目次
遺言認知と死後認知
〈背景事情〉
子の出生後,すぐに認知をしないことがあります。父が子を認知しないとか,認知を遅らせるのは,父子関係があることについては疑問はないものの,父子関係を戸籍に反映させることを回避したい男がいるからです。世間でいうところの隠し子です。
しかし,実の子に相続権を与えるためには認知が必要です。
認知届に提出期限はないので,認知届の提出を後回しにしたままの状況で父が亡くなるとどうなるでしょうか。例えば,父が認知届に署名・押印し,その認知届を母が保管したまま役所への提出はしないでおいた場合,認知届の提出を他の者が代行することはできません。父の死後は認知届を提出できないのです。
父の死後に認知を行う方法はあります。
〈遺言認知〉
父が生前に遺言の中に認知を記載しておく方法があります。
死後の手続は比較的容易です。
〈死後認知請求〉
子や母が原告となり,検察官を被告として訴訟提起します。
一定の手間・時間・費用がかかります。3年の期間制限があります。
遺言認知
① 制度趣旨
民法が婚外子を保護するために用意している制度です。
父の生前は周囲に子の存在を隠しておけるし,父の死後は,スムーズに相続権を与えることができます。
遺言に,認知する子を特定・明記し,認知することを記載します。
② 実現方法
遺言執行者が就任後10日以内に認知届を役所に提出します。
遺言執行者が遺言の中で指定されていない場合,家裁への遺言執行者の選任申立が必要となります。
③ 特殊事情→家裁の手続
親子関係に疑義があるなどの特殊事情があるため,認知届の提出ができず,嫡出否認の調停・訴訟など家裁の手続などが必要になる場合があります。これは,遺言認知に限らず,認知一般の問題です。
④ 金銭賠償
父の死後に認知がなされても,その効果は父の死亡時に遡って発生します。
出生時から親子として扱われるので,父の相続に関して,認知された子は最初から相続人だったことになります。
しかし認知された時には遺産分割が完了していた場合,認知された子は,現物を相続することはできず,金銭をもらえるにすぎない金銭賠償の制度が適用されます。
とはいっても,遺言認知では遺言執行者が選任されているでしょうから,父の死亡後ごく短期間のうちに認知届が提出されるので,金銭賠償が適用されることは普通ありません。
しかし,特殊事情があり裁判所の手続が必要になる特殊事情がある場合,認知手続が完了した時は遺産分割完了後ということもあります。このような場合には金銭賠償が適用されるのです。
死後認知
① 概要
父の死後3年経過するまでは,子の法定代理人としての母が,検察官を被告として,認知の訴えを提起することができます。
認容判決が確定すると,その効果は父の死亡時に遡って発生するので(遡及効),死後認知と同時に相続権が発生します。
認知の手続では,客観的・生物学的に親子であるか否かを判断するだけで,検察官がそのチェック役を引き受けるのです。具体的には,家裁の審査・手続の遂行を担当するという位置付けです。
② 調停前置主義の例外
家事事件は,調停前置の対象ですが,検察官は,父と母の性交渉の経緯を知らないので,協議による合意形成はありえません。そこで,調停前置の例外として扱い,最初から訴訟提起
③ 死後認知請求の訴訟
死後認知請求訴訟は,血縁的な親子関係の有無を審理します。
親子関係の調査方法としては,通常,DNA鑑定を用いますが,父からの検体採取ができない
ので,他の近親者からの検体採取を行います。精度は落ちますが,親子関係の有無の認定はできます。
④ 金銭賠償
認知の手続が完了するまでに数か月〜数年がかかることもあり,既に他の相続人による遺産分割が完了していることがあります。
この場合,相続人の一部を欠いた遺産分割であったことになり,遺産分割は理論的には無効となります。この場合,認知された子以外の相続人は,金銭による賠償をすればよいことになっています。
その他、ご不明な点がございましたらお気軽にお問い合わせください。