遺言の撤回・再撤回

author:弁護士法人AURA(アウラ)

遺言を撤回する理由

遺言は単独で作るという特徴があります。契約のように複数の当事者が合意するというプロセスがなく,当事者を法的に拘束する機能はありません。

そのため,遺言者は作成した遺言を後から撤回したり変更することが自由にできます。誰かの承諾は一切不要です。

遺言を作成した後に変更や撤回をしたくなる理由にはいくつかのパターンがあります。

・資産内容の変化(不動産・株式の購入や売却,金融資産の組み換え)
例:満期となった定期預金を解約して国債を購入した

・資産の評価額の変化(不動産・株式の価値の値上がり)

・人間関係ないし気持ちの変化

遺言の撤回の種類

① 撤回遺言

新しい遺言に「前の遺言を撤回する」旨の記載をすれば,そのとおりに前の遺言が撤回されます。

② 抵触遺言

遺言者が遺言を書き換えたため,新しい遺言の内容が,前の遺言と矛盾ないし抵触する場合,その部分について前の遺言を撤回したとみなされます。これを「遺言の書き換え」と呼びます。

〈前の遺言〉

不動産Aを長男に相続させる。

〈後の遺言〉
不動産Aを次男に相続させる。

〈各遺言の効力〉

・不動産Aを長男に相続させる。→撤回された=無効

・不動産Aを次男に相続させる。→・前の遺言と後の遺言内容が抵触しないので有効

③ 抵触生前処分によるみなし撤回

遺言者の遺言と抵触する遺言後の生前処分その他の法律行為により,遺言が撤回されたとみなされます。

例えば,遺言者が生前に財産を贈与したり売却した場合,処分の内容が遺言の内容と矛盾(抵触)するので,その部分(贈与,売却した財産の相続)を撤回したとみなします。

〈客観的に両立しない関係〉

遺言作成後の生前処分を実現しようとする際に,遺言の執行が客観的に不能となる状態です。例えば,遺言書を破棄すると撤回とみなされるます。

〈趣旨として両立しない関係〉

遺言作成後の生前処分が,遺言内容と両立させない趣旨であることが明らかである場合です。

例えば,AとBがAを養親として養子縁組をした後,Aが「所有する不動産の大部分をBに遺贈する。」という遺言を作成したものの,その後AはBと不仲となり協議離縁をしたという事案で,遺言と遺言作成後の遺言者の行為は両立しないので,遺言は撤回されたものとみなすと判示しました。

④ 遺言破棄

遺言者が故意に遺言書を破棄した場合,遺言は撤回したとみなされます。

⑤ 目的物破棄

遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄した場合,遺言のうち破棄した目的物についての部分は撤回したとみなされます。

遺言の書き換え

遺言の書き換えをする場合,新たな遺言の方式や種類は限定されていません。
簡単に言えば,複数の遺言のうち新しい日付のものが優先されます。公正証書遺言が自筆証書遺言よりも優先するというルールはありません。

〈公正証書遺言による書き換え〉

公正証書遺言は遺言として理想的であり,書き換えをする遺言の方法として最も適しています。

〈自筆証書遺言による書換え〉

自筆証書遺言は遺言の記録としては公正証書に劣り,偽造の主張がなされるなど,トラブルの要因となることがあります。また,遺言者の死後,「検認」の手続が必要となります。

遺言の訂正の方法

自筆証書遺言の書面を訂正又は変更することができますが,その方式は厳格に決まっています。

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遺言の再撤回

撤回された遺言がさらに撤回されることがあります。

① 初回撤回

初回撤回には,撤回遺言,抵触遺言,抵触生前処分などがあります。

再撤回にも,撤回遺言,抵触遺言,抵触生前処分,遺言破棄などがあります。

第1遺言を作成した

第2遺言:「第1遺言を撤回する。」(撤回遺言)

      抵触遺言

      抵触生前処分

      遺言破棄

第3遺言:「第2遺言を撤回する。」(撤回遺言)

     抵触遺言

     抵触生前処分

     遺言破棄

② 撤回遺言→撤回遺言(再撤回)

第3遺言:「第2遺言を撤回する。」

→原則として,第1遺言は復活しません。

ただし,第1遺言を復活させる希望・意思が明らかな場合には,第1遺言の復活が認められます。
例えば,第3遺言:「第2遺言を撤回し,第1遺言を有効とする。」と記載されている場合には,第1遺言の復活が認められます。

③ 撤回遺言→抵触遺言

第3遺言:第2遺言と抵触する。
→第3遺言は有効であり,抵触部分は,第2遺言の撤回とみなされます。

④ 撤回遺言→抵触生前処分

第2遺言作成後,遺言者が生前処分をしたところ,その生前処分が第2遺言と抵触する場合,生前処分は有効であり,抵触部分は,第2遺言の撤回とみなされます。

⑤ 撤回遺言→遺言破棄

遺言者が,第2遺言を破棄した場合,第2遺言の撤回とみなされます。その結果,存在する唯一の遺言が第1遺言だけという状態になります。
遺言者の真意は第1遺言を復活させることにあるからです。

⑥ 抵触遺言→撤回遺言

第1遺言を作成した。
第2遺言:その内容が第1遺言に抵触する。
第3遺言:「第2遺言を撤回する。」

→原則として,第1遺言は復活しませんが,例外的に,第1遺言を復活させる希望・意思が明らかな場合は,復活を認めます。

⑦ 抵触生前処分→その後の撤回・取消

第1遺言を作成した。
遺言者が,第1遺言の内容に抵触する生前処分を行った。
生前処分を撤回or取消した。

→原則として,第1遺言は復活しませんが,例外的に,生前処分が「詐欺・強迫」によるものであった場合には,第1遺言が復活します。

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