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株式の準共有における権利行使者の指定・議決権行使
株式が準共有となるケースもよくあります。複数の株主がいるという状況です。株式の準共有に関してはいろいろな法的問題があります。
詳しくはこちら|株式の準共有|全体|訴訟・原告適格|分割請求×単位未満株式
本記事では,株式の準共有の法的問題のうち,権利行使者の指定や議決権行使に関するものを説明します。
準共有の株式の権利行使の方法の基本
準共有の株式,つまり特定の株式の株主が複数いる場合には,そのうち1名を権利行使者として指定する必要があります。文字どおり,権利行使者が複数の株主(株式の準共有者)の代表として権利を行使することになります。
<準共有の株式の権利行使の方法の基本>
あ 準共有者の1人の権利行使
準共有の株式について
→準共有者単独での権利行使はできない
い 権利行使の方法
株式の準共有者において
→権利行使者を定めることができる
→決定した権利行使者を会社に通知する
※会社法106条
準共有の株式の権利行使者の指定の管理・変更の分類
準共有の株式の権利行使者を指定することについては,共有物の変更・管理方法の2つの考え方がありますが,判例によって管理方法であるという見解に統一されています。つまり,準共有持分の過半数の賛成で決定することになります。
<準共有の株式の権利行使者の指定の管理・変更の分類>
あ 基本
準共有の株式の権利行使者の指定について
要件の解釈は『い・う』の2つがある
い 管理説|最高裁
『管理』行為に該当する
→持分の価格の過半数をもって決する
※最高裁平成9年1月28日;有限会社の事例
※最高裁平成11年12月14日
※最高裁昭和52年11月8日参照(管理行為説が前提になっていると読みとれる)
う 全員説|参考
『変更』行為に該当する
→全員の合意を要する
※徳島地裁昭和46年1月19日
え 実務=過半数説
ア 全員説への批判誰も(どのグループも)過半数に達しない
→権利行使ができない状態になる
このようなデッドロックがより生じやすいことにつながる
イ 実務の扱い『い』の最高裁判例後について
→実務では一般的に過半数説が取られている
権利行使者の指定における協議の要否
前述のように,準共有の株式の権利行使者は多数決で決めるのですが,この多数決のために協議が必要かどうかについての見解が分かれています。さらに,協議は不要,という見解をとりつつ,個別的事情によって指定された株主による議決権行使を権利の濫用として認めなかったという裁判例もあります。
<権利行使者の指定における協議の要否>
あ 共有物の使用の意思決定における協議の要否(前提)
一般的な共有物の管理・使用に関する共有者間の意思決定において
協議の要否については見解が分かれている
詳しくはこちら|共有物の使用方法の意思決定の方法(当事者・協議の要否)
い 準共有の株式の権利行使者の指定における協議の要否
準共有の株式の権利行使者の指定は管理行為であり,共有者の持分価格の過半数で決する(前記)
この多数決のための協議の要否について見解が分かれている
ア 協議不要説協議は不要である
※大阪高裁平成20年11月28日(『う』)
協議は不要である
※東京高裁平成13年9月3日(指定された者による会計帳簿閲覧謄写請求について)
イ 協議必要説協議または参加し得る機会を与えることを要する
※大阪地裁平成9年4月30日
う 協議不要説を前提として権利濫用とした裁判例
共同相続人による株式の準共有状態は,共同相続人間において遺産分割協議や家庭裁判所での調停が成立するまでの,あるいはこれが成立しない場合でも早晩なされる遺産分割審判が確定するまでの,一時的ないし暫定的状態にすぎない
共同相続人間の権利行使者の指定は、最終的には準共有持分に従ってその過半数で決するとしても,上記のとおり準共有が暫定的状態であることにかんがみ,またその間における議決権行使の性質上,共同相続人間で事前に議案内容の重要度に応じしかるべき協議をすることが必要であって,この協議を全く行わずに権利行使者を指定するなど,共同相続人が権利行使の手続の過程でその権利を濫用した場合には,当該権利行使者の指定ないし議決権の行使は権利の濫用として許されない
※大阪高裁平成20年11月28日
準共有の株式の議決権行使の分類
以上のように,多数決によって権利行使者の指定をした後に,指定された者が議決権を行使する場面で,また別の問題があります。
権利行使者は,自由に議決権を行使できるわけではないのです。議決権行使についても準共有者の間で決める必要があります。この決定は,原則として管理行為ですが,決議の内容の重要性によっては変更行為に分類されます。
<準共有の株式の議決権行使の分類(※1)>
あ 前提事情
準共有の株式についての議決権の行使
い 原則
管理行為に該当する
→持分の価格の過半数で決する
う 例外
特段の事情がある場合
例=株式の処分・内容の変更など
→変更行為に該当する
→共有者全員の同意が必要である
※最高裁平成27年2月19日
会社からの準共有株式の権利行使の承認(基本)
準共有の株式の権利行使者の指定がない場合には,原則論としては,権利行使ができないことになりますが,会社側から準共有者のうち特定の者による権利行使を認めることができます。以前は平成11年判例で否定されていましたが,法改正により可能となったのです。
<会社からの準共有株式の権利行使の承認(基本)>
あ 会社からの承認(基本)
権利行使者の指定・通知がない場合
→会社が一部の共有者による権利行使を認めることは可能である
※会社法106条ただし書
い 判例(法改正前・参考)
会社が『一部の共有者による権利行使』を認めることについて
→以前は判例で否定されていた
※最高裁平成11年12月14日
う 会社からの承認が可能な範囲
議決権行使が民法の共有の規定(前記※1)に従っていない場合
→会社は議決権行使を承認できない
=承認したとしても議決権行使は適法にならない
※最高裁平成27年2月19日
会社からの準共有株式の権利行使の承認(例外)
前述のように,法改正により,会社側から株式の準共有者による権利行使を認めることが可能となりましたが,会社への影響が大きいような場面では例外的にこれができないこともあります。
<会社からの準共有株式の権利行使の承認(例外)>
会社の支配関係に不当な影響を及ぼすおそれがある場合
例=遺産分割協議中
→会社側からの権利行使の承認はできない
※上村達男『逐条解説会社法 第2巻』中央経済社p42
権利行使者による内部拘束違反の権利行使
準共有者の株式の権利行使は,基本的には前述のように準共有者の間で指定した権利行使者が行います。準共有者の間で,議決権の行使内容も決めることが多いです。この場合に,権利行使者が,決めた内容に反して議決権を行使した場合であっても,会社に対する効果,つまり議決権の行使自体の効力は否定されません。株式の準共有者の間で,状況によっては債務不履行による損害賠償責任が生じることはあり得ます。
<権利行使者による内部拘束違反の権利行使>
あ 前提事情
株式準共有者で権利行使者を決定し,権利行使内容についても合意した
株式準共有者が会社に対して権利行使者の指定の通知を行った
権利行使者が,合意に反した権利行使を行った
い 権利行使の効力
会社に対しての議決権行使は有効である
※最高裁昭和53年4月14日
本記事では,準共有の株式における権利行使者の指定や議決権行使を説明しました。
実際には,個別的事情によって法的扱いや最適な対応が違ってきます。
実際に準共有の株式(相続した株式)についての問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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