共有物分割禁止特約

author:弁護士法人AURA(アウラ)

共有物分割禁止特約(不分割特約,分割禁止合意,分割禁止契約)

共有者は共有物の分割請求をする(共有を解消する)ことは強く保護されていますが,共有状態を維持するため,共有者全員が分割しないことを合意することも認められています(民法256条1項ただし書)。これは分割請求権の保障(分割の自由)と逆方向のもので,特殊な合意といえるでしょう。

実際には,分割禁止や不分割という用語を使わないけれど,実質的に分割をしない内容の合意をするケースもあります。このように,実質的な分割禁止の合意も,(分割禁止特約そのものと)同じ扱いとなります。

分割禁止特約の期間制限

分割禁止特約は,前記のように,強く保障される分割請求権を制限するため,5年の期間制限があります。

ただし,更新することはでき,更新後も最長期間制限は5年です。

対抗要件としての登記

①分割禁止特約は分割請求権に対する制限であり,共有持分権が負担する大きな制約です。そのため,これを公示することにより,登記がないと持分の譲受人は承継しないことになるため,持分を取得する者がすぐに知ることができるシステムとなっています。

分割禁止特約の当事者(合意した共有者)以外の者(共有持分の譲受人)に分割禁止特約を主張するには登記(対抗要件)が必要というわけです。
分割禁止特約の当事者に対しては登記がなくても主張できます。

②登記がないと分割禁止特約を主張できないという状況とは,具体的には共有持分の譲渡(売買や贈与)があった場合です。

〈具体例〉

共有者全員で分割禁止特約を合意した。
共有持分をAが取得した。
Aが共有物分割請求をした。
他の共有者が分割禁止特約を主張した。

Aの持分取得原因と登記の有無で優劣が決まります。

Aの持分取得原因特約登記あり特約登記なし
相続特約適用あり特約適用あり
売買・贈与など特約適用あり特約適用なし

共有者間の合意の承継

共有と相分離できない共有者間の権利関係,共有者間の共有物に関する使用収益,管理又は費用の分担についての定めについては,当然に持分の譲受人に承継されます。


詳しくはこちら|共有持分譲渡における共有者間の権利関係の承継(民法254条)の基本

説明解説する人

分割禁止特約の活用例

分割禁止特約の目的は,共有物分割請求を防ぐことです。

① 任意売却の合意に伴う分割禁止特約

任意の共同売却の合意をしたが,実際の売却までに時間がかかると予想される場合,分割禁止特約により売却までに分割請求がなされることを防止することができます。
ただし,履行期限までの期間について分割禁止特約の合意が成立しているという意思解釈もありうるでしょう。

② 全面的価格賠償に伴う分割禁止特約

共有者の1人が対価(賠償金)を支払い,共有物全体を取得する合意をしたが,賠償金の調達に時間を要する場合,分割禁止特約により,賠償金の支払完了までに分割請求がなされることを防止することができます。
ただし,明確な合意がなくても,分割合意に分割禁止特約も含むという意思解釈もありうるでしょう。

③分割協議中の分割禁止特約

共有物分割の協議中であるが,共有者の債権者による差押が想定される場合,分割禁止特約により差押を回避できるわけではありませんが,差押えを抑制することにはなるでしょう。

④分割合意後の分割請求を認めた裁判例

履行期限が明確に定められていないケースについて,合意から約3年半後の分割請求を認めた裁判例(東京高判平成6年2月2日)があります。
詳しくはこちら|共有物分割訴訟の協議前置の要件(協議がととのわない)

⑤ 履行期限についての学説

東京高判平成6年2月2日は,合意成立後3年近く経っても任意に売却する見込みがない状態にある場合には,特段の事情のない限り,分割の協議調わざるものとして,共有物分割請求をできるとする旨判示しました。
おそらく任意売却の合意の履行期限には,通常合理的期限の定めがあるはずで,それは3年程度といういわば一般経験則の存在を前提とするものでしょうが,逆に,任意売却の履行の期限内では共有物分割請求は禁止される旨の合意は成立しているものとも考えられます。
問題は合意の効力の存続期間に明示の期限の定めがないときにどのように解すべきかです。不動産の任意売却には一般に相当な期間が必要であり,特に本件のような目的建物に居住者がいる場合には退去の交渉や退去期間の設定,さらには退去料の合意・準備に相当な期間が必要なことは明らかであり,順調にいっても相当な期間が必要です。
そうだとすると,持に明示等の期限の合意の成立が認めないとすれば,法的に明確に容認されている5年の期限が定められていると解するのがむしろより合理的と考えられます。

破産手続における分割禁止特約

分割禁止の合意をして,登記もしておいたとしても,共有者の1人が破産すると,破産管財人は共有物分割請求をすることができます。特殊な例外的扱いです。

詳しくはこちら|分割禁止特約の限界・例外|共有者の破産

男性と女性

その他、ご不明な点がございましたらお気軽にお問い合わせください。

Page Top