
→相続財産or特別受益として認める判断につながる
死亡退職金の相続財産性
死亡退職金が相続財産は,原則として相続財産とはされません。
死亡退職金の受給権者が特定している場合で,受給権者の範囲・順位が相続法の規律と無関係に定められているときは,受給権者が固有の権利として取得するので,相続財産ではありません。
ただし,具体的な死亡退職金の支給規定の内容によっては相続財産として扱われることもあります。例えば,「相続人に支給する。」という規定である場合,相続財産としての可分性が問題となります。
死亡退職金請求権は金銭債権であるため可分なので,遺産分割をしなくても当然に分割承継となります。
※預貯金(債権)は,平成28年判例により,遺産分割の対象とされる扱いに変わりましたが,平成28年判例は預貯金債権以外の金銭債権は対象外(射程外)であるため,死亡退職金(請求権)については変更はありません。
詳細は,金銭債権の相続
死亡退職金の特別受益性
死亡退職金が相続財産ではないとされた場合,死亡退職金を受け取った相続人と他の相続人の間に不公平が生じます。そこで,特別受益としてこれを是正すべきではないかという発想が生まれます。
これについては,生命(死亡)保険金でも同じような問題があります。
詳細は,相続と生命(死亡)保険金
生命保険金を特別受益として認めない判例があるので,死亡退職金についても同じ判断基準を用い,死亡退職金は特別受益として認めず,到底是認できないほど著しい不公平が生じる場合にのみ持戻しの対象となるとする裁判例(東京地裁平成25年10月28日)があります。
死亡退職金については,原則として,相続財産ではなく,特別受益でもないが,死亡退職金の給付規定の内容によっては例外的に相続財産として扱ったり,特別受益として扱うということもあるということになります。
それでは,規定の内容がどのようなものであれば特別受益となるのでしょうか。
〈国家公務員の死亡退職手当〉
・受給権者
第1順位:配偶者・内縁者
第2順位:子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹のうち主として職員の収入によって生計を維持していた者
第3順位:親族のうち主として職員の収入によって生計を維持していた者
第4順位:子・父母・祖父母・兄弟姉妹のうち第2順位に該当しない者
・判例(最高裁昭和55年11月27日,最高裁昭和58年10月14日)は,死亡退職金・退職手当が,国家公務員退職手当法又はこれと類似する内容を定める法令・内部規程より支給される場合,受給者固有の権利であって,相続財産ではなく,特別受益にも該当しないとします。
〈労働基準法施行規則方式の死亡退職金〉
・受給者
第1順位:配偶者・内縁者
第2順位:子・父母・孫・祖父母のうち次のいずれかに該当する者
・労働者の収入により生計を維持していた者
・労働者と生計を同一にしていた者
第3順位子・父母・孫・祖父母のうち第2順位に該当しない者
兄弟姉妹
・国家公務員の死亡退職手当と同様,受給者固有の権利であって,相続財産ではなく,特別受益にも該当しません。
〈遺族・相続人方式の死亡退職金〉
・受給権者:単に「遺族又は相続人に支給する。」と定める内部規程
・判例(最高裁昭和60年1月31日)によると,国家公務員の死亡退職手当と同様,受給者固有の権利であって,相続財産ではなく,特別受益にも該当しません。
〈受給権者の規定なしの死亡退職金〉
死亡退職金の支給慣行はあるものの,受給権者に関する明文の規定がない場合,受給権者についての慣行があるときは,慣行により定められた受給権者が死亡退職金を受給する限り,受給者固有の権利であって,相続財産ではなく,特別受益にも該当しません。
他方,受給権者についての慣行がないときは,雇用主が個別的に判断した者に支給する限り,相続財産として扱います。
〈死亡退職金の規定も受給権者の慣行もない場合〉
死亡退職金の支給規定や死亡退職金を支給する慣行もない場合でも,個別的事情を考慮して,死亡退職金を支給することもあります。
※最高裁昭和62年3月3日は,個別的事情を考慮し,受給者固有の権利であって,相続財産ではなく,特別受益にも該当しないと判示しました。
死亡退職金と遺留分
死亡退職金は遺留分算定のための基礎財産に算入しないので,遺留分侵害額の負担の対象にはなりません。
その他、ご不明な点がございましたらお気軽にお問い合わせください。