目次
遺言執行者
① 遺言で遺言執行者が指定されていない場合でも,遺言執行者が選任されないとは限りません。
家庭裁判所が選任することができると規定されています。あくまでも,「できる」とされており,家庭裁判所が選任するか否かを判断します。
遺言で遺言執行者の指定をしておけば,遺言内容と異なる処分を無効にできます。
遺言執行者の選任は一定のコストがかかります(後記『6』;遺言執行者の報酬)。
無条件に遺言執行者の指定(選任)が良いということではありません。
選任する場合は,遺言執行者の指定とともに,報酬額を規定しておくのがよいでしょう。
② 遺言執行者による遺言執行が必要な場合
民法上遺言執行者が執行するとされている事項があり,遺言にこの内容が記載されている場合は,必然的に遺言執行者の選任は認められます。
・(死後)認知;民法781条2号
・相続人廃除,取消;民法893条,894条2号
③ 遺言執行者の遺言執行が望まれる場合
民法上必須ではなくても遺言執行者による業務,執行が望まれるということがあります。
次のような遺言執行者の任務が必要という場合です。
・遺産目録作成
・遺産の管理・引渡し
④ 遺言執行の必要性が高い場合
→遺言執行者の選任を肯定する方向
・遺産内容が多い
・遺産のうち,管理や引渡を要するものが多い
これらは,遺言執行者の任務によりスムーズになります。
⑤ 遺言執行の必要性が少ない
→遺言執行者の選任を否定する方向
・包括遺贈
・遺産すべてについて,遺産分割方法の指定がなされている
これらに該当する場合,相続開始と同時に権利移転が確定します。
指定されている遺言執行者の死亡
遺言者が亡くなった時点で,遺言の内容が現実化します。
当然,遺言作成から一定の時間が経過しています。
『遺言執行者として指定されている者が既に亡くなっている』ということは珍しくありません。
このような場合は,相続人等が家庭裁判所に申し立てることにより,代わりの遺言執行者を選任してくれます。
このようにして遺言執行者が就任した場合,遺言に抵触する行為は無効となります。
『遺言上で遺言執行者が指定されている』ので,実際の就任前の処分についても適用されると考えられます。
遺言執行者の報酬
① 決定方法
・遺言で報酬額を規定しておく
・相続人と遺言執行者が協議によって定める
・家庭裁判所が報酬額を定める
遺言執行者の報酬は,遺言で指定することができます。指定されていない場合,遺言者の地位を承継する相続人と,遺言執行者の協議で定めることになります。
場合によっては,遺言執行者と相続人(の一部)が対立し,協議で決めることは事実上不可能となる場合,家庭裁判所が諸事情を考慮して報酬額を算定します。
② 報酬額の相場は30万円程度or遺産評価額の3%程度
〈算定要素〉
・業務量
複雑さ=法的な解釈が曖昧な内容の量,も業務量に関わる
・責任の大きさ(遺産規模)
実際に,家庭裁判所が遺言執行者の報酬額を算定する場合は,このような要素を判断材料にします。
家庭裁判所が算定する場合の標準的な金額,目安をまとめておきます。
〈家庭裁判所が定める報酬の相場〉
・小規模、単純
30万円程度~
・ある程度の規模以上
遺産の評価額の3%程度
遺言作成時に遺言者と遺言執行者(候補)で決める場合や,相続人と遺言執行者で決める場合にも,この基準(目安)が参考にされることが多いです。
その一方で,親族が遺言執行者となる場合,元々対価性を考えず,無償とすることも多いです。
遺言執行者の職務権限
遺言執行者には,「相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務」(民法1012条1項)があります。
色々な場面で,遺言執行者の業務の範囲の限界(境界)が問題となります。そのような時に,前提となる一般的な職務権限の解釈論の基本事項をまとめます。
〈判例〉
明確な統一的基準を示しておらず,個別的事情・状況に応じて判断しています。
〈従来の通説〉
遺言執行者の遺言の執行を妨げる相続人の処分行為は無効です。
→取引の安全の保護が要請される
→遺言執行者の権限を限定的に解すべきである
〈近時の有力説〉
近時は,遺言執行者の職務権限を広く解する傾向があり,遺言内容を実現するために必要な事務(広範な法律行為・事実行為)を広く含めます。具体的権限・内容は次のとおりです。
・遺産の調査・特定
・遺産の管理
・遺産目録の作成
・遺産の登記・登録名義の変更・引渡し
・遺産の売却処分
・目的物の調達
・受遺者・相続人間の連絡調整
遺言執行者の調査報告義務
① 基本
判例上は,明確・統一的基準は示されておらず,諸事情の総合衡量により個別具体的に判断されています。
一般的な報告義務として, 相続財産の目録の作成・交付義務,遺言執行の状況についての説明・報告義務(相続人の請求があれば),業務の顛末を報告する義務があります。
報告の対象者は,相続人全員です。遺留分の権利を有しない相続人も含みます。
② 内容・時期
個々の遺言執行行為に先立って説明する必要があるとは限らないので,諸般の事情を総合的に勘案して,個別具体的に判断されます。
遺言執行者の調査・報告の内容・時期が問題になるのは,相続人が遺言執行者に報告を求めたにもかかわらず,遺言執行者が回答しないというケースです。
〈義務の存否の判断基準〉
・適正・迅速な遺言執行を実現するために必要であるか否か
・相続人に何らかの不利益が生じる可能性があるか否か
③ 方法・方式口頭・文書のいずれでもよく,制限はありませんが,金銭出納がある場合には,収支決算書を作成して報告する義務があります。
遺言認知による認知届の提出
遺言執行者の権限・責任に関する個別的な規定もあります。
代表的なものは遺言認知で,認知届の提出など,具体的な業務が職務になります。
その他の権限
詳細は,貸金庫契約
預金(債権)の受遺者に対する遺言執行者の権限
不動産の登記・引渡しに関する遺言執行者の権限
遺言執行者の遺言執行に抵触する処分行為
遺言執行者の執行は,法律上強く保護されており,遺言執行者の執行に抵触する処分は無効となります。
遺言に遺言執行者の指定がない場合,その就任前の処分は無効となりません。
遺言に遺言執行者の指定がある場合,実際の就任前後に関わらず,抵触する処分は無効となります。
そのため,相続人による処分の相手方は,後から遺言が発見されて覆されるというリスクまでを負っているということです。相続人の処分の相手方の立場からすれば想定外でしょう。
詳細は,遺言執行者の遺言執行に抵触する処分行為
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