目次
いろいろな手続における遡及効のまとめ(総論)
いろいろなシーンで遡及効が適用されます。
遡及効というのは,法的な効果がさかのぼって生じる(ものとして扱う)という制度です。
遡及効は適用されるものとされないものが分かりにくいこともあります。
本記事では,いろいろな手続における遡及効について,横断的にまとめて説明します。
遡及効の規定がある手続の種類(全体)
まず,遡及効の規定がある手続の種類をまとめます。
なお,遺留分減殺請求には遡及効はありませんが,他の手続との比較として参考になるので合わせて説明します。
<遡及効の規定がある制度(全体)>
あ 相続放棄
詳しくはこちら|相続放棄により相続人ではない扱いとなる(相続放棄の全体像)
い 遺産分割
詳しくはこちら|相続手続全体の流れ|遺言の有無・内容→遺産分割の要否・分割類型・遡及効
う 信託受益権放棄
詳しくはこちら|信託受益権は遡って放棄できるが課税上の扱いに注意が必要
え 遺留分減殺請求(参考)
遡及効の規定はない
権利行使により効果が発生する(形成権)
詳しくはこちら|遺留分の権利・効果の法的性質(平成30年改正による金銭債権化)
いろいろな手続の民事的な遡及効
最初に,通常の遡及効について,適用の有無をまとめます。
ここでの通常の遡及効とは,民事上の扱い,つまり税務上の遡及効(後記)以外のもののことです。
<いろいろな手続の民事的な遡及効>
手続の種類 | 元本部分 | 果実部分 |
相続放棄 | 遡及する | 遡及する |
遺産分割 | 遡及する | 遡及しない(※1) |
信託受益権放棄 | 遡及する | 遡及する |
遺留分減殺請求 | 遡及しない | 遡及しない |
果実への遺産分割の遡及効の適用(否定;概要)
遺産分割には遡及効が規定されています(前記)。
ただし,例外的に,果実については判例の理論で対象外とされています。
<果実への遺産分割の遡及効の適用(否定;概要;※1)>
あ 対象となる果実
遺産分割において
相続開始〜遺産分割完了の期間における果実について
例;賃料収入
い 遡及効の否定
原則として遡及効は適用されない
※最高裁平成17年9月8日
詳しくはこちら|賃料債権・収入×相続|遡及効の制限→分割帰属|遺産分割の対象にもできる
いろいろな手続の税務的な遡及効
次に,遡及効についての税務上の扱いをまとめます。
前記の民事的な遡及効と違うこともあるのです。
<いろいろな手続の税務的な遡及効>
手続の種類 | 税務上の遡及効 | 財産獲得者の課税 |
相続放棄 | 遡及する | 相続税 |
遺産分割 | どちらもある(※2) | 相続税or贈与税 |
信託受益権放棄 | 遡及する(結果的) | 贈与税 |
遺留分減殺請求 | 遡及しない | 相続税(※3) |
遺産分割と税金
遺産分割に遡及効がありますが,現実に遺産分割が完了する前に相続税の申告期限が来てしまうことはとても多いです。
この場合は暫定的な申告をしておきます。
また,遺産分割を後からやり直したケースでは遡及するかどうかが問題となります。
1回目と2回目の遺産分割を,別の財産の移転として両方に課税されることがあるのです。
<遺産分割と税金(※2)>
あ 暫定的な相続税申告
遺産分割未了の時点において
暫定的な相続税申告ができる
詳しくはこちら|遺産分割未了時点で暫定的な相続税申告をする方法と事後的処理
い 遺産分割のやり直しと税金
遺産分割のやり直しについて
新たな財産の移転として認定されることもある
=合意解除の遡及効が適用されないような状況
→この場合は贈与税や譲渡所得税などの課税対象となる
時期,登記の状態などによって判断される
詳しくはこちら|遺産分割のやり直しで2重の課税となることがある
遺留分減殺請求と税金
遺留分減殺請求には,もともと民法上,遡及効の規定がありません。
つまり新たな財産の動きという扱いになるのです。
この点,税務上では相続の範囲内という性格で考えます。
つまり,遺留分減殺請求の前に既に相続税の申告をしていた場合は,遺留分減殺請求の後に,修正申告か更正請求をすることになるのです。
実務では期限に注意をしておく必要があります。
<遺留分減殺請求と税金(※3)>
あ 前提事情
民法上,遺留分減殺請求に遡及効はない
詳しくはこちら|遺留分の権利・効果の法的性質(平成30年改正による金銭債権化)
い 遺留分減殺請求の税務上の扱い
遺留分減殺請求がなされたケースについて
→更正の請求,修正申告の対象となる
う 更正請求の期限(参考)
更正の請求は期限に注意を要する
詳しくはこちら|遺留分減殺請求により税務手続が必要だが当事者間の調整で省略できる
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