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遺言の媒体・用紙に制限はない
遺言を記載する用紙のような,記述内容以外の事情によって遺言が無効となることもあるのです。本記事では自筆証書遺言の媒体・用紙について説明します。
まずは基本的事項として法律上の規定について整理します。
<遺言の媒体・用紙に制限はない>
あ 規定
自筆証書遺言の記録媒体について
→民法上特に規定・制限はない
い 性質的な条件
次のいずれも可能な媒体である必要がある
ア 筆記
イ 記録
ウ 押印
う 具体例
ア 便箋
イ ノート(後記※1)
ウ メモ帳
複数ページの自筆証書遺言
自筆証書遺言の用紙の枚数が複数になることはよくあります。不動産や預貯金の目録だけで多くの枚数を要することもあります。
複数ページとなることと規定との関係の基本的事項をまとめます。
<複数ページの自筆証書遺言>
あ 複数ページ
用紙の枚数が複数となることは禁止されていない
→可能である
い 記載事項が大きくなる例
次のような情報が多く,目録として作成する
ア 不動産
イ 金融資産
例;預貯金・株式
複数ページと日付・署名・押印・自書
自筆証書遺言が複数ページとなることは認められます(前記)。一方,一般的なルールはそのまま適用されます。方式に関する規定の適用についてまとめます。
<複数ページと日付・署名・押印・自書>
あ 日付・署名・押印
自筆証書遺言では一般的に日付・署名・押印が必要である
→『すべてのページに必要』という規定はない
→最低限,1箇所に記載・押印があれば足りる
契印は必須ではない(後記※2)
※民法968条1項
※最高裁昭和36年6月22日
い 自書(概要)
原則的にすべてのページについて自書が必要である
例;目録が大量であっても印刷は認められない傾向である
詳しくはこちら|自筆証書遺言の『自書』の解釈と判断基準や具体例
複数ページと契印
一般的に文書が複数ページとなる場合には契印をすることが望ましいです。この点,自筆証書遺言では契印が必須とはされていません。
<複数ページと契印(※2)>
あ 一般的な契印の機能
一般的な書面作成において『契印』を行う
2つのページにまたがって押印するもの
複数のページの連続性を示す趣旨である
『編綴(へんてつ)』で代用することもある
→綴じ合わせる・製本すること
い 自筆証書遺言と契印
自筆証書遺言が複数ページにわたっている
→契印や編綴がなくても有効である
※最高裁昭和37年5月29日
複数ページの遺言作成時の注意(概要)
以上において複数ページの自筆証書遺言の有効性を説明しました。これらはあくまでも解釈論です。一方,実際に遺言を作成する時には解釈のぶれが生じないよう,より確実なものにしておけば紛争予防になります。遺言を作成する際の注意点の概要をまとめます。
<複数ページの遺言作成時の注意(概要)>
あ リスク
遺言の書面が複数のページになる場合
→無効と判断される要因がいくつかある
い 作成時の注意(紛争予防策)
次のことをしっかり行うことが望ましい
推奨事項=日付・ページ番号の記載・押印・契印
詳しくはこちら|遺言作成や書き換えの際の注意・将来の紛争予防の工夫
3通の遺言の書面の解釈(概要)
純粋な複数ページの遺言とは違うけれど似ているケースを紹介します。連続してはいないけれど複数の遺言が1つの封筒に入っていたというものです。
<3通の遺言の書面の解釈(概要)>
3通の書面が1つの封筒に入れられていた
→一体となって1つの遺言を構成する
これを前提に,遺言内容の解釈が行われた
詳しい内容は上記のリンクの記事で説明しています。
ノートによる遺言の発想と有効性
自筆証書遺言の内容を『ノートに記載する』というケースもあります。発想としては合理的なところもあります。法律上の方式に合っていれば有効性が否定されることもありません。
まずは基本的事項を整理します。
<ノートによる遺言の発想と有効性(※1)>
あ 発想
継続的に遺言の書き換え(変更)をしたい
ノートに連続的に記載しておく
変更履歴が一元化される・一目で分かる
複数の遺言があちこちに散財することを防げる
『最新の遺言』が確実に判断できる
詳しくはこちら|遺言の変更・撤回・書き換え|遺言の破棄・目的財産の破棄
い 有効性
民法上,遺言の媒体の規定・規制はない(前記)
→ノートへの記載も自筆証書遺言として有効である
法律上の方式に適合していることが前提である(後記※3)
ノートによる遺言の方式適合性
ノートに記載した遺言も,方式に適合していれば有効です。このような遺言の方式についてまとめます。
<ノートによる遺言の方式適合性(※3)>
あ 自書
内容は全文を自書することが必要である
い 署名・押印
各時期の記載内容が1つの自筆証書遺言となる
→各時期の記載ごとに『署名・押印』が必要である
う 各時期の記載の独立性
『各時期の記載内容』が,他の部分と混ざっている場合
→遺言としての範囲が不明となる
→実質的に無効と判断されるリスクが高くなる
え 訂正の方法
『前回の記載内容』を後日直接訂正した場合
→記載されている『日付』の意味が不明瞭となる
例;当初の記載日or訂正した日
→『日付』を欠くから無効であると判断されるリスクが生じる
ノートによる遺言の注意点
以上の説明は純粋な解釈論でした。この点,実際にノートに遺言内容を記載することはトラブルの要因となることがあります。
注意点をまとめます。
<ノートによる遺言の注意点>
あ 無効判断の予防策
追記の際は『過去の記載部分』には一切触れない
記載(追記)した部分と記載の日が明確に分かるようにしておく
ページの差し替え・改ざんができない状態にしておく
い 他の遺言との併用
遺言内容をノートに記載した場合
→いろいろな面で無効と判断されるリスクがある(前記※3)
暫定的なものと位置付ける方が望ましい
例;重要な変更をした時点で公正証書遺言にしておく
その他、ご不明な点がございましたらお気軽にお問い合わせください。