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ブロックチェーン・テクノロジーによる既存システムのリプレイス
現在,テクノロジーの世界での話題の1つがブロックチェーン・テクノロジーです。
ブロックチェーンという方式=プロトコルがいろいろな形で実用化されつつあるのです。
ビットコインなどの仮想通貨は,広範な実用化のうちの1つに過ぎません。
普及自体が法的な制度を変える可能性を持っています。
また法解釈の問題もあります。
本記事では法的な観点でブロックチェーン・テクノロジーがいろいろな社会的な制度・システムを革新・リプレイスする見通しを説明します。
ブロックチェーン・テクノロジーの基本的事項
ブロックチェーンというテクノロジーをごく簡単にまとめます。
<ブロックチェーン・テクノロジーの特徴>
分散型のコンピューターネットワークにより構成される
多数のユーザー(端末)が台帳を共有する
台帳には価値の移転が記録される
不正な移転の記録を作出(改竄)することは事実上不可能である
情報の記録に広く活用できる
ブロックチェーンを使った仮想通貨の仕組みについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|仮想通貨(ビットコイン)の特徴と法律問題(全体)
ブロックチェーンを『情報の記録』に用いるためには一定のハードルがあります。
次に説明します。
『情報の記録』の実用化の条件|高い信頼性=改ざん不能+本人認証
『情報の記録』は太古から,壁画・パピルスへの筆記として見受けられます。
ここで,現代社会の制度として『情報の記録』として用いる場合の前提条件をまとめます。
<『情報の記録』の実用化の条件>
あ 情報の記録に必要な条件
情報の記録の仕組みとして多数の者が利用するには
高い信頼性が必要である
い 信頼性の内容
ア 改ざん不能イ 本人認証権限者以外の書き込み防止の機能
『情報の記録の実用化』|レガシー方式vsブロックチェーン
現在,多くの『記録制度』が現存します。
銀行預金の記録,不動産登記,戸籍・住民票など,無数にあります。
このような従来型の記録は『サーバー』に保管されています。
大雑把に言えば『規模の大きなパソコン』と言えましょう。
実用化されているものは『信頼性=改ざん防止+本人確認』がシステム化されています。
この機能について,ブロックチェーンとの比較を整理します。
<オンラインデータの改ざん不能・アクセス制限の実現方法>
あ レガシー方式;特定の管理者
ア データ内容→特定の管理者が管理するサーバー内に管理する
イ 本人認証ID・パスワードなどのn点マッチング方式
→認証要素(照合元データのテーブル)は特定の管理者が保管している
い ブロックチェーン・テクノロジー
ア データ内容P2P方式=多数のクライアント端末に保管される
→特定の管理者・特定のサーバーの利用ではない
イ 本人認証公開鍵と秘密鍵の併用
→認証要素は一元管理(テーブル作成)がされていない
以前は,オンラインデータの信頼性の高い管理,の方法は『特定の管理者』方式しか選択肢がありませでした。
その後,インターネットの通信速度・通信容量・端末の処理速度は爆発的に向上し続けています。
そのため,ブロックチェーン・テクノロジーの稼働が実現可能になったのです。
と同時に,特定の者が管理するサーバーが高度な技術を持つハッカーにクラック(不正アクセス)されることが続出しています。
詳しくはこちら|個人情報漏洩の民事的責任|実例|賠償額相場
そこで,ビットコインなどとして,ブロックチェーン・テクノロジーの普及が進んでいるのです。
ブロックチェーン・テクノロジー|進行中の実用化
ビットコインは『ブロックチェーンの使用方法のほんの一部』に過ぎません。
『広範囲にちらばる多人数の有するデータ管理』に広く活用されることが期待・予想されています。
信頼性の高い投票システムや財産の管理一般に利用される日も遠くないでしょう。
インターネッツの爆発的普及と重ねて眺めることができます。
<爆発的普及|インターネッツvsブロックチェーン>
テクノロジー | 初期の実用化 | 深い普及 |
インターネッツ | Eメール | 広範・膨大なオンラインサービス・アプリ |
ブロックチェーン | 仮想通貨 | 広範な『レガシーサーバー』のリプレイス |
ブロックチェーンにリプレイスされる既存レガシーサーバー|まとめ
既存の,サーバーで中央集権的に管理されているシステムは無数にあります。
これらは,ブロックチェーンでリプレイスされると非常に便利になるでしょう。
<ブロックチェーンの発展の可能性|リプレイスされるべきターゲット>
あ 公的サーバー
ア 登記不動産,商業,工場抵当,成年後見,夫婦財産契約
イ 登録自動車,船舶,航空機,特許権,意匠権,著作権(※1)
ウ 住民票,戸籍,パスポート住所変更,婚姻,出生,死亡
エ 印鑑証明書→そもそも『本人認証』を実現するツールなので『証明(書)』自体が不要となる方向
オ 公正証書遺言・定款
カ 公的許認可,免許キ 健康保険ク 固定資産税台帳
い 民間のサーバー
ア 預貯金イ 有価証券(ストック)+証券取引所(取引)ウ 株主名簿組み合わせによる利便性大幅アップも可能
・配当;『い-ア』との組み合わせ
・株主総会(投票);『う-イ』との組み合わせ
エ 民間保険
う 従来『紙』だった記録・オフラインイベント
ア 契約書イ 株主総会・社員総会・取締役会
ブロックチェーン活用期待|創作物の『創作時期』|XEVIOUSに学ぶ
既存のサーバーシステムのうち『著作権登録』について説明を補足します。
『登録』の現行制度がありますが,使い勝手が悪いのです。
<著作権登録(上記※1)>
あ 現行制度の不備
『創作年月日』が登録できるのは『プログラムのみ』である
『プログラム』の場合でも『登録手続』の手間・コストがかかる
※著作権法76条の2
い 『創作時期』を記録化するニーズ
『創作時期・前後関係』の記録により権利関係が一変することがある
→スピーディーに『日付の刻印』を得られると,非常に有用である
う 『創作時期』のスピーディーな記録が望まれる創作物|例
ア プログラム(コード・スクリプト)イ イラストウ 学術論文
創作物・著作物についての『記録』制度もブロックチェーンの活用が期待されます。
創作活動・文化の振興を大きく促進することにつながります。
関連コンテンツ|著作権者=創作者の判定は難しい|著作者の刻印|XEVIOUSに学ぶ
不動産の取引(決済)におけるブロックチェーンの活用
不動産の取引(売買)では,代金の支払と移転登記が同時交換として行われる必要があります。これは,銀行の預金や不動産登記の情報に同時にアクセスすることです。ブロックチェーンのテクノロジーによる同時に情報を書き換えるという機能により画期的な利便性が発揮されるといえます。
とはいっても,(法改正がなされるまでは)現行の不動産登記という法律上の制度との関係も維持する必要があります。
このようなことは,別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|不動産の権利の記録へのブロックチェーンの活用(登記制度のリプレイス)
ブロックチェーンでリプレイスvs既得業務維持|ネオラッダイト
不動産売買決済では,多くのカテゴリの情報に同時にアクセスできる環境があれば,多くのプロセスを省略できます。
現在は,これらの照合作業が同時にできないので,『紙の資料』から『照合がほぼ確実』ということを司法書士が『判断』しています。
実際に不動産登記のサーバーに反映するまでには『登記官』という別人による審査プロセスが残っています。
司法書士が『大丈夫』と『判断』しても,サーバーへの反映が『確実』とは言い切れないのです。
そこで,司法書士の判断は『高度な推定』どまりなのです。
確実性を犠牲にし,かつ,非常に不毛な手間が作られているのです。
仮に『それぞれの情報を別の機関が管理している』から『P2Pのブロックチェーン』に変われば,どこでも『複数の種類のデータへの同時アクセス』が可能になります。
『タイムラグ』『同時履行NGの不安』『手間=コスト』が一気に解消するのです。
このような構造変化については,これにより縮小(消滅)するマーケットの供給業者は必死に抵抗・反対します。
ロビー活動・政治連盟の活動という名の,現代のラッダイト運動です。
ラッダイト運動が,多くの場面でテクノロジーの進化の抵抗として発現することは普遍的なのです。
詳しくはこちら|マーケットの既得権者が全体最適妨害|元祖ラッダイト→ネオ・ラッダイト
その他、ご不明な点がございましたらお気軽にお問い合わせください。