葬儀費用の負担者

author:弁護士法人AURA(アウラ)
男性

喪主

葬儀とは,死者を悼む儀式,これに続く遺体の火葬,火葬後の焼骨の埋蔵・収蔵等の行為です。

葬儀の方法(その家によって様々です)を決め,葬儀を主宰する人を慣習上「喪主」と呼んでいます。

誰が喪主となるべきかについて法律のルールがありません。

第1順位の法定相続人である配偶者や子がなることが多いでしょうが,家族関係によってはそれができず,被相続人の両親や兄妹がなったり,内縁の配偶者がなることもあります。

葬儀費用

追悼儀式に要する費用として,遺体運送,棺桶その他祭具の購入,通夜・告別式の会場費,葬儀業者の費用,お布施,火葬費などが含まれます。

埋葬に擁す費用として,墓地・墓標の代価が含まれます。

遺産分割をする際には、よく、これらの葬儀に関する費用、いわゆる葬儀費用の清算方法が問題となります。

葬儀費用については,遺産分割時に遺産から支出するよう合意を形成していくことが多いでしょうが,何の名目でいくら払っているかが明確でないと合意形成が困難になります。

葬儀業者から明細書をもらい,できる限り内訳を明示してもらいましょう。

お布施等の領収書が発行されなかった支払については,帳簿を作成し,いつ,いくらを支払ったのか

法要・納骨費用

仏式の葬儀では,通常,「通夜」「葬儀・告別式」「出棺・火葬」「初七日」「四十九日」「焼骨の埋蔵・収蔵」という順に行われます。

葬儀費用を遺産から清算するとしても,どこまでの費用を清算するべきなのか争いがあります。葬儀費用の範囲の問題です。

例えば,四十九日法要や納骨代は,葬儀費用として清算できないとした裁判例があり,他方で,納骨までが一連の葬儀として必要な行為なので,葬儀費用に含めるべきという見解もあります。

また,墓地代や納骨堂の費用については,これは葬儀費用ではなく,祭祀承継者が負担するという見解があります。

しかし、遺産分割調停の実務上、故人への思いから、墓地代や納骨堂の代金、永代供養費もあわせて清算していることも現状では多いです。

このように、どこまでが葬儀費用として含まれ、遺産から清算されるべきかについて、考え方は十人十色です。

今後は、墓地や納骨に対する価値観が変わってきていますので、遺産から清算することができない事例が増えていくと考えられます。

昔は、家督相続人が遺産を引き受け、喪主をしていたので、葬儀費用に関する問題は起きなかったのですが、相続権が平等になった一方で、葬儀費用に関しては喪主が契約をしたのだから負担するべきという契約責任が採用され、親族間でもめることが増えています。

このようなことがないよう、例えば、墓を守る祭祀承継者には多く財産を渡すよう遺言書を作成するなど、用意をしておくと良いでしょう。

香典

香典は,遺産に対して支出されるもの,相続人全員に共有として贈与されるもの,葬儀を主宰している喪主へ贈与するものといった考え方がありますが,裁判例では,葬儀費用の一部を負担する趣旨であり,喪主に対する贈与であるから,相続財産ではないと考えられています。

これは,葬儀費用の負担者の見解のうち喪主負担説と整合します

葬儀費用よりも香典が多く,剰余金が出た場合,剰余金も葬儀主宰者(喪主)に帰属します。

したがって,剰余金の使途(今後の法事等の祭祀費用に充当するとか,福祉団体に寄付する

など)は,葬儀主宰者(喪主)の裁量によって決定できます。

葬儀費用の負担者

〈故人が生前に葬儀に関する契約を締結していた場合〉

葬儀費用は相続債務として存在するので,相続財産の中から負担します。

〈葬儀費用の負担について相続人全員で合意した場合〉

合意のとおりに負担します。

〈上記のような事情がない場合〉

解釈によって決まります。統一的な見解はありません。

・葬儀の主宰者(喪主)が負担するとする見解(有力)

・相続人が負担するとする見解

・相続財産により負担するとする見解

・慣習により定めるとする見解

まずは,香典から香典返しを控除した残額を葬儀費用に充て,足りない金額を相続人が相続分に応じて負担する(受け取る遺産から払う)ことができれば,円満に解決できるでしょう。つまり,遺産から葬儀費用や香典を清算するという考え方です。

このような考え方は,相続人全員が納得しやすく,実務上,家庭裁判所における遺産分割調停においても合意に至るケースが多いでしょう。遺産の中から清算をすると判断した裁判例もあります。

しかし,この扱いについては明確な法律上の根拠がありません。

近時の裁判例では,香典で足りない金額については遺産から清算できず,喪主が負担するといった結論をとるものが散見されます。

その理由としては,葬儀費用は、あくまで死亡後に喪主が契約をして発生した債務であり,故人の債務とは言えないというものです。葬儀会社を頼んだ人が責任をもつべきということです。

重要なのは,葬儀費用の負担をどうするかについては明確なルールがなく,相続人によっては考え方が異なるため,後でもめるかもしれないということを事前に認識しておくことです。

喪主になったとはいえ,一人で進めるのではなく、相続人間で合意しながら進めていくべきです。

清算のポイント

葬儀費用を喪主の負担とする裁判例が存在しますが,そのような類いの紛争は,自分たちが何の相談も受けずに実施された葬儀費用を負担することについて感情的な反発がきっかけで事件化したものです。

葬儀の内容を共有しつつ,お金の流れを明確にすれば,相続人間で葬儀費用を清算する合意ができないわけがありません。

葬儀に関する費用の範囲については,相続人によって考え方が分かれ,墓石も当然必要という考えもあれば,納骨堂でよいという考えもあるでしょう。意見が対立する費用の支払を遺産から支出すると紛争はますます拡大するでしょう。

そこで,遺族間の紛争を回避するためには,次の点に留意すべきです。

・誰が喪主になるのかをきちんと協議する。

・遺産や香典の管理用の口座を決める。

・明細書や領収書を管理・保管する。領収書がなければ帳簿を作成する。

・墓石費用など高額な支払について同意が得られない場合には、立て替えを検討する。

葬儀の収支(葬儀費用と香典)の税務的扱い

収入としての香典・弔慰金などは,贈与税・相続税・所得税のすべてが非課税とされています。
支出としての一般的な葬儀費用は,相続税算定において遺産総額から控除できます。

ただし,香典返しの費用は,葬儀費用として相続税から控除することができません。

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その他、ご不明な点がございましたらお気軽にお問い合わせください。

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