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内縁関係に適用される制度と適用されない制度
男女が結婚(婚姻)する意思で共同生活をしていると,法律上内縁(事実婚)として扱われることがあります。詳細は,内縁(基本)
内縁関係は,法律婚(婚姻)に準じた扱いがなされます。民法の「婚姻」の規定が準用されるのです。
とはいっても,すべての法律婚の規定が適用されるわけではなく,適用されるものと適用されないものがあります。
内縁関係に適用される民法上の規定
内縁関係には,原則として,婚姻に関する民法上の規定が適用(準用)されます。
① 同居義務(民法752条)
② 貞操義務
違反については慰謝料の賠償責任が生じる(民法770条1項1号)
③ 相互扶助義務(扶養義務・婚姻費用分担義務など)(民法752条,760条)
金する)義務があります。内縁関係でも同じです。
しかし,関係が悪化して別居した時点で内縁関係は解消(終了)します。その結果,その後の生活費を渡す義務はない状態となります。
④ 日常家事債務の連帯責任(民法761条)
⑤ 内縁解消に伴う財産分与(共有財産制)
内縁関係にも適用される公的な制度
公的機関も内縁関係を公認する傾向にあり,公的な制度についても,一定の範囲で内縁関係を夫婦(配偶者)と同様に扱う規定があります。
例えば,労働基準法に基づく遺族補償は内縁でも認められることがあります。
① 内縁に適用される公的制度
・厚生年金
・国民年金
・健康保険(医療保険)
② 内縁に適用される規定
・厚生年金保険法3条2項
・国家公務員等共済組合法2条
・国民年金法5条7項
・労働基準法79条
・船員法93条
・健康保険法1条
③ 遺族年金の扱い
厚生年金・国民年金の制度の中に遺族年金の制度があります。
遺族年金の受給における内縁者の扱いについて裁判例は揺れています。
詳細は,内縁者による遺族年金の受給
内縁に適用されない民事上の規定・制度
内縁は法律婚と完全に同じように扱われるわけではありません。法律婚には適用されるが内縁関係には適用されない規定も多くあります。
・相続権
詳細は,内縁関係の清算
・夫婦同姓(苗字の変更)
・親族関係の発生
・未成年養子の家裁の許可の例外
・子の嫡出性
・子の共同親権
・成年擬制
・夫婦間の契約取消権
内縁に適用されない刑事上の制度
刑罰法規では条文の文言から拡大すること,つまり犯罪となる対象行為を増やす方向に解釈することは禁じられています(罪刑法定主義)。
そのため刑法上の規定における親族や婚姻の解釈では内縁を含みません。
〈脅迫罪の保護する範囲〉
「親族」に対する害悪の告知が含まれる。
脅すセリフの例 | 脅迫罪の成否 |
「お前の妻を殺す」 | (夫への)脅迫罪が成立する |
「お前の内縁の妻を殺す」 | (夫への)脅迫罪は成立しない |
※刑法222条2項
〈重婚罪の成否〉
「(重ねて)婚姻」には内縁関係を形成することを含みません。
内縁に適用されない訴訟法上の制度
民事訴訟法では,特殊な事情がある場合には例外的に,証言義務が適用されないことがあります(証言拒絶権)。
証言拒絶権の1つとして,証人自身や証人と一定の範囲のある者が刑事訴追を受けるおそれや名誉を害される場合に認められるものがあります。この中に証人の配偶者があります。この「配偶者」は法律婚だけが対象で,内縁(事実婚)は含まれません。
内縁に適用されない公的制度
所得税の配偶者控除の制度(所得金額から38万円(原則)を控除する制度)は,法律婚における配偶者だけが対象となっています。
重婚的内縁に適用される規定と適用されない規定
内縁関係が認められると,基本的には法律婚に準じた扱いとなります。
しかし,内縁関係が重婚のような状況である場合は,法秩序に反するので保護しない傾向となり,法律婚の規定が適用されません。
とはいっても,内容によっては適用される法律婚の規定もあります。
〈設例〉
男性Aと女性Bは結婚(婚姻=法律婚)している。
AとBは,長年別居して連絡も取っていない。
Aと女性Cは,事実上夫婦のように同居して暮らしている。
AとCは内縁に相当する関係であるが,AとCの法律婚と重複する(重婚の状態である)。
〈重婚的内縁関係への法律婚の規定の適用の有無〉
重婚的な内縁関係に適用される規定と適用されない規定があります。
大雑把にいうと,法律婚の規定のうち重婚的内縁関係を解消する方向の規定(例えば財産分与)だけが適用されるのです。
法律婚の規定のうち重婚的内縁関係を維持する方向の規定(同居義務,離婚原因)は,適用されません。これは,一方の意思のみによって重婚的内縁関係の解消ができることを意味します。
内縁でも遺産承継ができる(特別縁故者の財産分与)
内縁関係の2人は,相互に相続権はありませんが,一定の範囲で内縁の者相互に遺産の承継が認められることもあります。特別縁故者への相続財産分与という制度です
墓所・遺骨承継・葬儀の主催者は内縁者が優先される(祭祀主宰者)
内縁の一方が亡くなった時に,相続(財産承継)以外でトラブルが生じることがあります。
墓所や遺骨の引き取りや葬儀の方法・宗派の対立といったものです。
このような問題は祭祀主宰者の指定という手続で解決します。
実際には内縁の妻(夫)が優先的に指定されることが多いです。
詳細は,祭祀主宰者,祭祀供用物の承継
その他、ご不明な点がございましたらお気軽にお問い合わせください。