遺言の訂正・変更

author:弁護士法人AURA(アウラ)
男性

遺言の訂正・変更の方式と有効性(規定)

自筆証書遺言を記載した後に変更したい状況も生じます。一般的には『訂正』と言いますが,民法上は『変更』と呼びます。遺言の変更の方式には厳格なルールがあります。まずは基本的事項をまとめます。

<遺言の訂正・変更の方式と有効性(規定)>

あ 加除・変更の方式(※1)

遺言書の文字の加除その他の変更について
変更箇所に次の3つの作業を行う
ア 変更の旨を付記する

イ 署名する

ウ 押印する

い 方式違反の原則的な効力

形式的な方式(あ)に一部でも適合していない場合
→変更は効力を生じない
※民法968条2項

方式違反の変更の結果的な効力(原則)

変更に方式違反があった場合の効力は多少複雑です。結果的な効力をまとめます。

<方式違反の変更の結果的な効力(原則)>

前提事情

遺言書の一部の記載が抹消されている
『変更』に該当する
しかし『変更』の方式(前記※1)に違反している
※民法968条2項

原則的な解釈

結局『変更』の効力は否定される
→元の文字が有効という状態になる
※穂積重遠『相続法 第2分冊』p377
※我妻榮ほか『親族法・相続法』p626
※中川善之助ほか『新版注釈民法(28)』p413

変更に方式違反があっても,遺言全体が無効となる,というわけではありません。

方式違反と有効性判断の傾向

遺言に関する一般的な方式違反と効力の傾向をまとめます。

<方式違反と有効性判断の傾向>

遺言内容の判断に関する基本的方針(概要)

遺言書の文言を形式的に判断するだけでは足りない
遺言者の真意を探究する
※最高裁昭和58年3月18日
詳しくはこちら|遺言内容・文面の解釈の基本方針と具体例

方式違反と有効性判断の基準(目安)

遺言書を合理的に解釈する
一義的に遺言者の意思を確定できる場合
→方式違反は遺言の効力に影響しない傾向がある
=方式違反があっても遺言を有効とする傾向
※『遺言無効確認請求事件の研究(上)』/判例タイムズ1194号p52

変更に関する方式違反があった場合は,遺言者の真意の判断が難しくなります。『変更前/後』のどちらが真意であるかという検討が必要になるのです。

内縁関係と認められないカップル

作成過程における加除・変更と救済的解釈

民法上の『変更』の規定は,遺言を作成し終わり,後日内容を変えることが想定されています。一方,遺言書として完成させる前,つまり作成中に文字を修正することもあります。この作成途中の加除・訂正も『変更』の方式のルールが適用されます。ただし方式のルールは多少緩和されます。

<作成過程における加除・変更と救済的解釈>

規定の適用

遺言を作成している過程における加除・変更について
→加除・変更の方式の規定は適用される
※民法968条2項

作成過程における誤記の訂正

次の『ア・イ』の両方に該当する場合
→遺言の効力に影響を及ぼさない
ア 訂正の方式に違反がある

イ 記載自体からみて明らかな誤記の訂正である※最高裁昭和56年12月18日

訂正と有効性(訂正箇所による判断)

遺言の記載の訂正(変更)は,厳格な方式のルールがあります。誤った方式だと,変更としての効果は否定されます(前記)。
しかし,誤った方式による変更の箇所によっては特別な扱いとなります。

<訂正と有効性(訂正箇所による判断)>

訂正内容による判断

訂正が形式的な方法に反している
しかし訂正内容が次のいずれかに該当する場合
→遺言は無効にならない

無効にならない訂正内容

ア 訂正箇所が遺言事項ではない

イ 訂正前後で遺言内容が異ならない訂正箇所は遺言事項であっても良い

日付の年号の訂正と有効性判断事例

遺言の日付部分の訂正に方式違反があったケースを紹介します。
訂正の方式とは別に『日付』は自筆証書遺言の方式の1つです。このルールに関する解釈として,誤りがあっても救済することがあります。
詳しくはこちら|自筆証書遺言の『日付』の解釈と判断基準や具体例
結局,訂正(変更)の方式違反があっても,日付の特定が可能であれば有効となる傾向があるのです。

<日付の年号の訂正と有効性判断事例>

事案

『H』の1字が抹消され『平成』が記載されていた
法定の方式に反している

裁判所の判断

特定の日付を指していることは明らかである
→無効にはならない
※『遺言無効確認請求事件の研究(上)』/判例タイムズ1194号p52

男性と女性

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