共有物分割における共有者間の債権の保護(民法259条)

author:弁護士法人AURA(アウラ)
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共有物分割における共有者間の債権の保護(民法259条)

共有物(共有不動産)の管理費用や税金を建て替えることによって,共有者間で債権(求償権)が生じることがよくあります。このような債権を回収する手段はいろいろとありますが,共有物分割の時に使える制度があります。
本記事では,この制度について説明します。

民法259条の条文

本記事で説明する制度は民法259条に規定されています。最初にこの条文を押さえておきます。

<民法259条の条文>

(共有に関する債権の弁済)
第二百五十九条 共有者の一人が他の共有者に対して共有に関する債権を有するときは,分割に際し,債務者に帰属すべき共有物の部分をもって,その弁済に充てることができる。
2 債権者は,前項の弁済を受けるため債務者に帰属すべき共有物の部分を売却する必要があるときは,その売却を請求することができる。

民法259条による債権回収の具体例

民法259条の制度を使って債権を回収する具体例を挙げます。1項と2項の2とおりの方法があります。

<民法259条による債権回収の具体例>

あ 前提事情

共有者A(債権者)が共有者B(債務者)に対して,共有に関する債権(後記※1)を有する
共有物分割が行われ,Bが財産甲を取得することとなった

い 民法259条の適用の具体例

ア 弁済に充てる方法財産甲を共有に関する債権の弁済に充てる
イ 売却請求財産甲を売却し,得た代金から共有に関する債権の弁済を行う

「共有に関する債権」の内容

民法259条の制度を使えるのは,「共有に関する債権」を持つ共有者です。「共有に関する債権」とは,民法253条と同じ内容で,管理費用や固定資産税などのことです。

<「共有に関する債権」の内容(※1)>

あ 基本

「共有に関する債権」とは,民法253条1項(共有物の負担)にかかる立替金債権をいう
※広中俊雄『現代法律学全集6 物権法 第2版』青林書院1992年p445
※『新版注釈民法(7)物権(2)』有斐閣p483
※小粥太郎編『新注釈民法(5)物権(2)』有斐閣2020年p609参照
※法典調査会『民法議事速記録10巻』p136
外部サイト|国立国会図書館|デジタルコレクション

い 民法253条の解釈(概要)

民法253条の「管理の費用」,「負担」とは,必要費,有益費,租税などである
詳しくはこちら|共有持分買取権に関する解釈の基本(主体・起算点・償金提供・部分的行使・効果)

「債務者」の意味

民法259条の制度を使えるのは,債務者が(も)共有者であることが前提となります。この点,債務者である共有者が共有持分を第三者に譲渡した場合にも,当該第三者が「債務者」にあたるため,使えます。

<「債務者」の意味>

あ 基本

「債務者」とは,共有に関する債権(前記※1)にかかる債務を負う共有者のことである

い 持分の特定承継人

ア 一般的解釈『あ』の共有者の特定承継人たる共有者も含まれる
※民法254条
※小粥太郎編『新注釈民法(5)物権(2)』有斐閣2020年p609
イ 広中説(引用)なお,254条よりあとに用意されていたところの,259条の権利を特定承継人に対しても主張しうるようにしようとした規定案について附言すれば,・・・共有者の一人が他の共有者に対して共有物の負担にかかる立替金債権を有するときを意味するのであり,したがってこの規定案も254条のなかに「旨ク纏マ」っているといってよい。
※広中俊雄著『現代法律学全集6 物権法 第2版』青林書院1992年p434

1項の「弁済に充てる」の具体例(新注釈民法)

民法259条の規定は,具体的にどのような状況で,行使した結果どうなるのかが,わかりにくいです。そこで,まず,1項の制度について,具体的状況を想定して説明します。
大雑把に言うと,共有物分割の結果として財産(利益)を配分する割合に共有者間の債権を反映させる,ということができます。

<1項の「弁済に充てる」の具体例(新注釈民法)>

あ 前提事情(現物分割の例)

ABが不動産甲を持分各2分の1の割合で共有していた
AがBに対して共有に関する債権を有していた
共有物分割請求がなされた
不動産甲は,AとBとにそれぞれ2分の1ずつ分割されるのが原則である
Aは民法259条1項の申出をした

い 民法259条1項の効果

Aが有する債権額に対応する分だけ余計にAに配分する
その分だけBへの配分は減少する
この減少分が,債務者に帰属すべき共有物の部分に当たる
※小粥太郎編『新注釈民法(5)物権(2)』有斐閣2020年p609

1項に関する石田穣氏見解(参考)

民法259条1項について,別のマイナーな見解もあります。債権額と取得対象となる財産の価値の差額分の清算義務を読み込むという見解です。

<1項に関する石田穣氏見解(参考)>

あ 基本的な効果

(民法259条1項について)
債務者である他の共有者に帰属すべき部分とは,分割の結果その共有者に帰属する部分である。
共有者の一人は取得の意思表示をすることによって・・・その部分の所有権を取得すると解される。

い 分割可能のケース

債務者である他の共有者に帰属すべき部分が分割可能でその一部で弁済することができる場合,共有者の一人はその一部をもって弁済に充てなければならない。

う 分割不可能のケース

債務者である他の共有者に帰属すべき部分が分割不能の場合,共有者の一人はその全部を弁済に充てることができるが,共有者の一人には清算義務があり,債務者である他の共有者に帰属すべき部分の価格が債権額を超過する場合には,共有者の一人はその差額を支払わなければならないと解される。
差額の支払いと登記の移転や引渡しは同時履行の関係に立つ。
※石田穣著『物権法』信山社2008年p388,389

売却請求(2項)の具体例

次に,2項の制度について,具体的状況を想定して説明します。
大雑把にいうと,共有物分割の結果,債務者(である共有者)が取得する財産を,売却して,得た代金を弁済に充てるというものです。共有物分割の後に,売却の手続が続くということになります。

<売却請求(2項)の具体例>

あ 前提事情(1項の適用不能)

ABが不動産乙を持分各2分の1の割合で共有していた
AがBに対して共有に関する債権を有していた
共有物分割請求がなされた
Aが乙1,Bが乙2を取得することとなった
Aの有する債権額は乙2の価格より小さい
乙2は不可分である
民法259条1項の方法はとれない
Aは民法259条2項の申出をした

い 民法259条2項の効果

乙2を売却し,その売却代金をAの債権の弁済に充てることになる
残額はBが取得する

う 他の債権者との関係(優先権否定)

AにBの他の債権者との関係での優先権はない
※小粥太郎編『新注釈民法(5)物権(2)』有斐閣2020年p609

売却請求(2項)の効力(任意性)

民法259条2項の売却請求の仕組みは前述のとおりですが,債権者が売却を請求すれば確実に売却が実施されるというものではないという解釈が一般的です。あくまでも裁判所の裁量で判断する,という解釈です。

<売却請求(2項)の効力(任意性)>

あ 協議分割

協議分割において,債権者(A)は,債務者(B)の意思にかかわらず債務者に帰属すべき共有物の部分(乙2)を売却せしめる権限までは有しない
※小粥太郎編『新注釈民法(5)物権(2)』有斐閣2020年p609

い 裁判分割

ア 請求する権利裁判分割に際して,債権者(A)は裁判所に対して,債務者に帰属すべき共有物の部分(乙2)を売却してその代金を債権の弁済に充てることを請求することができる
※小粥太郎編『新注釈民法(5)物権(2)』有斐閣2020年p609
イ 裁判所の裁量共有物分割訴訟は形式的形成訴訟である
→裁判所は民法259条2項に基づく請求に拘束されない
しかし,裁判所は少なくとも当該請求に配慮すべきであろう
※小粥太郎編『新注釈民法(5)物権(2)』有斐閣2020年p610
※広中俊雄『現代法律学全集6 物権法 第2版』青林書院1992年p445参照
(参考)共有物分割訴訟の性質は別の記事で説明している
詳しくはこちら|共有物分割訴訟|形式的形成訴訟|当事者の主張の位置付け
ウ 石田穣氏見解(参考)(259条2項の売却請求について)
請求することができるとは裁判所に対して請求することができるということであり,請求を受けた裁判所は他の共有者に帰属すべき部分につき換価のため競売を命じることになるであろう。
※石田穣著『物権法』信山社2008年p389

民法259条の趣旨や特徴

民法259条の内容は以上の説明のとおりです。ところで,共有者間の共有物に関する債権を保護する制度は,民法259条以外にも,共有持分買取権(民法253条2項)があります。
共有持分買取権は共有物分割とは関係なく使えますが,民法259条は共有物分割とセットでないと使えない,という違いがあります。

<民法259条の趣旨や特徴>

あ 民法259条の趣旨・位置づけ

共有物に関する債権の回収の手段(当該債権の保護)の1つである
共有持分買取権(う)の代替という位置付けである

い 民法259条の特徴

共有物分割の時だけしか使えない

う 持分買取権(参考)

共有持分買取権も共有物に関する債権を保護する規定である
共有物分割とは関係なく利用できる
詳しくはこちら|共有持分買取権の基本(流れ・実務的な通知方法)

男性

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