共有者単独での譲渡(売却)・抵当権設定の効果(効果の帰属・契約の効力)

author:弁護士法人AURA(アウラ)
男性と女性

共有者単独での譲渡(売却)・抵当権設定の効果

共有物を売却する行為や抵当権を設定する行為は処分行為なので共有者全員の同意が必要です。
詳しくはこちら|共有物の変更行為と処分行為の内容
それにも関わらず共有者の1人が他の共有者の関与なく売却(売買契約)をしてしまうケースもあります。その場合にはどのような法的効果が生じるのか,について本記事で説明します。

単独の共有者による売却の法的効果の基本

共有者が単独で共有物を売却しても,所有権移転の効果は生じません。刑事責任としては横領罪が成立する可能性があります。

<単独の共有者による売却の法的効果の基本>

あ 共有物売却

A・Cが共有者であった
共有者Aが,共有物全体をBに売却した
『自己の単独所有物として』の売却であった

い 債権的な法的効果

売買契約自体は有効である
※最判昭和43年4月4日(後記※1)

う 物権的な法的効果

共有物全体の売却は処分行為である
→A単独では処分権限がない
→共有物全体の所有権はBに移転しない
※最判昭和43年4月4日(後記※1)

え 刑事責任(横領罪・概要)

共有物は他人の所有権が含まれる
→横領罪における他人の物にあたる
→横領罪が成立することがある
※前田雅英著『刑法各論講義 第6版』東京大学出版会2015年p264
詳しくはこちら|横領罪の基本(条文と占有・他人性の解釈・判断基準)

単独の共有者による共有物の売買契約の効力

共有者が単独で共有物を売却した時の売買契約(債権契約)としては有効です。

<単独の共有者による共有物の売買契約の効力(※1)>

あ 売主の持分についての効果

Aの持分の範囲内について
→契約内容に従った履行義務を負う

い 売主の持分の範囲外への効果

Aの持分を越える部分について
→他人の権利の売買としての法律関係を生じる

う 昭和43年判例の引用

共有者の一人が,権限なくして,共有物を自己の単独所有に属するものとして売り渡した場合においても,その売買契約は有効に成立し,自己の持分を越える部分については他人の権利の売買としての法律関係を生ずるとともに,自己の持分の範囲内では約旨に従つた履行義務を負うものと解するのが相当である。
※最判昭和43年4月4日

単独の共有者による共有物の売却における明渡請求(概要)

共有者が単独で共有不動産を売却した事案において,明渡請求が問題となった判例があります。買主の占有権原が肯定されました。大雑把に言えば売買の中に占有の承諾が含まれるという判断です。

<単独の共有者による共有物の売却における明渡請求(概要)>

あ 占有の移転

土地をA・Bが共有していた
Bが不動産全体をCに売却した
買主Cは土地上に建物を建てた

い 明渡請求

Cの占有はBの共有権に基づくものである
→Aの明渡請求は認めない
※最高裁昭和57年6月17日
詳しくはこちら|共有者から使用承諾を受けて占有する第三者に対する明渡・金銭の請求

共有不動産の売却による代金分配義務(参考)

共有者全員が合意して共有物を売却した時には,その代金を他の共有者に分配する義務が生じます。共有者のうち1人が単独で売却した場合にも,表現代理や追認があった場合には結果的にこれと同じ扱いとなります。

<共有不動産の売却による代金分配義務(参考)>

あ 共有不動産の売却

不動産をA・Bが共有していた
遺産共有であった
A・Bの合意により第三者に売却した
Aが代金を受領した

い 代金債権の帰属

A・Bは分割された代金債権を取得する
Aは受領権限を委任されている

う 金銭交付義務

AはBに対してB持分相当の金額を交付する義務がある
※民法646条1項前段
※最高裁昭和52年9月19日
詳しくはこちら|売主or買主が複数×所有関係・代金の可分/不可分

単独の共有者による共有物売却に関する古い判例(参考)

ところで,古い判例には,単独の共有者が共有物を売却したケースについて,共有物の価値代替物が共有となるという判断を示したものがあります(大判明治37年3月16日)。現在の一般的な解釈とは異なります。この判例については(別のテーマで)別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|民法251条の『変更』の意味(『処分』との関係)

共有不動産の売却代金の着服による横領罪

共有物を売却した共有者が,他の共有者に分配すべき代金(前記)を使い込んでしまった場合には(金銭の)横領罪が成立する可能性があります。前述の明治37年判例と同じように,共有物の売却代金を共有者が共有しているものとして扱っているように思えます。しかし,もともと刑法上では,現金(金銭)の所有や占有は民法とは別の扱いをするのです。明治37年判例の考え方と刑法上の解釈は矛盾するわけではありません。

<共有不動産の売却代金の着服による横領罪>

あ 共有物の売却

実質的にはA・Bの共有の財産がある
AがAの所有物として第三者Cに売却した
売却についてはBは承諾していた
AがCから代金を受領した

い 権利帰属

代金はA・Bの共有である

う 刑事責任(横領罪)

ア 横領罪の成立(概要)この金銭をAが不法に着服した場合
→横領罪が成立する
※最高裁昭和43年5月23日
詳しくはこちら|現金(金銭)についての横領罪(占有・所有の解釈・一時流用)
イ 親族相盗例(参考)親族との間で横領罪またはその未遂罪を犯した場合,刑の免除または親告罪となる
※刑法255条,244条

単独の共有者による不動産売却と取得時効の関係

共有者単独で売却した場合に,買主は,売主が有していた共有持分権だけしか取得しません(前記)。所有権全体は取得できていない状態です。
しかし,共有物(不動産)の引き渡しを受けてから長期間が経過すると,取得時効により所有権(全体)を取得できることになります。

<単独の共有者による不動産売却と取得時効の関係>

あ 共有不動産売買

不動産をA・Bが共有していた
BがCに不動産全体を売却した
Cは不動産の引渡を受けた
長期間が経過した

い 取得時効の主張

CはAに対して取得時効の援用を主張した
Aは『所有の意思で占有する』表示がなかったと反論した

う 比較対象=無権利者

共有持分も有しない者=まったくの無権利者の場合
→『所有の意思表示』は必要ではない

え 単独所有の意思の表示→不要

共有持分を有している場合も『う』と同様である
→『単独所有の意思で占有する』旨の表示は不要である
→『所有の意思』を認めた
※最高裁昭和40年9月10日

単独の共有者による抵当権設定の法的効果

共有者が単独で共有物を売却しても,当事者(売主)である共有者の持分だけしか買主に移転しません(前記)。
この点,共有者が単独で共有物に抵当権を設定した場合には,当事者(設定者)である共有者の持分だけに担保権が設定されるという解釈も,まったく設定されないという解釈もあります。

<単独の共有者による抵当権設定の法的効果>

あ 共有物への抵当権設定

共有者の1人Aが,共有物全体への抵当権設定を行った

い 基本的な法的効果

抵当権設定は処分に該当する
→A単独では処分権限がない
→共有物全体への抵当権設定の効果は生じない

う 抵当権が及ぶ範囲

同意をした共有者の共有持分の範囲で抵当権が及ぶという解釈の余地も生じる
※最高裁昭和42年2月23日

共有者単独での用益物権設定・貸借契約の効果(概要)

以上の説明は,共有者が単独で売却や抵当権の設定をしたケースについてのものでした。
この点,共有者が単独で共有物に用益物権を設定した場合や,賃貸借や使用貸借の契約を締結した場合には,以上とは異なり,当該共有者の有する共有持分も含めて効果が生じないことになります。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共有者単独での用益物権設定・貸借契約(賃貸借・使用貸借)の効果

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