借地権優先譲受申出(介入権)の要件や申立人

author:弁護士法人AURA(アウラ)
男性

借地権優先譲受申出(介入権)の要件や申立人

借地人が借地権譲渡許可の申立(非訟手続)をした場合に,地主自身が優先的に借地権を買い取る制度(借地権優先譲受申立,介入権,先買権)があります。
詳しくはこちら|借地権優先譲受申出(介入権)の基本(趣旨・典型例・相当の対価)
本記事では,介入権の行使が認められるための要件や介入権を行使する申立人について説明します。

介入権の形式的要件

介入権を行使できる形式的な要件は,借地人が譲渡許可の申立をしたことと,地主が優先譲受(介入権)の申立をしたということだけです。

あ 譲渡許可申立

借地人が借地権譲渡または転貸の許可の申立を適法にした

い 優先譲受申立

地主が裁判所の定める期間(後記※2)内に優先譲受の申立をした
※田山輝明ほか編『新基本法コンメンタール 借地借家法』日本評論社2014年p116

譲渡許可申立の棄却を解除条件とした介入権行使

借地人が借地権譲渡許可の申立をしたのに対して,地主が譲渡が許可される場合には優先的に(地主が)譲り受けるという申立をすることができるか,という問題があります。確定的な判断はありませんが,否定する見解の方が優勢です。

譲渡許可申立の棄却を解除条件として優先譲受申立をすることについて
否定する見解が多数である
※鈴木禄弥ほか『新版注釈民法(15)』有斐閣p550
※田山輝明ほか編『新基本法コンメンタール 借地借家法』日本評論社2014年p116

男性と女性

介入権行使の期間

地主による介入権行使(優先譲受申立)には期間制限があります(前記)。借地人による借地権譲渡許可の申立期間は,裁判所が14日以上を定めます。

あ 条文規定

地主による優先譲受の申立は,『裁判所が定める期間内に』なされなければならない
※借地借家法19条3項

い 最低日数

『あ』の期間は,借地人が告知を受けた日から14日間以上の期間であることを要する
※借地非訟事件手続規則12条3項

地主が複数(共有者)である場合の介入権行使の申立人

介入権行使の形式的要件の1つは地主が介入権を行使する(優先譲受申立をする)ことです。
これに関して,土地が共有となっている場合には,地主が複数いることになります。この場合に,地主の全員が介入権を行使するのは問題ないです。地主のうち一部(1人)だけが介入権を行使することは可能ですが,他の地主の同意が必要です。

あ 前提事情

賃貸人=土地共有者=A1,A2
賃借人=建物所有者=B
Bが借地権譲渡または転貸の申立をした
これに対して賃借人側が優先譲受申立(介入権行使)をする

い 共同での介入権行使

A1とA2とが共同して優先譲受の申立をする
→建物はA1とA2の共有となる
共有持分割合は,土地の共有持分割合と等しくなる

う 単独での介入権行使+承諾あり

A1がA2の承諾を得て,単独で優先譲受の申立をする
→建物はA1の単独所有となり,敷地については,A2との関係では,賃借権の譲渡・転貸を受けたことになる

え 単独での介入権行使+承諾なし

ア 法的扱い優先譲受申立は,共有物に変更を加えること(または共有物の処分)になる
→他の共有者の承諾なしに,一方の共有者のみが優先譲受の申立をすることはできない
※民法251条
※田山輝明ほか編『新基本法コンメンタール 借地借家法』日本評論社2014年p116
イ 共有物の変更・処分(参考)詳しくはこちら|共有物の変更行為と処分行為の内容

介入権行使の実質的要件

前述の,介入権行使の形式的要件をクリアした場合には,次に,裁判所がこれを認めるかどうか,という問題があります。実質的要件のことです。
まず,原則として裁判所は介入権行使を認めなくてはなりません。ただし,例外的な事情がある場合には認めないということもあります。

あ 原則

借地借家法19条3項の『命ずることができる』の『できる』という文言は,裁判所に裁量を与える趣旨ではなく,裁判所の権能を定めたものである
裁判所は原則として優先譲受けを認めなければならない
ただし,『い・う』のような例外もある

い 借地人と特別な関係がある者への譲渡

借地人と第三者(譲受予定者)との間に一定の関係がある場合
→地主の介入権行使は認められないことがある(後記※1)

う 借地人による複数の建物の一括譲渡

借地上の2つの建物(甲・乙)を所有する借地人が,その2つの建物を一括して第三者に譲渡することの許可の申立をしたのに対し,地主が甲とその敷地のみの優先譲受を申し立てた場合
※田山輝明ほか編『新基本法コンメンタール 借地借家法』日本評論社2014年p117

え 借地と隣接地にまたがる建物

借地上の建物が隣接する土地にまたがっている場合
→地主の介入権行使は認められない(後記※3)

借地人と特別な関係がある者への譲渡と介入権行使

裁判所が介入権を認めないケースの1つが,借地人と譲受人候補者に一定の関係がある場合です。
これに関しては,借地人と譲受候補者の期待(予定)は金銭で保障できないことから,介入権を否定した裁判例があります。
また,背信行為理論により,本来は借地権の譲渡承諾(または許可)自体が不要であるのだから,(許可が必要であることを前提とする)介入権の行使を否定するという学説もあります。

あ 裁判例

借地人が近親者その他の縁故者に建物を譲渡しようとしている場合
借地人が借地権を譲渡する目的は投下資本の回収ではない
特定の者に借地権と建物を移転させることが目的である
→地主の介入権行使を認めない
※東京高裁昭和55年2月13日

い 学説

ア 背信行為理論借地人と譲受人予定者との間に特別な関係がある場合
→地主の承諾がなくても,借地権譲渡は背信行為とは言えない
→譲渡・転貸が解除原因にならない
※民法612条
詳しくはこちら|信頼関係破壊理論と背信行為論の基本(同質性・主な3つの効果)
イ  介入権の扱い借地人が借地権譲渡許可の申立をした場合であっても,地主による介入権行使は認められない
=優先譲受申立は棄却される
※星野英一『借地・借家法/法律学全集』有斐閣p312
※鈴木禄弥ほか『新版注釈民法(15)』有斐閣p553

別の土地にまたがる建物に関する借地権譲渡への介入権行使

借地上の建物が,当該借地の範囲内に収まらず,隣接する土地とまたがっているケースもあります。この場合に介入権行使を認めると,地主は隣接する他者の土地上にも存在する建物を取得することになります。隣接地の所有者との間で土地の使用権原を設定する必要が生じます。このようなことは介入権の制度として想定されていません。そこで介入権は認められないことになります。

あ 介入権行使の可否

建物が借地と別の土地にまたがって建っている場合
→介入権の本来の効果(解決)が実現しない
→譲受申立はできない
※最高裁平成19年12月4日

い 建物買取請求権における扱い(参考)

建物が借地と別の土地にまたがって建っている場合
→建物買取請求権の行使も否定される
詳しくはこちら|借地以外にまたがる建物の建物買取請求

賃貸借契約の賃借人が複数いるケースもあります。賃借権が準共有になっているという状態です。このような賃貸借でも,賃料増減額請求についての問題があります。本記事で説明したのと逆のパターンです。これについては,別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共同賃借人(賃借権の準共有)の賃料増減額に関する管理・変更の分類と当事者

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