公正証書遺言

author:弁護士法人AURA(アウラ)

趣旨

遺言者の意思を十分に確認し,遺言に遺言者の意思を正確に反映させること

作成方法

① 証人の立会

公正証書遺言や秘密証書遺言の作成には「証人」2名の立ち会いが必要です。「立会証人」と呼ぶこともあります。
証人となるには一定の条件があり,「証人欠格・不適格」に該当しないことが必要です。

② 遺言者の口授

自筆証書遺言は,遺言者が全文を自書する必要がありますが,公正証書遺言の遺言者は遺言内容を自書する必要はなく,遺言内容を公証人に「口授」(口頭での伝達)すれば足ります。

例外的な代替手段も認められています。

③ 公証人の読み聞かせ

公証人が遺言内容を筆記し,遺言者・証人に遺言内容を読み聞かせるor閲覧させる

④ 遺言者・証人の承認

遺言者・証人が「筆記が正確であることを承認し,署名・押印します。
遺言者の署名は方式の1つとなっていますが,手が不自由なため筆記できない遺言者が署名することができない場合には,公証人がその事由を付記することによって,遺言者の署名に代えることができます。このことは,自筆証書遺言との大きな違いです。

⑤ 公証人の署名・押印最後に,公証人が署名・押印します。

「口授」「読み聞かせ」の代替

① 「口授」「読み聞かせ」

公正証書遺言の方式には,遺言者が公証人に遺言内容を伝達する方法として「口授」(口頭での伝達)し,公証人が遺言者に聴取内容を「読み聞かせ」するというルールがあります。実務では,遺言の案文を公証人が読み上げ,遺言者が「そのとおりで合っています」と答えます。

口授が要求される趣旨は,遺言者の意思を確認することにあります。

※口授の代替手段

自書によって「口授」に代えることができます。自筆証書遺言に関する条文の「自書」(自筆のこと)とは異なります。

「自書」とは,「文字・視覚を通した伝達」であり,一般的には筆談のことです。

手書き・紙媒体(への筆記)という限定はなく,パソコン・タブレット端末・スマートフォン等のデジタルツールによる文字の伝達も可能です。

これらの方式は口や耳が不自由な方(言語障害者,聴覚障害者)には大きなハードルです。

② 代替手段

この点,平成11年民法改正により,「口授」「読み聞かせ」に代わる方法として,通訳人の通訳による申述,伝達が追加されました。

立場耳が聞こえない口がきけない
遺言者代替手段あり代替手段あり
証人代替手段あり代替手段なし

典型例は手話ですが,通訳人の手話のスキルに関しては,何らかの資格・基準は要求されていません。

解釈論としてはジェスチャーもあり得ますが,意思の伝達の正確性が不十分となる可能性もあり,事後的に遺言が無効と判断されるリスクがあります。

口授に関する遺言無効の主張

〈口授に関する遺言無効の主張例〉

・口授の不存在:口授に該当するものがない。
・口授以前の遺言作成:遺言書or原案が口授以前に作成されていた。
・受動的な応答:遺言者が受動的に応答したにすぎなかった。

・口授が欠けるために遺言が無効であるという主張は,遺言能力を欠くという主張・認定と重複することが多いでしょう。

口授に関する裁判例

① 傾向

口授該当性の形式面は重視されず,遺言者の真意が遺言に反映されている場合には,有効と判断される傾向があります。

民法改正により「口授」の規定が大幅に緩和されたため,無効の主張(判断)はより少なくなっています。

② 公正証書遺言の作成の順序

公正証書遺言の作成の順序が問題となり,口授が欠けると主張された事案があります。

〈事案〉

公証人は,予め関係者から遺言の内容を聴取し,公正証書用紙に内容を清書しておいた。

遺言作成日,公証人が遺言者に遺言の内容を読み聞かせた。
遺言者は,遺言の内容と趣旨を口述した。
遺言者は内容を承認した。
遺言書が書面に自ら署名押印をした。

〈問題点〉

民法上,遺言者による口授→公証人による筆記+読み聞かせという順序になっているのに,これが逆になっている。

〈判例〉

口授が要求される理由は,遺言者の真意を確保する適切な手段であることにあるから,遺言者の口述から遺言の骨子を補足することができれば,その口述をもって口授があったとみてよく,公正証書による遺言の方式に違反するものではない。
→口授にあたると判断された

③ 手を握る

意思を表明する方法を「手を握る」ところまで簡略化させることはできません。口頭・言葉を使っていない以上,「口授」として認められません。

④ うなずく

〈事案〉

遺言者の声は出なかった=言語により陳述することはなかった。
公証人が遺言者にした質問に対して,遺言者は単に肯定or否定の挙動を示したにすぎなかった。

〈判例〉

口授があったものとはいえないので,公正証書遺言は無効

⑤ 声+うなずく

遺言者の声は出ていたが,主要な意思伝達はうなずくことであった場合,口授があったものとはいえないので,公正証書遺言は無効とした裁判例があります。

ただし,声による伝達がメインで,うなずくことで補足する程度であれば有効となった可能性があるようにも思えます。

男性と女性

証人の承認

① 証人

証人は,公証人の「筆記が正確であること」を「承認」してから署名・押印します(民法969条4号)。

証人は,遺言が成立した事実を証明するだけでは足りず,遺言者の真意に基づいて成立した事実を証明する責任を負います。

判例によれば,証人は,遺言者に人違いがないこと,遺言者の精神状態,公証人の筆記の正確なことを確認しなければなりません。

② 証人が立ち会う範囲

証人は,遺言の筆記が正確なことを承認し,遺言者とともに署名・押印します。証人は,遺言者による署名・押印に立ち会うことが必要です。

証人が,遺言者による署名・押印に立ち会わなかった場合でも,遺言者が従前の考えを翻したとか,遺言公正証書が遺言者の意思に反して完成されたなどの事情がまったくうかがわれないときは,遺言は有効であると判断した判例があります。

③ 証人の欠格,不適格

公正証書遺言の証人や立会人になる者には一定の条件があります。証人や立会人になることができない事情を「欠格・不適格」と呼びます。

〈欠格者〉

絶対的欠格者:未成年者
相対的欠格者:法定相続人・受遺者とその配偶者・直系血族
       公証人とその関係者(公証人の配偶者・4親等内の親族・書記・使用人)
全盲の者が証人になれるかどうかが争われたケースで,証人になることができると判断した判例があります。

〈不適格者(証人適格)〉

実質的に判断・確認する能力がない者
規定・条文があるわけではありません。

④ 証人欠格と遺言の有効性

・公正証書遺言を作成したところ,2人の証人のうち1人が欠格者であった場合,遺言は無効です。

・証人欠格者・不適格者がいる場合であっても,これらの人数を除外することによって,証人の人数が不足する場合にのみ遺言は無効となります。

・証人の人数はクリアしても,立ち会った者の態度・言動によって遺言が無効となることもあります。例えば,証人適格を欠く者が遺言作成に立ち会ったが,「立会人」としてではない場合,特段の事情がない限り,遺言が無効となるものではありません。

ただし,立ち会った者によって,遺言の内容が左右されたとか,遺言者が自己の意思に基づいて遺言をすることを妨げられたなど特段の事情があるときは,遺言は無効となります。


その他、ご不明な点がございましたらお気軽にお問い合わせください。

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