共有持分買取権に関する解釈

author:弁護士法人AURA(アウラ)
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共有持分買取権に関する解釈の基本

共有物に関する費用を負担しない共有者の共有持分を他の共有者が強制的に買い取る制度(共有持分買取権)があります。
詳しくはこちら|共有持分買取権の基本(流れ・実務的な通知方法)
共有持分買取権については,いろいろな解釈論があります。本記事では基本的な解釈論を説明します。

持分買取権の条文

解釈の元となる条文を最初に押さえておきます。条文の規定はとてもシンプルなので,細かいことについては解釈が必要になるのです。

<持分買取権の条文>

(共有物に関する負担)
第二百五十三条 各共有者は,その持分に応じ,管理の費用を支払い,その他共有物に関する負担を負う。
2 共有者が一年以内に前項の義務を履行しないときは,他の共有者は,相当の償金を支払ってその者の持分を取得することができる。
※民法253条

「管理の費用」・「負担」の意味

共有持分買取権行使の前提となる,「管理の費用」,「負担」とは,必要費・有益費・租税などのことです。これらを共有者の1人が立て替えた場合に共有持分買取権を行使できることになります。

<「管理の費用」・「負担」の意味>

必要費・有益費は「管理の費用」にあたる
租税等が「負担」にあたる
※『新版 注釈民法(7)』p458
※小粥太郎編『新注釈民法(5)物権(2)』有斐閣2020年p576

持分買取権を行使できる者

共有持分買取権は,『共有物に関する費用を負担しない共有者』以外の共有者であれば誰でも行使できます。通常は,費用を立て替えた者,つまり求償権の債権者が行使しますが,買い取る資金のある他の共有者が行使する(買い取る)こともできるのです。

<持分買取権を行使できる者>

あ 有力説

文理解釈から,「他の共有者」は,自ら立替払をした者である必要はない
義務不履行の共有者を除く他の共有者は誰でも償金を払えば持分を取得することができる
※川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)物権(2)』有斐閣2007年p459
※小粥太郎編『新注釈民法(5)物権(2)』有斐閣2020年p577,578
※我妻栄著『民法講義Ⅱ 新訂 物権法』岩波書店1983年p324

い 他の見解

現に立替金債権を有する共有者であると限定的に解釈する
※広中俊雄『現代法律学全集6 物権法 第2版』青林書院1992年p430
※小粥太郎編『新注釈民法(5)物権(2)』有斐閣2020年p577,578参照

義務不履行期間(1年間)の起算点

共有持分買取権は,条文上,1年以内に義務を履行しないことが要件となっています。しかし,条文には,この1年の起算点が明記されていません。
これについては,求償債務の履行期が定まっていればこれ(履行期)となり,定まっていなければ催告(請求)があった時という解釈と,一律に催告があった時とする解釈があります。

<義務不履行期間(1年間)の起算点>

あ 条文規定(前提)

条文上,起算点が明記されていない
※民法253条2項

い 償還の履行期の有無により判定する見解

ア 見解すべての共有物の管理の費用その他の負担については,共有者間に立替分の償還債務の履行期につき,特約または議決ないしは慣行のない以上,その履行期は立替者からの償還の催告があった時と解するのが相当であり,この時から民法253条2項の1年を起算すると解するべきであろう
※池田良兼稿『民法第253条第2項の2つの問題』/『判例タイムズ209号』1967年10月p47
※川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)物権(2)』有斐閣2007年p459参照
イ まとめ

履行期の定めの有無起算点
負担の償還の履行期の定め(特約,議決,慣行)がある定めた履行期
負担の償還の履行期の定めはない催告の時

う 一律に催告時とする見解

帝国議会での上記説明(立法過程)に依拠するなら,起算点は,もともと共有者が負担した債務(保存費用・公租公課)の弁済期の定めの有無・時期にかかわらず,償金の請求を受けた時となる。
※小粥太郎編『新注釈民法(5)物権(2)』有斐閣2020年p577

え 参考となる裁判例

共有物の負担の求償の催告から1年以内に持分買取権を行使した(持分取得の意思表示をした)
→結果としては持分買取権の効力を認めなかった
催告時を起算点と判断しているように読める
※東京高裁昭和57年11月17日

償金の提供の扱い

共有持分買取権の行使は,持分を取得する意思表示によって行います。この意思表示の時に,償金(持分の代金)を提供することが必要であると解釈されています。原則的には現実の提供ですが,例外的に口頭の提供で足りることもあります。ただし,償金支払が先履行となるわけではなく,同時履行となるという解釈が一般的です。
なお,償金の提供を不要とする見解もあります。

<償金の提供の扱い>

あ 一般的見解

ア 原則=現実の提供意思表示とともに償金を現実に提供する
イ 例外=口頭の提供持分買取権の相手方(債務者)があらかじめ償金の受領を拒絶する旨の意思表示をしている場合
持分買取権行使者は弁済の準備として認めるに足るべき行為をなしたることを債務者に通知し,その受領の催告をなすだけで足りる
※池田良兼稿『民法第253条第2項の2つの問題』/『判例タイムズ209号』1967年10月p47,48
※川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)物権(2)』有斐閣2007年p459参照

い 同時履行

償金の支払と持分移転の履行は同時履行となる
債務は未だ発生していないのであるが一種の弁済の提供と考える
※池田良兼稿『民法第253条第2項の2つの問題』/『判例タイムズ209号』1967年10月p47
※広中俊雄『現代法律学全集6 物権法 第2版』青林書院1992年p430(同趣旨)
※小粥太郎編『新注釈民法(5)物権(2)』有斐閣2020年p578参照

う 買戻しにおける解釈(参考)

買戻しの時に売主がなす代金及び契約の費用の提供との関係(大判大正7年11月11日,大判大正9年8月9日)と極めて類似する
※池田良兼稿『民法第253条第2項の2つの問題』/『判例タイムズ209号』1967年10月p47

え 他の見解

債権者である共有者は,債務者である共有者に対して買取の意思表示をすればよく,償金の提供は要件ではない
※能見善久ほか編『論点体系 判例民法2 物権 第3版』第一法規2019年p366

償金の金額・求償権との相殺(概要)

ところで償金の金額の算定については,条文上,特に規定はありません。そこで,取得する持分の価値ということになります。
また,共有持分買取権を行使する者が有する求償権相当額の相殺も認められます。
実務的な償金の算定方法については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共有持分買取権の『相当の償金』の金額の算定・求償権との相殺

部分的な(一部だけの)行使

例えば,持分3分の1共有者Aへの求償権が100万円あった場合に,50万円だけを支払って,(持分3分の1の)2分の1部分についてだけ持分買取権を行使する(持分を取得する)という発想も生じます。しかし,権利関係が複雑になるため,このような部分的な行使は認められていません。

<部分的な(一部だけの)行使>

持分の全部に相当する償金を支払った場合にはじめて適用されるのであり,持分の一部に相当する償金を支払って持分の一部を取得することはできない
※大判明治42年2月25日

共有持分の譲受人に対する持分買取権行使

共有持分買取権を行使できる関係は,共有持分の譲受人にも承継されます。

<共有持分の譲受人に対する持分買取権行使>

(持分取得権と254条の組み合わせ)
民法253条1項の義務を履行しない共有者がその持分権を第三者に譲渡した場合,他の共有者は,(民法254条により)当該第三者(特定承継人)に対して持分買取権の行使ができる
※広中俊雄著『現代法律学全集6 物権法 第2版』青林書院1992年p434
※小粥太郎編『新注釈民法(5)物権(2)』有斐閣2020年p578参照

共有持分買取権の効果(持分が帰属する者)

共有持分買取権の行使によって,相手方の共有持分が行使した共有者に帰属する(移転する)します。

<共有持分買取権の効果(持分が帰属する者)>

あ 基本

共有持分買取権の行使により,償金を支払った共有者が持分を取得する
※我妻栄著『民法講義Ⅱ 新訂 物権法』岩波書店1983年p324
※小粥太郎編『新注釈民法(5)物権(2)』有斐閣2020年p578

い 複数の共有者による行使

複数の共有者が償金を支払った場合には支払われた額に応じて持分が取得されると解される
※小粥太郎編『新注釈民法(5)物権(2)』有斐閣2020年p578

男性と女性

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