目次
はじめに
麻薬に関する単一条約(1961年採択,1964年批准)によると,大麻成分であるTHC(マリファナ)の産業用利用(非医療的使用・娯楽利用)は地球上から根絶されることになっていました。
しかし,違法な大麻市場は,特に青少年をターゲットにしたマーケティングにより繁栄する一方,大麻の所持者の処罰によって薬物問題の根絶を目指す懲罰的アプローチは、強烈な社会的反作用(烙印=スティグマ)があることから,大麻に関する科学的な知識を深める必要があるとの自覚の高まりともあいまって,現在では,懲罰的アプローチよりも科学的アプローチに舵を切る国が増えています。
タイは2022年6月に大麻栽培を合法化して以来,急速に「アジアのアムステルダム」へと変貌しつつあります。今回の自由化によって,コロナ後の新たな幕開けを象徴するかのように,タイは大麻栽培の全国展開によるグリーンラッシュを見込んでおり,日本からの大麻栽培の投資バブルとなっています。
タイにおける医療用大麻
専門クリニックの開業
2020年1月、首都バンコクで、がんや不眠症、筋肉痛などで助けを求める人々に無料で大麻オイルを配布する医療クリニックが開業した。
オープニングセレモニーには、医療大麻合法化の旗振り役であるタイのアヌティン保健相が参加した。
またセレモニー会場には、タイ政府が新たに作ったユルキャラ「ドクターガンジャ(大麻)」が登場するなど、タイ政府による「医療大麻」推進に向けた並々ならぬ決意が感じられた
タイでは伝統医学で長年大麻が使用されている。そのためタイ国民の中で、大麻使用の抵抗感は意外なほど少ない。現在タイでは、タイ全土にカンナビスクリニックがビジネスとして広がっています。
世界にみる医療用大麻
東南アジアで初めて医療用大麻を解禁したタイ。では、世界的には、どうなっているのか。世界の約半分の地域が、なんらかの形で合法としているのが現状である
タイでは,スーパーやコンビニで大麻成分を含んだドリンクが売られ,「大麻カフェ」が大盛況とのことです。
タイ政府は大麻草100万本を全土の農家に無料で配布し、産業用の栽培を奨励しています。
日本における医療用大麻の原状
日本においてCBDは違法?合法?
国内で正規に流通しているCBDは、合法です。また、医療機関では、治療の一環として取り扱う施設もあります。右図でもわかるように部位規制のある日本の大麻取締法では、花・葉・根から抽出されるものは、全て違法となります。合法なのは、成熟した茎および種子から抽出されたもののみです。
CBD | THC | |
---|---|---|
花・葉・根 | 違法 | 違法 |
成熟した茎・種子 | 合法 | 違法 |
CBDとは
CBDは、THC(テトラヒドロカンナビノール)、CBN(カンナビクロメン)と並び、100種類(諸説あります)以上あるカンビナノイドの三大主成分の一つ。一般的に嗜好用大麻と言われる『マリファナ』の主成分THCと異なり、気分を高揚させる精神作用を与えないため、人体にも安全だと言われ、CBDの有用性に医師や研究者が注目しています。体には『エンド・カンナビノイド・システム(ECS)』と呼ばれる神経・免疫バランスを調節し、健康な身体を維持するための調節機能があります。CBDには、このエンド・カンナビノイド・システムの機能を正常に戻す作用があるため、現在、250種類以上の疾患に万能効果があるとされ、特に、てんかん・炎症・不眠・統合失調症・多発性硬化症、がんでの有用性に定評があるのです。
大麻主成分THCとCBDの違い
THC | CBD | |
---|---|---|
精神活性作用 多幸感を覚える作用 | 非精神活性作用 リラックス作用 | |
主な作用 | 鎮痛・催眠・食欲増進 抗がん作用(日本は未承認) | うつ・不安・パニック障害など数々諸症状への作用 |
副作用 | 依存症・脳や精神への悪影響 | 心身への悪影響はほとんど報告されていない |
厚生労働省,大麻草原料の医薬品実用化視野に国内初の治験実施を検討
大麻草を原料にした医薬品はアメリカなどで複数承認されており,一部は難治性のてんかんの治療薬としても使用されています。
一方,国内では大麻取締法の規制対象とされており,厚生労働省は医療現場での使用を認めるか検討会を設置して議論を進めています。
厚生労働省は31日開いた検討会で,大麻草を原料にした医薬品について実用化を視野に治験を実施する検討を始めたことを明らかにしました。すでに研究班を立ち上げ具体的な実施方法について詰めの協議を行ったということです。
大麻草を原料にした医薬品の治験が実施されれば国内では初めてで、研究班は来月中に報告書を取りまとめることにしています。
厚生労働省,大麻草を原料にした医薬品 国内での使用解禁へ
大麻草を原料にした医薬品は,アメリカなど海外の複数の国で承認され,難治性のてんかんの治療やがんの痛みを抑える目的などで使用されています。
一方,国内では大麻取締法の規制対象とされているため,所持や海外からの持ち込みが原則禁止されており,てんかん患者の治療をしている医師などから解禁を求める声が出ていました。
このため厚生労働省は,今年1月に有識者会議を立ち上げ,法律の見直しを視野に検討を進めてきましたが,国内での使用などを認める方針を固めたことが関係者への取材で分かりました。
厚生労働省は,海外からの輸入に加え,国の承認を得れば医薬品メーカーによる製造・販売も認めるとことを,有識者会議で方針を示すことにしています。
このほか,若者を中心に大麻の乱用が相次いでいることを受け,すでに禁止されている所持や栽培などに加え,使用そのものを禁止する「使用罪」を創設して罰則を設けることも検討しています。
これに対し,有識者会議の一部の委員は「厳罰化は必ずしも乱用の防止につながらない」などと慎重な姿勢を示しており,改めて議論が行われる見通しです。
厚生労働省,CBD抽出の部位規制を撤廃する方針(大麻取締法改正案)
大麻取締法の改正案の一環となり、規制が撤廃されれば、成熟した茎や種以外の部位からもCBDの抽出が可能になる。茎と種は、葉や花に比べて抽出できるCBDの量が少なく、原料価格が高いことがネックになっていた。
改正案の中では、CBDを使用した医薬品の製造や輸入、販売、所持を可能にすることも盛り込まれており、CBD製品を取り扱う事業者の注目を集めている。
改正案で論点になっているのは、(1)実態に合わせて、部位規制を廃止し成分に着目した規制へ見直す(2)大麻由来医薬品の輸入と輸出、製造、製剤、譲渡、所持を可能にする─の2点だ。
成分規制についての改正案には、CBDは由来に関わらず輸入と製造を可能とし、幻覚作用を有する成分「テトラヒドロカンナビノール(THC)」は厚生労働大臣が医薬品として承認したものに限り認めるとの方針が示された。 現行法では、CBDを抽出する際、大麻草の葉、花、枝といった部位の使用を禁止しており、成熟した茎と種だけから抽出を認めている。CBDの原料や製品を海外から輸入する際、「成熟した茎と種から抽出している」との証明書を厚労省に提出する必要があるが、改正法が施行されればこの証明は不要になる。証明書については、メーカー側が保有する写真しか資料がないことが多く、「完全な証明は難しい」としてCBD製品の販売に踏み切れない事業者があった。
厚生労働省,「使用罪」創設へ法改正の準備進める(大麻取締法改正案)
若者を中心に大麻の乱用が深刻化する中,厚生労働省は,法律ですでに禁止されている所持や栽培などに加え,使用そのものを規制する「使用罪」を創設することを決めました。
警察庁によると,去年1年間に,大麻を所持したなどとして検挙された人は,全国で合計5034人と,4年連続で過去最多を更新し,20代以下が7割近くを占めています。
厚生労働省は14日,有識者会議を開き,すでに大麻取締法で禁止している所持や栽培などに加え,使用そのものを規制する「使用罪」を創設して罰則を設けることについて意見を求めました。
委員からは「薬物を使用した人や家族が相談できない状況がさらに強まり,犯罪者とされる人の数だけが増えてしまう懸念がある」などと,使用罪の創設に反対する意見が聞かれた一方,「使用を禁止しない合理的な理由がない」などと支持する意見が多く聞かれました。
厚生労働省,医療用大麻解禁へ使用罪も創設 22年法改正目指す
若者による大麻の乱用が懸念されるため,厚生労働省の有識者検討会(座長=鈴木勉・湘南医療大教授)は11日、現行の大麻取締法に「使用罪」を創設することなどを明記した報告書をまとめた。一方、現在国内で規制されている大麻草を原料にした医薬品について,使用を認めることも盛り込んだ。来年の法改正に向けた具体的な検討作業に入る。現行法(1948年制定)は大麻の所持や栽培を禁じる一方,吸引などの使用に罰則はない。神社のしめ縄の材料などに使う大麻草の栽培農家が,作業中に吸い込む可能性があるため,これまで使用罪の導入が見送られていた。
同省は2月,栽培者の尿を分析したところ,大麻成分は検出されなかったとの調査結果を検討会に提示。
これを受け,検討会は「使用に対し,罰則を科さない合理的な理由はない」と結論づけ,現行法で禁止されている所持(懲役5年以下)や栽培(同7年以下)に加え,使用そのものに対する罰則を設ける必要性を報告書に盛り込んだ。
現在国内で規制されている大麻草を原料にした医薬品について,使用を認めることになった。検討会は,海外からの輸入に加え,国の承認を得ればメーカーによる製造・販売も認めるべきだと結論づけた。大麻草を原料にした医薬品は,米国など海外の複数の国で承認され,難治性のてんかん治療やがんの痛みを抑える目的などで使用されているが,国内では大麻取締法の規制の対象で使用や輸入が禁止されている。
医療用大麻解禁へ議論 使用罪新設も 夏には法改正の骨子
厚生労働省は25日,専門家委員会を開き,医療用大麻の解禁や「使用罪」の新設に向けた議論を始めた。
米国などでは難治性のてんかん治療に大麻成分を使った薬が認められており,厚労省は昨年6月,国内でも同様の利用を認めるべきだとする報告書を作成していた。
今夏をめどに大麻取締法改正案の骨子をまとめる。
現行の大麻取締法は,大麻の栽培や所持,大麻を原料とする医薬品の製造を禁じている。規制は部位で区別しており,花穂(かすい)や葉,未成熟の茎,根などが対象になる。ただ,大麻の主な成分をみると,規制対象の部位にも医薬品として活用できうる成分が含まれる。
大麻取締法の主な改正内容は、医療用大麻製剤を法的に認めること、これまでの部位規制を撤廃し、成分による規制を行うこと、伝統的な大麻栽培の規制緩和です。
(1)医療を目的とした大麻成分医薬品の承認
(2)大麻使用罪の創設
(3)伝統的な大麻栽培の拡大
世界の流れ-規制緩和
麻薬単一条約は,芥子(ケシ)とともに大麻を最も危険な薬物である[付表Ⅳ]に分類していましたが,2020年12月2日,国連麻薬委員会は大麻を[付表Ⅳ]から除外し,ワンランク下げることを決定しました。
カナダ
カナダ(大麻の合法化と規制)は2018年10月に大麻を原則合法化し,18歳以上の成人は公共の場で大麻を最大30グラムまで所有ないしは共有することができるようになり,州の認可を受けた小売業者から大麻を購入すること,個人使用のために住居で最大4つの大麻株を栽培することなどが合法となっています(ただし18歳未満の者への販売や提供は14年以下の自由刑)。
ヨーロッパ(イギリス、オーストリア、ポルトガル)
ヨーロッパでも規制緩和が進んでいます。
- イギリスでは,少量の大麻所持または使用については,警察が口頭で「警告」を行うことがありますが,通常はそれ以上の法的措置は取られません。
- オーストリアでは,軽度の薬物犯に対して一時的な起訴停止が可能です。
- ポルトガルでは,少量の薬物を使用または所持している者を警察が発見した場合,処罰のためのルートとは異なった薬物依存防止委員会に送られます。
- ドイツでは,1990年代初頭から薬物非犯罪化の兆しが認められ,連邦レベルでは,1992年に麻薬法が改正され,検察官には大麻所持でも不起訴にする裁量が与えられました。警察は,個人の少量の薬物所持には積極的な対応を控えており,連邦憲法裁判所は,1994年に少量の大麻を所持または輸入した場合の刑事罰は違憲であるとの判決を下しています。「少量」の定義は各ラント(州)によって異なりますが,6グラムから15グラムの範囲内で設定されています。
このような傾向は,EU各国に広がっています。
引用:CNN.co.jp :「 欧州で広がる大麻合法化の動き、マルタはEU初の法案成立へ」
アメリカ
アメリカでも大麻規制緩和の動きは急速に広がっており,2012年以来,19の州とワシントンDCは,21歳以上の成人に限定して大麻を合法化しました。38の州とDCは,医療用大麻も合法化しています。アメリカ人の大多数は、医学的または娯楽的に大麻を合法的に利用できる状態にあります。
FDAのCBDに関する包括的なルール作り
アメリカには連邦食品・医薬品・化粧品法(FDCA)という法律があり、この連邦法により、製品の製造から表示、マーケティングに至るまでの包括的な規制をしています。しかし、CBDはFDCAの規制対象外とされています。
FDAは医薬品としてのCBD(エピディオレックスによる難治性癲癇の治療薬)は認めてはいますが、一般的な食品におけるCBDについては安全性を確立できないとしてきました。
FDA(アメリカ食品医薬品局)は、「自分たちでは判断ができないので、食品として認めるためには連邦議会の判断を仰ぐ」との姿勢でした。連邦議会でも何度かCBDの規制緩和に向けたチャレンジをしており、CBDの栄養食品としての適切な規制を求める議員はいるものの、議会のねじれなどが原因で前に進めていない状況です。
こうした中、FDAは、2022年1月26日、市販品としてのCBDについて安全性がまだ確立されていないことを懸念し、新たな規制を打ち出す可能性を示唆しました。特に、子供や妊婦だけでなく動物用に対しても安全性が確立されていないと発表しました。FDAの見解としては、医薬品のCBDの有用性は認めつつ、市販品としてのCBDにはNOを突きつけた形になります。
また、Council for Responsible Nutrition(CRN)、Consumer Healthcare Products Association(CHPA)、Natural Products Association(NPA)の3つの業界団体によって提出されていたヘンプを原料とする化合物を栄養補助食品として販売することを認めるための規則制定を求める市民請願も却下されました。
ただ、CBD製品はアメリカでも一般的に販売されており、CBDが禁止になったわけではありません。あくまでFDAが公的に認める食品ではないという形で、これ以降も「CBD製品はFDAから認められた食品ではありません」という記載のもと販売は続けられます。
FDAの決定が日本国内の大麻取締法の改正にどのような影響をもたらすかは不明です。今後、連邦議会においてCBDの包括的なルール作りが行われれば、FDAの見解も変わる可能性があります。
今後FDAの解釈が変わり、連邦法において食品としての大麻成分の扱いについてのルールが変わる可能性もあるでしょう。
日本大使館のメッセージ
大麻が合法化された国の日本大使館では,日本人旅行者などに対して次のようなメッセージが流れています。
在カナダ日本大使館
注意喚起 (カナダにおける大麻製品の販売について) | 在カナダ日本国大使館
- カナダでは,大麻(マリファナ)及び大麻の有害成分を含む製品(食品の形状をしたものや肌に塗るタイプのもの等)の所持・使用が合法化されています。
- 2.一方,日本では大麻取締法において,大麻及びその製品の所持・譲受(購入を含む)等については違法とされ,処罰の対象となっています。
- 3.この規定は日本国内のみならず,海外において行われた場合であっても適用されることがあります。
- 4.在留邦人の皆様及び日本人旅行客の皆様におかれては,これら日本の法律を遵守の上,日本国外であっても大麻に手を出さないように十分注意願います。 5.合法的な大麻の流通販売は,宣伝が禁止されるなど,カナダ政府によって厳しく規制されていることから,旅行者が容易に購入できる状況にはありませんが,非合法的な大麻の販売も依然として存在していますので,十分注意願います。
在タイ日本大使館
- タイにおける大麻に関する規制については、2021年2月より,カンナビス及びヘンプの葉・茎・幹・根が第五種麻薬指定リストから除外され,医療,医薬品,健康食品及び化粧品等の商業利用やタイ当局に申請・許可を受けた方の医療目的の栽培等が可能となりました。なお,花及び種子は引き続き禁止指定されております。
- 日本では大麻取締法において,大麻及びその製品の所持・譲受(購入を含む)等については違法とされ,処罰の対象となっています。また,同法は国外犯処罰規定が適用され,タイを含む海外に居住する日本人が大麻の栽培,輸出入,所持,譲渡等を行った場合には,同様に処罰対象となることがあります。
- 非合法的な大麻やその他規制薬物等の所持や使用等により警察に拘束される事案も存在しておりますところ,在留邦人の皆様及び渡航者の皆様におかれましては,日本及びタイの法律を遵守された上,日本国外であっても安易に大麻に手を出さないように注意願います。
このようなメッセージは,それぞれ表現方法は違うものの,「当地では大麻が合法化されてはいるが,日本では大麻取締法によって大麻の購入や所持などが処罰されており,この法律には国外犯に関する規定があるため,大麻が合法な国での購入や所持などであっても処罰されることがある」という内容です。
それでは,「処罰されることがある」というのは,どういう意味でしょうか。どのような場合に,現地で合法であっても日本で処罰罰されるのでしょうか。言い換えれば,栽培,輸出入,所持,譲渡をしても,処罰されない場合があるのか,あるとしてそれはどのような場合なのでしょうか。
「刑法2条の例による」(国外犯規定)の意味
その国がいくら大麻を合法化したといっても,その国から日本に向けて大麻を発送したり,購入した大麻を日本に持ち込んだりした場合などは,行為地が日本国内であるため(国内犯),大麻取締法が適用されます。
ところで,大麻取締法第24条の8は、「第24条、第24条の2、第24条の4、第24条の6及び前条の罪は、刑法第2条の例に従う。」と規定しています。これは,国外犯(処罰)規定と呼ばれます。同条は、「この法律は、日本国外において次に掲げる罪を犯したすべての者に適用する。」として,内乱や通貨・有価証券偽造など日本国の存立そのものを危うくするような重大な犯罪行為を対象犯罪としています。日本人であろうと外国人であろうと,行為地が海外であろうと,すべての者に対して日本の刑法を適用するという規定です。同条の立法趣旨は,日本の存立そのものを守る(保護する)ことにあります。このような考えを保護主義と呼びます。
大麻取締法もこの条文に従うとすれば,大麻の栽培や所持が国外で行われたとしても,「すべての者」に対して大麻取締法が適用され,タイ人であっても処罰されるということになります。
ところで,特別法の中には,大麻取締法と同じように,「~の罪は、刑法第2条の例に従う。」と規定したものが多くあります。覚醒剤取締法やあへん法などの薬物犯罪を対象とする刑事法,航空機の強取等の処罰に関する法律[いわゆるハイジャック処罰法]など)がそれです。これらの法律が「刑法第2条の例に従う。」と規定しているのは,その犯罪が世界の多くの国家に共通する利益を侵害する犯罪(薬物犯罪,戦争犯罪,海賊やハイジャックなど)であるため,各国が協力してそのような行為を処罰することを目的としているからです。このような考え方を世界主義と呼びます。つまり,刑法2条は,保護主義と世界主義という2つの要請を兼ね備えているのです。
大麻取締法第24条の8は,平成3年に「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」(麻薬特例法)が制定されたことに関連し,同年の改正によって追加された条文であり,日本に大麻が蔓延することを防止し,かつ,薬物犯罪取締りについての国際協調などの必要性の下,海外での大麻所持その他の行為に罰則を適用する規定を設けたことになります。換言すれば,大麻取締法第24条の8に規定されている「刑法第2条の例に従う。」という趣旨は,大麻の取締りが国家を超えた共通の利益を有することから,日本は相手国と協調して大麻の取締りに当たるという決意の表明なのです。
しかし,そうだとすると,カナダやタイなどのように,大麻が合法化された国や地域との関係では,大麻を禁止することについて日本と当該国との間で共通の利益が存在しなくなったということになります。このことは大麻犯罪の国外犯規定の解釈にも影響を与えるはずです。
「みだりに」栽培・所持・輸出入
大麻取締法第24条の8が規定している犯罪は,大麻を「みだりに」栽培,所持,日本への輸入,外国への輸出する行為です。「みだりに」とは,違法性を意味する法律用語であり,日本国内であれば,日本の法令による除外事由がない(正当な理由がない)のに,という意味であり,国外であれば,その行為が行われた国の法令に違反し,かつ,その行為が日本で行われたとすれば,日本法にも違反するという意味です。
したがって,「みだりに」といえるためには、日本だけではなく、その国でも違法性を有し、処罰可能でなければなりません(植村立郎「大麻取締法」注解特別刑法5-II医事・薬事編(2)[第2版]VII、97頁)。 したがってまた,ある国が大麻の栽培や購入,所持などを合法化した場合には,その国の内部でそれらの行為が行われている限り,それらが日本の法律から見れば形式的に大麻取締法が規定している行為ではあっても,「みだりに」行われたものではないということになります。
このように解釈しないと,例えば,タイで合法な大麻ビジネスに携わっているタイ人が観光で日本を訪れ場合でも,彼らを空港で逮捕することが許されることになります。
それが不合理だとすれば(不合理でしょう),法改正によって「すべての者の国外犯」を「国民の国外犯」(刑法第3条)に変更すればよい(「刑法第3条の例に従う」)のではないかとも考えられます。刑法第3条は,放火や殺人などの重大犯罪について日本国民が海外で行った場合であっても,日本刑法の適用を可能としています。この考えを属人主義と呼びます。大麻についてもこれと同じようにするということですが,大麻が合法化されている国では,大麻所持等は犯罪ではなく,日本国の治安にも無関係です。
しかし,そうしたとしても,現在外国で合法な大麻ビジネスに従事している日本人も犯罪者となるので,彼らが帰国すると空港で逮捕されることになり,一生涯日本に帰国することはできなくなります。したがって,このような改正はナンセンスです。
「大麻使用罪」の創設
現行の大麻取締法に「大麻使用罪」は存在しませんが,仮に将来法改正がなされ(そのような法改正が検討されています),「大麻使用罪」が創設されたとしても,以上述べたことは変わりません。
薬物の「使用」とは,薬物をその用法に従って用いる一切の行為であり,大麻の場合は吸食行為(煙を吸引したり、口から体内に取り込んだりすること)です。多幸感を生じさせる大麻の成分はTHCと呼ばれる物質ですが,これは使用頻度によって体内における残留期間に数日から数十日と幅があります。
例えば,タイを出国する直前に大麻入りクッキーを食べた場合、帰国後に体内にTHCが残っている可能性が高いでしょう。THCは,血液や尿,唾液などから検出可能で,日本国内での検査で体内からTHCが検出されたとしても,それを(日本国内での)使用行為とすることはできません。
法的結論
大麻を合法化した国で,現地の法律に従って合法に大麻を購入したり所持することは,大麻取締法の構成要件を満たしていないので,帰国後に大麻取締法で処罰されることはありません。したがって,日本大使館のメッセージは,刑法の解釈上誤りということになります。
刑事法は,国民に対して事前に処罰される行為を明確に規定していなければならないという罪刑法定主義の精神を基礎としていることからすれば,大麻取締法の国外犯規定について,曖昧な解釈を許すことはできません。
コロナ禍が収まれば海外旅行がまたブームになるし,タイで大麻栽培に投資する日本人に無用の混乱が生じないよう法改正を望みたいものです。
医療用大麻の治験と大麻栽培(日米同盟?)
大麻取締法改正の主たる目的は、医療用大麻の解禁(医療)、伝統的大麻栽培の復活(栽培)、大麻使用罪の創設(CBD)でした。
医療分野では、2022年12月15日に難治性てんかんの治験中のエピディオレックスの初投与が行われたと発表がありました。FDAですでに認証されている薬なのでサードフェーズ試験から始められるため、早ければ2026年頃には承認される可能性があります。政治・医療・患者会が一体となって治験を進めています。
栽培分野では、伝統的な大麻栽培の復活に向けたまとまりがあります。2022年3月16日には、麻産業創造開発機構が自民党の「産業や伝統文化等への麻の活用に関する勉強会」と共同で勉強会を開きました。
大麻栽培農業従事者はもともと5万人程度いたとされていますが、今では30人弱となっており、神社における神事に使う麻などが中国産になってしまうという問題意識を持ち、神道の関係者と栽培関係者が自民党と連携して動いています。
医療と栽培はまとまって、法改正に向けて動いています。
乱立するCBDビジネス(三国同盟?)
他方、CBD事業はどうでしょうか。
CBD業者は、CBD議連(「カンナビジオールの活用を考える議員連盟」)を介して政治的活動をしていますが、具体的な政策にまで実現化していません。その原因は、CBDに関連する「協会」が乱立し(十数件?)、各協会が独立した動きをするだけで連携ができていないため、統一した意見を表明できないからです。
協会だけでも私が把握している数として十以上もあります。それぞれの協会が何を志向し、ルールやガイドラインの策定をしていくかが不明確で議論もできていません。
CBD議連内では、以下の提案がなされているようです。
(1)THCの閾値の人体に対する安全性をロジックで示した上で構築すべき
(2)検査の統一化(国による検査機関の認証)
(3)CBD製品の製造から販売に至るまでの一気通貫した国によるガイドラインの策定と事業者認定制度の創設
(4)食薬区分の制定
(5)CBDとTHC以外のカンナビノイドの整理
(6)栽培ルールのCBDに関する事項のガイドライン策定
(7)イメージ適正化のための国による広報
渋谷などの「CBDショップ」では、中枢神経系への作用(サイコアクティブ)があるカンナビノイド(THCH等)が含まれる製品が販売されている状況もあるため、厚生労働省は、既存のCBD業者のすべてを市場から締め出し、天下り団体や大企業のみが管理販売できる制度を創り出すことも想定できます。
医療側と栽培側は、一致団結して法改正に向けた活動を進めているにもかかわらず、CBDは、「グリコのおまけ」のように参加している状況では、その解禁に向けた議論は、俎上に上るどころか、その参加資格の有無から審査されるでしょう。
CBDを産業として先に進めているアメリカやヨーロッパでもルールが曖昧であったり、広告上や製品表示上の問題等が山積しています。
大麻自体を合法化したタイでも、国内の治安悪化を原因に再度大麻を薬物として指定して禁止していく方針も示しています。
CBDビジネスの後進国である日本ができることは、欧米のCBD先進国のCBD事業者の、品質面・安全面への配慮不足を予め修正して安全な市場を形成するためのシステムを提案し、薬事法(薬機法)及び景表法の改正案やCBD事業に関わる省令案やガイドライン案の策定するべきです。CBD分野では、業界がまとまり、消費者庁をも巻き込んだ業界ガイドラインの策定が必要でしょう。
化粧品や健康食品は、規制が緩やかな業界ですが、酒類やタバコは厳格な規制があります。CBD製品については、乳製品のような公正取引のルールを参考にして、業界内部でまとまらない限り、たとえCBDが解禁されたとしても、CBD業界を規制する厚生労働省の天下り団体による集金システムを創設するだけに終わるのではないかと筆者は予想します。
(参考サイト)
【タイ現地取材】① タイで 解禁!日本人向けの… 注意が必要!【小川泰平の事件考察室】
【タイ現地取材】② バンコク日本人街でオシャレな販売店! 28歳オーナーが語るタイの事情!【小川泰平の事件考察室】
(参考文献)
1 日本における大麻の歴史
「大麻という農作物」(イースト・プレス 2020.5.28)大麻博物館
日本人のための大麻教科書(イースト・プレス 2021.5.16)大麻博物館
「麻の葉模様 なぜ、このデザインは八〇〇年もの間、日本人の感性に訴え続けているのか?」大麻博物館 2019.2.8
「大麻と古代日本の神々」(宝島社新書 2014.3.10)山口博
「大麻-祈りの秘宝」(ヒカルランド 2021.7.8)本間義幸
「神宮大麻調査文献:昭和五年・識別番号1094201」(日本新党出版界)寺本慧達
「大麻ヒステリー」(光文社新書 2009.6.20)武田邦彦
「大麻草解体新書」(明窓出版 2011.4.20)大麻草検証委員会
2 日本の大麻取締法
「歴史の真相と、大麻の正体Kindle版」2018.1.15 内海聡
「悪法!!『大麻取締法』の真実」(ビジネス社 2012.8.17)船井幸雄
「なぜ大麻で逮捕するのですか?」Kindle版 2020.12.29 長吉秀夫
「大麻所持逮捕の全記録」(データハウス 2004.3.1)久保象
3 世界の現状
「真面目にマリファナの話をしよう」(文藝春秋 2019.8.8)佐久間裕美子
「大麻 禁じられた歴史と医療への未来」(知恵の実文庫 2019.4.15)長吉秀夫
「大麻入門」(幻冬舎新書 2009.1.1)長吉秀夫
「大麻使用は犯罪か?大麻政策とダイバーシティ」(現代人文社 2022.3.2)
「世界大麻経済戦争」(集英社新書 2021.8.17)
「マリファナ 世界の大麻最新事情」(ナショナルジオグラフィック別冊)2020.1.31
4 医療大麻、産業用大麻、嗜好用大麻
「医療大麻入門」(Veggy Books 2017.1.30)長吉秀夫
「大麻大全 由来からその功罪まで」(武蔵野大学出版会 2018.11.7)阿部和穂
「精神科治療学Vol.35No.1 2020年1月号(特集)大麻-国際情勢と精神科臨床」」精神科治療学編集委員会 2020.1.21
「CBDのすべて:健康とウェルビーイングのための医療大麻ガイド」(晶文社 2019.12.17)
5 大麻解禁
「お医者さんがする大麻とCBDの話」(彩図社 2021.5.27)正高佑志
「大麻解禁」Kindle版(道草ノベルズ)
「HEMP LIFE」(HEMP LIFEVol.1 2017年10月号)キラジェンヌ編集部